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台北・バスキング・デイズ vol. 6

バスキング飯 !!

異国の地に長期間滞在する際にもっとも重要なことのひとつとして、自分がその土地で満足な食生活を送れるかどうか、ということが挙げられるんじゃないだろうか。

物価の高いメルボルンでは、ラーメンセットが30ドル(2400円)もするので、自ずと自炊に行き着いたが、マーケットで安くて良質の食材が豊富だったので、全くもって不便は感じなかった。

しかし、今回滞在しているこの台湾は、食事も美味しければ、物価がとても安いことで有名だ。

町をふらりと歩いてみると、色々な飲食店が所狭しと並んでいる。こんなに競合相手が多くても、商売成り立っているんであろうかというほどの数だ。

大抵店の外側からでも壁にかかったメニューを見ることはできるが、中国語のみで書かれている場合がほとんどなので、どんな料理なのかは見当がつかない。飯なのか麺なのか、牛なのか鶏なのか、が時々わかるくらいだ。

もちろん、台北は観光地でもあるのでメニューの下に英語や日本語で説明文が記載されているケースもあるので、使われている食材と料理法がはっきりと明示されている場合もあるが、それでもやはり異文化の料理の味を推測するのは難しい。

私自身は全くグルメということはなく、珍しい食材や抜群に美味しい料理に関心があるわけではない。体力勝負であるバスキングに備えれるほどの栄養が補給できて、ある程度の味である程度の量をある程度の値段で堪能できればそれで良いのだ。

「臭豆腐」のような凶と出るか、吉と出るかという冒険をしたいという気持ちはさらさらない。そんな無難志向な私が最初に目をつけたのが、西門町でふらりと入ったお店にあった「海南チキン」という料理だ。

ハイナニーズチキンと読むが、この料理はとても思入れがある。メルボルン時代に、今ではすっかりメル友である、バスカー仲間のチャパくんと、今をときめくバケツドラマーのマサくんの三人で、よく夜のバスキング終わりにメインストリートであるスワンストンストリートに位置する「China bar」で、その料理を毎晩のように食べていたものだ。

蒸した鶏の肉をチリソースやコリアンダーソースをつけて食べる料理なのだが、当時緑色のコリアンダーソースの味が自分にとって衝撃的に斬新に感じたのを覚えている。なので、その料理をメニューに見つけた時は、とても懐かしさを覚えるとともに、まさかこんなところで会うなんてと驚いたものだ。

私はいつも昼前に起床するので、朝食と昼食を合わせたブランチをそこで取るようにしていた。また、夕方からはバスキングで、できるだけ集中力を保ちたいので、昼食以降は夜にバスキングが終わるまで一切食事を摂らないようにしたかった。

よって、昼食後空腹にならない程度の十分な食事量を確保するべく、その店では海南チキンのライス大盛りを注文していた。その大盛りのライスに、各テーブルに置いてあるラー油のようなチリソースをふんだんにかけることで、まったく大量のご飯に飽きることなく、毎回完食していた。

そして、目論見通りに、バスキングが終わるまでは一切食事を摂らずに水分補給だけで過ごしていたのだ。

バスキング終わりにはホステルの近くにあるコンビニにて、インスタントラーメンを買っていた。どれか美味しいものはないかと思い、毎回二つぐらい購入して、色々味を調べていたのだが、もっとも美味しいと思えたのが「満漢大餐-麻辣鍋牛肉麺」というものだ。

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唐辛子ベースのスープであるが、舌に痛いほどではなく、レトルトのチャーシューもとても美味な上、麺の舌触りがとても良い。日本へ輸入したらすごく人気が出るんじゃないだろうか。

ちなみに、同社の別の味も試したが、二つともこれと言って特筆すべきことはないというものだった。唐辛子スープだけ突出して美味しかったのである。

バスキングへのエネルギー供給源を昼食の海南チキンのみに頼っていた私だが、さらに集中力を上げるため、その実「スーパーイタコモード」の持続時間を延ばすため、バスキング中に糖分補給ぐらいしても良いのではと思い始めた。

そこで、思いついたのがコーラである。某格闘系漫画で試合前に炭酸抜きのコーラは糖分補給に最適だとか描写されていたし、ちょうど最寄りのコンビニに1000mlのペットボトルが置いてあったので、それを試しに導入することにした。

バスキングでは、人によるかもしれないが、一度その場所に機材を広げると、中々トイレに行きにくい。よって、過剰な水分摂取は控えるべきなので、バスキング中にコーラと水を交互にちびちびと飲んでいた。

イマイチ効果はわからない。ただ、バスキングが終わると、その時の自分へのご褒美のように残ったコーラをその場で全部飲んでいた。

そして、帰りのコンビニでもコーラを購入し、ホステルのオープンスペースでまったりとネットを楽しみながら、コーラをぐびぐび飲んでいる。ある時、はたと気づくわけだ。「ひょっとしてこれってコーラ依存症じゃねぇか」と。

そもそも、このコーラ作戦効果あるんだろうかと思い、ネットで検索してみたところ、試合前に多くの糖分を摂取すると、インスリンが分泌されすぎて、試合中に眠くなります、と書いてあった。あぁ、これ高校の生物の授業でやってたやつじゃん。教える側だけどね。

その他にも1日にコーラを二缶飲む生活を一ヶ月続けてみたっていう検証サイトなんかもあったが、実験者の人は肥満体になったのみならず、コーラが手放せない体になったとか。一缶350mlが二本でそれほどの威力だったら、その3倍の1000mlを二本も飲んでいたら、ただじゃ済まないだろう。

帰国時に荷物検査で「薬物所持してませんか」と、スーツケース開けられたときに、コーラがころんと転がり落ちて、麻薬犬がワンと吠え、即お縄という図式が浮かんでくる。これは、コーラ作戦却下だな。その日以来すっぱりとコーラ断ちをした。

それにしてもバスキング終わりには何か自分へのご褒美が欲しいと思っていたところ、「台北牛乳大王」のことを思い出した。「地球の歩き方」にはパパイヤミルクがお勧めとあったので、これを試してみるかと思い、何なしに店を訪れ、飲んでみたのだが、普通に美味しかった。

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それからというもの、バスキング後は毎回台北牛乳大王でパパイヤミルクを飲むようになった。そのおかげで、今では入店すれば店員さんが「パパイヤミルクよね?」と聞いてくれて、帰るときには「じゃあね」と手を振ってくれる。

ある日、海南チキンを食べるべく、西門町に向かって昆明通りを歩いていたら、帽子をかぶった白髪の男性に声をかけられた。

ちょうどそこは「156飯包」というお弁当屋さん兼食堂で、以前からショーウィンドウから見える数々の美味しそうな惣菜が気になっていたのだ。

店主と思しきその男性が、「へい、そこの兄ちゃん」といった感じで話しかけてくるが、全て中国語もしくは台湾語なので何をいってるのかよく分からない。英語も全く通じないのだが、全く気にするわけでもなく、まくし立ててくる。

ショーウィンドウに陳列している惣菜を指差した後に三本指を立てて、さらに惣菜エリアの隣に積み上がっている揚げた鶏肉や魚の料理を指差して、指を一本立てている。

要は、惣菜は三種類選べます、そして追加でメインの肉料理を選んでくださいってことだ。物は試しってことで、注文してみたわけだが、惣菜にはニラを炒めたものや、ナス料理、麻婆豆腐なんてものもあってメニューは潤沢に選べる。

そして、ずっと気になっていたのが、座布団のようなチキかつだ。座布団という表現は若干誇張が入っているが、俗に言うわらじのようなかつなんかと比べても一回りふた回りはでかい。

西門町を歩いていると、このチキンカツを頬張りながら歩いている人を見かけ、是非とも食べてみたいと思っていたのだが、いざお店を見つけると、あまりの行列に、待つくらいだったら食べれなくてもいいかと思い、早々に諦めていたのだ。

せっかくのチャンスなのでこれを機にトライしてみるかと思い、注文を済ませた。

いざ、すべての惣菜がトレーに盛られているのをみると、圧巻とも言えるボリュームであったが、そのお値段なんと100元(360円)ポッキリであった。

これにおかわり無料のスープも付くなんて最高じゃないですか。チキンカツの味もさることながら、他の惣菜の味も申し分ないぐらいレベルが高い。

ご飯は日本のお米に比べると、まったく味っ気がしないのだが、惣菜の味付けが全体的に濃いので、惣菜と一緒にご飯を口に入れると、とてもマッチするのだ。すっかり気に入ってしまって、200元(720円)はする海南チキンライス大盛りは取りやめ、宿から近く、色々な野菜も摂取できて、なおかつ安いこの店に通い始めた。

最初の頃は、超特大チキンカツを食べていたのだが、ショーウインドウの中で、チキンカツの隣に山と積み上げられていた、巨大フライドチキンも試してみたくなった。これが食べてみるととてもジューシーで濃厚な味だった。すっかりこのフライドチキンにはまってしまったのである。

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始めの方は昼だけこのお店に通っていたが、夜ご飯もご相伴に預かることにした。もし、コンビニで麻婆豆腐丼を買えば、60元(200円)ほど、スープがわりに「満漢大餐-麻辣鍋牛肉麺」を買えば、これは50元ほどだ。他のものを組み合わせても腹は膨れるかもしれないが、それよりも少ない値段でお弁当を食べに行った方が遥かにコスパをいいはずである。

ただ、難点が一つあって、すっかりと常連客になってしまった私に、店主がいつも話しかけてくれるのだが、全くもって何を言っているのか分からない。

どうにもならないので、自分の頭の中で自動翻訳、つまり100%脳内補正をすることにした。ある日の昼食時は、「よっ、今日も来やがったな、コノヤロー」、また、ある晩には、「お前はすっかり、この店にハマっちまったな、コノヤロー」と店主は言っている、はずだ。たぶん。

この156飯包は申し分なく私のお腹を満たしてくれるのだが、残念ながら夜の8時半には閉まってしまう。よって、バスキング後に足を運ぶことができないのが惜しまれるところ。

しかし、バスキングに向かう時はいつもこのお店をギターを担ぎながら通るので、店主に「今晩はもう来ないのか、コノヤロー」とか「お前の好きなフライドチキン無くなっちまうぞ、コノヤロー」と声を掛けられる。

そんな時は、申し訳なく思いつつも、また、明日は来るからと、コノヤロー、コノヤローと言ってる親父さんの言葉を背に感じつつ、先を急ぐのであった。もし、バッパーにキッチンが完備されていたら、適当な料理を作りつつ、節約に励めたかもしれないが、とりあえず食生活には十分に満足できている。

しかし、私は本当は知っているのだ、台北の西側で淡水河の近くにある食堂で10元(36円)で食事を提供している場所があることを。そんなところ怖くて行けないけど。

続く。

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