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「太陽と木星」に似た惑星系が見つかる

太陽に非常に似た恒星の周りに木星に似た系外惑星を含んだ惑星系を発見したという研究が公表されました。

この研究は2023年3月2日にプレプリントとしてarXiv.orgに投稿され、3月3日に公開されました。研究はブラジル・サンパウロ大学のThiago Frerreria氏を筆頭とし、ブラジル、アメリカ、イタリアの研究機関の研究者が参加した国際共同チームによって行われました。

[2303.01358] A Jupiter analogue and a cold Super-Neptune orbiting the solar-twin star HIP 104045 (arxiv.org)

研究の内容は次のようなものです

  1. 太陽系から175光年の距離にあるソーラーツインの恒星であるHIP104045を公転する2つの系外惑星を発見

  2. 内側の惑星は海王星と土星の中間の質量で、公転周期315日

  3. 外側の惑星は土星と木星の中間質量で公転周期6.3年。

HIP104045系(上段)と太陽系(下段)の比較。横軸が軌道半径(単位:天文単位)、円のサイズは惑星質量を表す(円の半径が質量の6乗根に比例)

外側の惑星は質量と軌道の双方が木星に似ています。木星を少し小さくして少し内寄りの軌道にしたような惑星です。惑星系内側領域の様子は太陽系とは異なっており、太陽系で4個の岩石惑星が存在する領域に1個の小さめの巨大ガス惑星が公転しています。

ソーラーツイン

ソーラーツインという用語の統一された定義はありませんが、太陽類似星(ソーラーアナログ)の中でも特に類似性の高いもののことを指します。ソーラーツインでは、最も詳細に研究された恒星である太陽との比較研究が可能となることから高い関心が払われています。

ソーラーツインは「ツイン=双子」という名に反して、「他人の空似」です。というのも恒星、特に主系列星は質量さえ同じであれほとんど同じような半径・光度・温度に帰着するという特徴があります。質量のただ一点が太陽に似ていれば他の性質も自動的に太陽に似るので「他人の空似」が起きやすいのです。

太陽とHIP104045の比較


HIP 104045が太陽に似ているのは第一にはその質量が太陽の1.03倍という太陽と3%しか違わない値になっていることが要因です。半径・有効温度・光度・平均密度は恒星の質量に付随してほぼ決まる要素なのでこれらの値も太陽に似たものになっています。これに加えて、年齢や金属量という質量に依存しない要素も偶然にも太陽に似ているため全体としてソーラーツインの中でも特に太陽に似た恒星となっています。

惑星b

今回発見された2つの惑星は系外惑星の標準的な命名規則に従って内側からHIP104045b, HIP104045cと名付けられました。以下それぞれ「惑星b」「惑星c」と称します。

今回発見された2つの惑星のうち内側の軌道にあるHIP104045bは、

  • 下限質量が地球の43+/-10倍

  • 半径0.9天文単位(1天文単位=地球太陽間の距離)の円軌道を311日で公転

という特徴があります。「下限」質量というのは、観測に用いられた視線速度法に「軌道傾斜角を決定できないと真の質量が分からない」という特性があるためです。地球の43倍という質量は、太陽系の惑星と比較すれば、海王星の質量(地球の17倍)と土星の質量(地球の95倍)の中間です。視線速度法では惑星の周期と下限質量しか分からないため、この惑星bのサイズや密度は不明で、土星のような巨大ガス惑星と海王星のような巨大氷惑星のどちらに近い組成なのかは分かりません。しかしその質量が岩石惑星が取りうる範囲を超えていることは確実です。

また、惑星bの公転周期は311日で、地球の公転周期=1年である365.25日にかなり近い値です。軌道半径は地球よりわずかに小さく0.9天文単位です。
HIP104045系のハビタブルゾーン

保守的な基準 : 0.998-1.758天文単位
楽観的な基準 : 0.790-1.855天文単位

の範囲に拡がっていると計算されています。
楽観的な基準に基づくなら惑星bはハビタブルゾーン内に軌道があり、保守的な基準に基づけばハビタブルゾーンから高温側にはみ出しています。

このため仮に惑星bが地球型惑星(=岩石惑星)ならばその表面が海に覆われている可能性があったのですが、前述のように惑星bは下限質量が地球の40倍に達する惑星なので惑星b自体が地球に似た表面環境を持つ可能性はありません。仮にその周囲に地球サイズの衛星が存在していればそこが地球に似た表層環境になる可能性もあるのですが、そのような衛星を観測する技術の存在しない現代では空想の域を出ません。

惑星c


今回発見された2つの惑星のうち外側の軌道を公転するHIP104045cは、公転周期の長い木星型惑星です。

  1. 半径3.4天文単位の軌道を6.3年周期で公転している

  2. 下限質量は木星の0.498倍。

この惑星の特徴は太陽系の木星型惑星を彷彿とさせる長い公転周期を持つことです。

これまでに発見された木星型系外惑星の多くは

  • 公転周期10日以下のホットジュピター、

  • 公転周期10~300日程度のウォームジュピター

に占められており、数年以上の公転周期を持つ惑星は長期間の観測データの蓄積が必要なこともありまだ珍しい存在です。

なお観測データの不足のため惑星の軌道がどれほど楕円になっているかはよく分かっていませんが、惑星cの軌道は真円かまたはそれに近い可能性が高いと考えられています。軌道が真円に近いという点も、この惑星が木星にに似ていると言われる理由の一つになっています。

惑星cの軌道半径は3.4天文単位で、太陽系に当てはめれば小惑星帯の外縁辺りに相当する距離になります。太陽系の木星(公転周期12年、軌道半径5.2天文単位)と比べるとやや軌道半径が小さく短周期ですが、研究チームはこの惑星を木星類似星 (Jupiter analogue) だとしています。

なお惑星cについても質量は下限質量しか分かっていません。その下限質量は木星の0.498倍(地球の157倍)という値です。これは木星と土星の中間であり、惑星cは木星や土星と同様の巨大ガス惑星である可能性が高いです。

ソーラーツインの難揮発性元素過剰問題

これまでのソーラーツインの研究では、ソーラーツインの元素組成(元素相互の相対比)は太陽と異なって難揮発性元素(=気化温度の高い元素)が多く含まれる傾向が見られ、太陽は大半のソーラーツインと比べて難揮発性元素が少ない異常な元素組成を持つことが示唆されています。

この「ソーラーツインの難揮発性元素過剰問題」の理由としては、いくつかの仮説があります。

  1. 分析方法の欠陥による系統誤差

  2. 太陽が特異な元素組成を持つ星間物質から生まれた

  3. 難揮発性元素の多寡は恒星に落下した惑星を反映している。


特に、3.の仮説に立てば太陽系は主恒星に落下する難揮発性・岩石質の物質(=岩石惑星・ガス惑星のコア・ダストなどを含む)が通常の恒星と比べて異常に少ない特異な形成過程を経て生まれたという可能性が生じることから惑星形成論の観点からも注目されるトピックです。

なおこの問題がソーラーツインに限定されるのは、単純に、他のタイプの星では難揮発性元素の過剰を判別できるほど高精度な元素存在比の測定が困難だからです。

ところでHIP104045は難揮発性元素の過剰性があまり強くない珍しいソーラーツインで、大半のソーラーツインと太陽の中間的な元素組成を持つことからこの謎を解明する手掛かりになることも期待されています。



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