ショートコント『人間ドッグ』

私はいままさに人間ドッグを受けている。
ドッグかドックかわからないけど、濁点は多い方がかっこいい気がするので、ドッグとした。

いつからかは特に覚えていないけど、個人情報保護の観点などからか、受診者には番号が与えられ、番号で呼ばれ続ける。まるで囚人みたいに。

昔はよくテレビとかで、イケメン芸能人と同姓同名の一般人が、病院とかで名前で呼ばれたときに、周りからすごい目で見られて恥ずかしかったみたいなエピソードをよく聞いた気がする。

ちなみに、私は83番を付けられた。
13番はさっきから何度も呼ばれているがなかなか現れないし、
55番の男性はどこか誇らしげな顔をし、
67番のおじさんは呼ばれるといつも部屋まで走る。

そして遠くから聞こえた「7番のかたー」とまさかの一桁が現れた一瞬、時が止まり、私はついその方をまじまじと見てしまった。
少し遠かったが、やや白髪混じりのジェントルマンぽい方が、ゆっくりと立ち上がり、腹部エコーの部屋に入っていく姿が見えた。
この人こそが「7番」だなと思った。
私も「7番」が与えられるような人になりたい、そう思った。

ただ、一桁ならいいというわけではない。
なぜなら、8番の方はいまだにガラケーだった。ずっと何を見ているのだろうか。

この病院のキャパ的にか、3桁以上の番号はなさそうで、いまのところ86番がMAXだ。

ここでいきなり4桁の受診者が現れたら、間違いなく皆その方を見てしまうだろう。
オプションつけすぎてなのか、自らその番号を希望したのか。
少し不安げな表情なのか、自信に満ち溢れた表情なのか。
普段はどんな生活をしているのか、本当に健康なのか。

「1億」番台もいつか現れてほしい。
呼ばれてから、返事するまでに少し時間がかかるだろうし、間違いも増えそうだ。

個々に番号を与えることで、個人の特性とは引き離された状態でパブリックな場所に存在でき、プライバシーを保てるというメリットもある。一方で番号にも意味はあって、私みたいな変なやつがその番号の意味と、その人を勝手に結びつける人もいる。

近い将来、番号も与えることなく、カルテに顔写真が載せられ、看護師が「はいお前!」と指を差し、完全に意味から剥離された呼称を実現することはできるのだろうか。いや、まだ遠いかもしれない。

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