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在庫足りない状況が継続、景況感過去最低に-コロナ禍で自転車業界は本当に儲かっているか?

※データはすべて自転車産業振興協会による月次レポートから引用

約3ヶ月遅れで発表される自転車産業振興協会の国内販売状況統計によると、2020年11月の店舗あたり新車販売台数は前年同月比93.5%の減少となった。自転車業界はコロナ特需で歓喜に沸いている、と報じられるが、実態はどうなのか。

確かに、一度目の緊急事態宣言解除後の3月下旬からその後8月までの新車販売台数においては、前年までの季節トレンドから大きく上振れる販売台数を記録した。

しかしその後、9月は前年を大きく下回り、10月にはわずかに上振れたものの、11月は再度下回る、というように、例年同等もしくは以下の販売台数にとどまっている。(下表)

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上記情報から推察されるのは「9月にはコロナに伴う特需が落ち着き、通常運転に戻ったか」という仮説だが、小売店から見た実態はそこまで楽観的ではない。

小売店経営者に「景気は良くなったか、悪くなったか」を問い数値化した業況DIを見ると、販売数ピークを迎えた2020年6月以降はほぼ下降の一途を辿り、2020年11月においては過去3年間の最低値を記録している。
例年比で販売台数が多かった6~8月においても、特に「例年比で景気が良くなったという実感は薄い」というのが実態だ。(下表)

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この背景には2つの要因があると考えられる。

一つは、「コロナ特需の恩恵は一部の中〜大規模店舗に限られていた」ということだ。

下表は前年比で最も新車販売台数が伸びた2020年6月時点における、店舗規模別の新車販売台数だが、大規模店舗は対前年で+18.0台、中規模店舗は +6.2台なのに対し、小規模店舗は+0.5台の伸びに留まっており、平均すると店舗あたりの販売台数は1台すらも増えていない。(下表)

「国内販売動向調査・予備調査」(2014年)によれば、国内小売店の50%以上は小規模店舗が占める。利幅の少ない小規模店舗の多くが「景況感は良くなっていない」と感じても不思議はない。

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そしてもう一つの要因に、「需要はあるのに供給がない」という状況の長期化がある。

下図は2020年11月度における小売店から自転車メーカー/卸業者への要望をまとめたものだが、「欠品が多い」「入荷ができない」といった、つまりは在庫不足の状況が見て取れる。実はこの状況は今に始まったことではなく、販売数のピークを迎えた6月頃から徐々に悪化し、現在の状況になっている。最初は「コロナ禍にしては頑張ってもらっている」とメーカー擁護の声もあったが、半年近く状況が好転しなかった結果、「理解に苦しむ」といった辛辣な言葉も散見されるようになった。

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ではこれはメーカーの怠慢なのか、というと、そういうわけでもない。需要が衰えておらず、かつ競合も同じように欠品が相次いでいる状況は、各メーカーからしても今は千載一遇の好機ではあるが、そのチャンスを掴んで「勝つ」メーカーは未だ現れていない。

自転車という商品は、メーカーが自社で0から100までを製造しているわけではない。
メーカーは主にフレームと呼ばれる車体のみを製造し、ブレーキやギア、チェーン、ホイールやタイヤなどの各パーツはそれぞれを専門とするパーツメーカーから供給を受け、アセンブルしたものを完成車として販売している。

そのため全世界的に自転車需要が急増している昨今では、いくらフレームを自社で大量生産しようと、パーツ側の供給が追いつかなくては自転車は完成しない。

ではパーツ側の供給はどうなのか、といえば、その見通しも現状明るいとは言いきれない。パーツを増産するにしても、原料の調達、工場の稼働など多くの変数の調整が必要であり、一朝一夕で生産数が増やせるものではない。
今目の前にある需要に合わせて生産体制を拡大したとて、この需要がいつまで続くかは誰にもわからず、難しい経営判断を必要とする。

既存メーカーが思い切った生産拡大に踏み切るか否か、は今後の自転車業界を左右するが、新たなパーツやフレームの供給メーカーが出現する可能性もある。
特にパーツメーカーは長らく寡占状態が続いており、大手メーカーの供給が滞っている今は、その牙城を切り崩すチャンスとも言えるからだ。

関係者に話を聞く限り、今はどのメーカーもほぼ横並びで「供給問題」を抱えている。脅威を機会に変えるプレイヤーは現れるのか。


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