もっとも重要な明治時代の料理書『軽便西洋料理法指南』は、誤解されている(その3)
『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』では、当時の西洋料理店で実際に出されていた料理のレシピが書かれている『軽便西洋料理法指南』を重要視しています。
ところがこの『軽便西洋料理法指南』、フランス人の口述内容の筆記本であると誤解されています
誤解というか、出版社が販売促進のために盛り込んだ「フランス人の口述」という嘘情報に惑わされているのです。
明治期の料理書を読み慣れていれば、この手の嘘には引っかかりません。外国人の口述というのはほとんど(というか全部?)嘘ですので。
それでは実際に読んでみましょう。
米国婦人リュシー・スチーブン口伝と銘打った『洋食独案内』(1886年)から、「舌鰈油煮の法」のレシピ。
シタガレイのパン粉フライですね。
続いて『洋食独案内』の6年前、1880に発行された『手軽西洋料理法』「牛舌魚(したがれい)を油煎(あぶらに)する法」
シタガレイのパン粉フライですが、あれあれ?
盗作ですね。
表現や漢字をいじっていますが盗作です。
米国婦人リュシー・スチーブンが、過去の日本の料理本を暗記して盗作、それを口頭で伝えるわけがありません。
「リュシー・スチーブン口伝」というのは、盗作本を売るために出版社がつけた嘘情報なのです。
続いて常磐木亭主人著『即席簡便西洋料理方』。“仏蘭西コックリゴー”の手記を参考にしているとありますが、その「牛舌魚(したがれい)を油煎(あげ)方」のレシピを読むと……
盗作です。
当然のことながら、常磐木亭主人著(常磐木亭というのは実在した西洋料理店)というのもあやしい。
外人の口伝であるとか、西洋料理店主人が書いたとか、いかにも出版社が自慢しそうな情報があったら、それは嘘であると疑えというのが、明治期の料理本を読む際の鉄則です。
『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』で参照した、パン粉揚げ料理レシピが掲載されている明治20年までの料理書の一覧をまとめ、公開していますが、これを読んでください。
備考欄に「~と同じ」と書かれているのが盗作本です。むちゃくちゃ多いのです。
慣れると、目次を見ただけで盗作本と判断できるようになります。
なにせ、本の構成まで盗作していますから。
『軽便西洋料理法指南』とならんで唯一盗作と判断できなかったのが洋人パイン・ベリジ口伝『洋食料理法独案内』。
その内容を『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』で分析した結果、やはり外人口伝と言うのは嘘で、日本人が書いたものと判断しています。
『軽便西洋料理法指南』については、その内容から、過去の料理書の盗作ではないと判断しました。
また、逆説的ではありますが、出版社が「フランス人の口述」という嘘情報をつけた以上、それに反して著者が繰り返し述べた「西洋料理店の実際のレシピ」であるという主張は、信用できると判断しました。