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台北・バスキング・デイズ vol. 2

台北芸人誕生!!  前編

 台北についた翌朝、といっても昼前、まだ新しい元号が発表されていない時間帯に目覚めた私は買い物に繰り出した。

バスキングに必要な機材は全て持ってきているが、どうしても飛行機で運べないものがあった。それは、バッテリーだ。

飛行機に搭乗する際に安全性の問題から持ち込めない規則になっているが、厳密にいうとあるサイズまで持ち込み可能である。しかし、私の機材を満足な時間稼働させるには不十分なサイズだ。それに持ち込み荷物の重量が増えると追加料金を払わされてしまう。これらのことを考えると現地調達が最善策であろう。

今回、全く不慣れな土地で、しかも英語で検索しても情報が得れない場所で、バッテリーを購入するという難易度の高いミッションを控えていたが、この情報もなんと事前に入手することができた。よく河原町で演奏されているソロギタリストのぷう吉さんに相談したところ、町の西側、淡水河沿いを走る道路に沿ってバッテリーを売っているお店があるとのことで、実際に足を運んでみたわけだ。

店名を聞いておけばよかったかなと思いつつも、その通りに出ると、ずらっとお店が並んでいた。お店といってもどれも個人商店で、自分の店の商品が道路側まで溢れ出していて、かといってお店自体はちらっと覗けば全貌が明らかになる程奥行きがないくらいの大きさだった。

このサイズのお店が道路沿いに延々と並んでいるので、お店の名前を聞いたところでそれを探し当てるのは難しいだろう。

個々のお店はそれぞれなんらかの専門店なのだが、中には椅子しか置いていない店もあった。大手のデパートでも置いていなぐらい、椅子の種類は豊富で、確かにこの中から自分にあった椅子を探せるかもしれない。販売戦略としては間違っていないのではないだろう。

そんなことを考えつつバッテリーを売っているお店を探しながら歩き続けた。あるお店の歩道にはみ出た商品群の中にようやくお目当のバッテリーを見つけることができた。若い店主に「もっと大きいサイズない?」と簡単な英語とジェスチャーで聞いてみる。

そうすると、これはどうだと、店の床に置いてあった段ボールから取り出したのは「YUASAバッテリー」という高品質で知られたバッテリーだった。ちょうど20Ahほどで、私の過去の経験からこれぐらいのアンペアがあれば、連続5時間ぐらい演奏しても電力切れになることはない。まぁ、それほど長時間演奏しきる前に体力が尽きると思うが。

じゃあ、それくださいと伝えると、店主は電卓をぽちぽち押して「1300」という数字を見せてきた。日本円に換算すると大体4700円ぐらいか。ま、今回初導入の新しい機材がどれほど電力食うか未知数だし、「大は小を兼ねる」ってことで、これで手を打つか。

こうしてファーストミッションを終えた後、宿に帰ると新元号が発表されていた。まだ日本を出発する前に発送したCDが到着していなかったが、バスキングに出ることにした。

勿論主戦場は西門町。荷物をまとめ、昆明街をひたすら北上していく。今回のバスキングは使用する何もかもが新しく、その新システムに対する期待感が大きかった。

スピーカーはベリンガー B210Dで200w。昔メルボルンで50wのアンプから200wのベリンガー アンプに変えたら、それだけで売り上げが倍になったことがある。周囲の騒音が大きいほどワット数は大事なのだ。

もともとバスカー仲間のチャパ君にもらった300wのベリンガー アンプを持っていたのだが、久しぶりに実家で音を鳴らしてみようとスイッチを入れたら、風呂に入ったら冷水だった時に出る声のような音を出してたので、今回新しく購入することにした。

そして、電源ケーブル。これはせっかくの機会なので試してみようと思い購入したOYAIDEのケーブル。なんとお値段1万円。ベリンガーに付属していた電源ケーブルと比較すると音質に驚愕するほどの差があった。

続きまして、ピックアップシステム。これもぷう吉さんの紹介で熊本でTidemarkというお店をやられている中本さんにつけてもらったものだ。しかも、ミキサー付きで。勿論それなりに値は張るのだが、音質というのは収益を左右するほど重要なので、講師時代に夏のボーナスを全て注ぎ込んで購入した。

そして、何と言ってもギターだ。メルボルン時代にバスキングの稼ぎだけでオーダーして製作してもらったジャックスピラギター。前のギターは演奏しているとどんどん背中が痛くなってくるという弾きにくさや音のバランスなど不満を抱えながらバスキングをしていたものだが、それらの問題を全てクリアしているギターなのだ。

これだけの期待感があっても、少しは緊張感があるものだ。何せ警察によく止められるという話で、警察に止められては場所を変えながら、バスキングを展開していくという流れになるとのことだ。

西門駅の出口に着いて、道路の向かい側を見てみると紅樓という日本統治時代に建設されたという赤レンガの建物が見える。そして、視線を横に動かしていくと、警察署が。

西門町は台湾屈指の繁華街らしいので、警察もさぞかし気合が入っていることだろう。ここは流石に危険か、と思ったが、人が結構多いので、ものの試しにやってみるか。

もし、警察に見つかったら真摯に謝ろう。とりあえず、警察から確実に見えない反対側へと移動し、準備を始める。駅周辺には待ち合わせをしていると思しき人たちが携帯をいじりながらたむろしている。

この光景は、渋谷で見たことあるな。どこの国でも変わらないものなのか、と考えつつ、機材を広げていく。

そう言えば、2年ぶりのバスキングなのにセッティングしていくのに全然ためらいがない。やはり、メルボルン時代の怒涛のバスキング生活での習慣が脳に刻まれているのかもしれない。バスキング脳だね。

コンビニで買ったノートを一枚破りとって、そこに自分の名前とチップよろしくと英語で書いて、地球の歩き方を参考に中国語で「日本から来たよ〜」と書いたものをギターケースに貼り、ようやく臨戦態勢だ。

と思った矢先に一人の男性がギターを指差して、どこのメーカーか聞いてくる。聞けば、その人はアメリカで修行した帰りでこれから、この土地でギター工房を開いているそうな。

男性の名前はタイで、工房名は「タイフーン・ギター」。「工房名は自分の名前から来ているんだ」と誇らしげに語っていたので、「しかもタイペイでな」というツッコミを入れそうになったが、やめておいた。

台北初バスキングなんだよ。

水差すんじゃねーよ。

男性に別れを告げ、ギターを担いだ。バッテリーを繋いで、アンプ、ミキサーの電源を入れていく。

さぁ、戦闘開始だ。

続く。

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