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物証がないと終わらない仕事

「警察もの」をテレビで見ることがある。事件が起きると現場に行き、証拠と証言をあつめ、紆余曲折があってのち犯人を特定、逮捕する。捜査のキーポイントは物証である。

数か月前、ショッピングセンターの駐車場で物損事故を起こした。車をバックさせたとき、すぐ後ろに後続車があるのに気がつかず、ぶつけてしまったのだ。

前の車が空きスペースに駐車しようとバックしてきた。「おいおい、通り過ぎてから急にバックしてくるんじゃないよ」とブツブツいいながらも、しかたなく、今左に曲がってきた通路をそのままなぞってバックしようとした時だった。コツンと、ごく軽い衝撃を後ろバンパーの左あたりに感じた。

「ああ、やっちゃったよ」

後ろのクルマはホンダのミニバン。わたしのはトヨタのワゴン車、駐車場の係員を呼んだあと、警察に電話した。保険請求には警察届がいる。

交番の警察官ふたりが着いて、わたしとミニバン氏が状況を説明すると、ひとりがそれをメモする。

「当たったのはどこですか」

年長の警察官が後ろバンパーの左側を見る。曲がり角だったから、ミニバンは前バンパーの左だという。

ワゴン車を買って3年あまり、運転は上手な方じゃないから、あちこちにすり傷、へこみがある。ミニバン氏も同じらしく、バンパーに小さな凹凸が見える。

「ここと、この傷ですかね、当たったのは」
「でも、高さが合わないでしょう」
「じゃあ、これかな」
「こんなに大きなへこみができるほど強くぶつかってないですよ」
「これはどうだろう?いや、古い傷だなあ」

時間がすぎる。ケガはないし、ごく小さな物損だし、当事者は認めている。証言はあっても、その証拠が特定できないと彼らの「仕事」は終わらない。

「じゃあ、これとこれですね」
小傷を選んで、同意を求める。

ミニバン氏は子連れだし、わたしも早く帰りたい。
「はい」と返事した。

はて、不幸な「冤罪事件」もこの類なのだろうか。

後日保険屋から「ミニバン氏から修理の連絡がないので、物損はなしということで手続きします」と電話があった。


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