令和3年度改正の電子帳簿保存法について

以前、Twitterにグダグダとアップした電帳法改正の話。

国税庁による電子帳簿保存法の使い方について考えてみた。
僕がたどり着いた結論、それは「国税庁の狙いは今回の通達4-14にある」ということ。

つまり、国税はデータをダウンロードしたい
この結論に至った理由は3つある。

一つは、2020年の年初頃に受講した袖山喜久造氏のセミナーで「税務調査の際、データのダウンロードは断って良いですよ。」と話していたこと。国税出身である袖山氏がそういうのだから、実際に帳簿や書類のダウンロードはこれまで強要されなかったんだと思う。
次に、7月に公開された改正電子帳簿保存法一問一答において、PDFタイトルで管理する方法やExcel索引簿で管理する方法という2つの謎の抜け道が突如として公開されたこと。一見すると大がかりなシステム導入ができない小規模事業者への救済措置のように見えるが、ダウンロードの求めに応じることが前提条件。つまり国税はダウンロードさえできれば真実性や検索性など細かいことは気にしていないということだ。
そしてもう一つは、今回の法改正が実務に与える影響が極めて大きいにも関わらず、国税による布教活動がほとんど行われていないこと。これはかなり穿った見方かもしれないが、要件や定義をハッキリさせすぎない方が国税庁にとって都合よいのではないかと考えた。詳細な要件を定義し明言するほど納税者の逃げ道を拡げることとなるため、あえて曖昧で中途半端な状態で放置しているとは考えられないだろうか。
事実、国税某地域局に「保存されているのが電子取引データなのかスキャナデータなのかを判別することができるか?」を問い合わせたところ、「それを判別するツールのようなものは無いため、会社で規定を設けるなどして不適切な管理が行われないようにしてほしい」という回答であり、こうした細かな論点は各社の運用に任せる構えだ。

ここで冒頭に述べた通達4-14を見てほしい。
『電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)』の解説がわかりやすい。「税務職員からの(中略)ダウンロードの求めに対し、その求めを受けた保存義務者が求められた一部分しかそのダウンロードに応じない(一部でも応じない)ような場合は(中略)各税法に基づく帳簿書類の保存がなかったこととなる

要は細かな論点は各社の運用に任せておくものの、通達4-14解説末尾に「質問検査権の規定に基づき(中略)その他パソコンに存在する取引に関するメールやメモデータといった電磁的記録についても提示又は提出を求める対象となる」と書いてある通り、調査の際に怪しい部分が見つかれば、その時は根こそぎやる構えだ。

ここ数年で電子取引は格段に増えたにもかかわらず、袖山氏の言うように国税はデータをダウンロードする根拠を持たなかったため、それを得ることは悲願だったと考えられる。
だから今回の法改正は納税者のDX促進が狙いと言いながら、なぜか電子取引は運用を締め付け、スキャナ保存は大幅緩和する内容となっているんだと思う。こうすれば、とりあえず多くの帳簿・書類がデジタルに保存されるようにはなるからだ。

保存書類や帳簿の真実性について国税が一定のルールを設けようとするのは、ある程度仕方あるまい。納得はできる。ただ、検索性のルールを外野が定めるのはどうなのだろうか?使用するツールは各社同一ではないので、ある帳簿内容から書類を呼び出すにあたっては仕訳番号や起案部門、プロジェクトコードなど様々のはずだし、国税としても迅速に提示さえされれば何の問題もないはずである。

こうした無茶な制度設計のため、今年度改正が施行される1月1日からは、これまで電子で請求書等を送付してくれていた取引先が紙運用への回帰を求める動きが出てくる可能性があることには充分警戒しておく必要がある。電子取引の電子保存は受信側だけでなく送信側にも適用されるためだ。先に述べた通り、電子取引は紙出力が禁じられ、スキャナ保存は適正事務処理要件が無くなるという大幅緩和したため、この方向で動くインセンティブは大きく高まったと思う。このような動きが取引先で起こった場合、書類受領を電子に寄せることによりテレワークしている会社には打撃となる。

一応、解決策はある。「書類の送付は従来通り電子でお願いします。御社が紙保存する方針であれば、電子で送信したものを紙でも発送することとしてください。」とお願いすれば良い。
僕自身が国税に問合せした限りにおいては、紙と電子の両方で同一の書類を授受している場合、どちらを原本として保存するかは任意という見解だからだ。税務通信でも似たような見解が書かれていた。必ず同一である必要がある点は注意が必要だが、ひとまずこれでテレワークの瓦解は回避可能だ。


またダラダラと長文になってしまったのでひとまずここまで。
次回は会社における実運用はどうあるべきか考えていることを書く。

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