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非常識を常識に変える

2021年の1月からキャディ株式会社で働き始めました。皆さんがやっているような入社エントリを書こうかとも思ったのですが、あまり面白い話にならなさそうだったので少し趣向を変えてみます。今、自分が成し遂げたいと思っている事と、それがなぜキャディでできるのかという事について。

キャディのミッション

キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する(Unleash the potential of manufacturing)」というミッションを掲げています。日本はかつて「技術立国・製造立国」と言われ、製造業が日本の産業を牽引していた時期がありました。今でも多くの割合を占めていますが、国際競争力は昔に比べると落ちて来てしまっていると言わざるをえません。

それにはさまざまな理由があると思いますが、我々は「本来持っている力を十分に発揮できていない」と考えています。例えば、製造以外の、見積業務や受発注管理業務に忙殺されたり、ネットワークが限られているために十分に営業力を発揮できない、など。そういった縛りを解き、本体持っているポテンシャルを解放することで日本の製造業はまた輝きを取り戻すと考えています。

そしてそれが実現した世界では、製造業の業界が従来の下請けピラミッド構造から、強みに基づくフラット構造へ転換しています。製造側は自分の強みのある分野を活かしながら多様な顧客と最小限のオーバーヘッドで取引ができる。これは相対的に発注元の顧客の力が弱まるということではなく、顧客側にも、得意分野を持つ製造パートナーを多数組み合わせながら、品質・コスト・納期を最適にコントロールできるというメリットがあります。そうやってwin-winの関係を作ることができると考えています。

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モノづくり産業のポテンシャルが解放された世界

これが実現された世界ではこれまで常識だったことが覆っています。まだ仮説の段階ですが、いくつか例をあげてみましょう。例えば「見積もり」の概念がなくなっている。発注元の顧客が欲しい部品の図面を入れたらすぐに最終的な「価格」が出て来ます。出荷開始時期に応じていくつかのオプションが表示されるかもしれません。少し待っても良ければより安価に手に入れることもできたりするのを顧客が選ぶことができます。

別の仮説としては「納期」がなくなっている。これまでは「この部品を何個いつまで」というオーダーでした。特定の数を納める期日を決めて、まとめて納入する形ですね。これが「1日あたり何個」でオーダーできるようになります。いつまでそれを続けるか指定しても良いし「止めるまで作り続ける」ということでも良いでしょう。

要するに部品のサブスクリプションですが、納入の頻度と数を指定して、必要なくなったらその時点で止めれば良い。途中で頻度や数を変えることも可能です。発注側はどれくらい売れるか事前に見積もらずに発注開始できますし、発注側も製造側も余計な在庫を持たなくて済みます。場合によっては途中で製造業者が変わることもあるでしょうが、キャディが品質や定期的な納品を担保しているので心配は要りません。発注側は変わったことすら気がつかないでしょう。

キャディはそんな世界を実現するためにメンバーが一丸となって日々議論を重ねていて、それを "Whole Prouduct"という形でまとめています。Whole Productに関しては 「The Whole Product-CADDiのサービス開発を貫くPhilosophy」 もご参照ください。

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我々はそんな世界を目指しているわけですが、「見積もりがなくなる」とか「納期がなくなる」とか言うと「お前らは製造業がわかってないな」とおっしゃる方もいるかも知れません。確かに今すぐにそれらを無くすのは非常識です。取り去ったら全然動かなくなる、それくらい今の仕組みに組み込まれた概念です。でも、そういう常識を一旦切り離して「無くなったら良くない?」という仮説を置いてみて、それが本当に良ければ実現する方法を考えれば良い。常識を崩していくためには仕組みづくりからしなければならない場合もありますが、そこも含めて「新しい常識」を作っていく。そんな仕事をキャディでしたいと思っています。

常識に囚われる

「常識」の力がどれだけ強いのか、かつて働いていた電機メーカーでのお話を少ししたいと思います。当時所属していた研究所のブレストのお題として「将来の音声圧縮技術の応用」というのが出されたことがあります。MP3やAACなどで知られる音声圧縮の技術が進歩した時に、どの様な商品があり得るのか。

様々なアイディアが出た中で一つ印象的で今でも覚えているのが、「親指サイズに小さくなったディスクを再生するイヤホンプレーヤー」というものです。光ディスクと音声圧縮技術が進めば、CD一枚を親指サイズにできて、イヤホンの中で再生できるというアイディアです。その時に「でもそんなにディスクが小さかったら無くしちゃうよね」というコメントが出て皆で笑い合ったのですが、アイディアとしてフラッシュメモリにデータを格納するというのは出ていなかったと思います。出ていたかも知れないけど、「非常識」なアイディアとして却下されていました。

なぜなら当時のフラッシュメモリは容量も桁違いに小さく、しかも書き込み回数が限られていてとてもコンシューマー向けの商品に使える技術ではありませんでした。将来改善はされるだろうけど、イケてる光ディスクの技術には叶わないよね、という「常識」がそういうアイディアを阻害してしまっていたなと今振り返ると思います。

ここで面白いなと思うのはユーザー体験としては今のフルワイヤレスイヤホンと同じだということ。実現しようとするビジョンは間違っていない。でも実現方法が全く異なる。当時の常識にこだわりすぎていたら実現が遠のいていたという良い例だと思います。

もう一つの常識に囚われた例としては、iPod が出て来た時の話があります。売れ始めたiPodに関して、ある商品カテゴリーの企画の方が「あれは単なるブームで、絶対続かない」と断言していたのを覚えています。理由は「メディアが替えられないから」。当時の音楽プレーヤーはカセットテープでもCDでもMDでも、録音するメディアとそれを再生するデバイスが分かれているのが常識でした。「デバイス本体にメディアを組み込むことはできてもその容量に限界があるので、新しい曲を入れるのに一部を消して新しく書き込みしなければならない。そんな面倒なことは誰もしない」と。

今の人は笑うかも知れませんが、それが常識でそう思っていたユーザーも多くいたと思います。ですが、容量が増えてあるところを越えると容量は問題にならなくなる。さらにネットワークで常時繋がるという「当時の非常識」が常識になったらデバイス本体の容量は再生時間と無関係になってしまう。そうやって、かつての常識は非常識になり、非常識が常識になっていきます。

古い例なのであまり想像つかない方もいると思いますが、例えばガラケーを使っていた方々であれば、携帯電話の日本語入力はテンキーでトグル入力していたのを覚えているでしょう。あの当時の常識は今はほとんど見かけなくなりましたよね。同様に、今当たり前にあるスマホも10年後にはまったく様変わりしているでしょう。

このように、我々は常識を新しい常識で塗り替えていくことを繰り返しています。なので「今の常識」にできるだけ囚われずに思考するということはとても大事だと思っています。この note もいずれ別の物と置き換えられているのかも知れません。「noteってあったよね。当時、一生懸命書いてたよ(笑)」って言う時代もいずれ来るでしょう。

イノベーションを起こす

今では携帯電話=スマートフォンというくらい当たり前の技術になりましたが、その先鞭をつけたのが iPhoneです。その前にもスマートフォンと呼ばれていた携帯電話はありましたが、iPhoneがその定義を塗り替えました。それくらい、世界を変えたイノベーションだと思います。Steve Jobsが iPhoneを 発表した時のことを覚えていますが、欲しいなと思ったのと同時に技術的な驚きはあまりありませんでした。既存技術を集めれば作れる「想像の範囲内」のプロダクトでした。

というのも、当時勤めていた会社で同じようなプロダクトの企画に開発側メンバーとして関わっていて、似たような技術検討をしていました。そのプロジェクトは開発前にキャンセルされてしまったので日の目を見なかったのですが、予定通りだったらiPhoneより前に出ていたでしょう。ただ、いくつかの点で iPhoneよりも見劣りして結果的に世界を変えるには至らなかったでしょうが(笑)。そして、他のメーカーでも似たような商品開発をしていたでしょう。指でスムースに操作できるタッチスクリーンなど、革新的な技術はありましたが(当時の常識はタッチパッドはスタイラスで操作するもので我々もその常識に囚われていました)、指での操作も全く想像できない物ではありませんでした。

 では iPhoneは何が違っていたのか。それも様々な要因があると思いますが、「ユーザが想像できる、手に届く未来を提供し続けた」ことかなと思います。最近の言葉だと「プロダクトアウト」の例として一番に取り上げられる iPhoneですが、独りよがりに「こうあるべき」を押し付けてくるのではなく、常識を少しだけ崩して新しい体験に導いていく。それが「そうそう、これが欲しかった」に繋がっていくのだと思います。そして、その積み重ねが新しいイノベーションを生み出していく。

キャディの強み

話がだいぶ脱線してしまいましたが、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ためには今の常識を非常識にするイノベーションを起こし、それを新たな仕組みとして提供していく必要があります。ただ、理想の世界を唱えるだけでは「そうなったら良いけど、で?」ということになってしまいます。製造業の方々は部外者の夢物語を聞いてお付き合いするほど暇ではない。

キャディが他のソフトウエアのスタートアップと大きく違うのは、実際に製造業のプレーヤーでもあることです。金属加工部品の注文を受け、サプライパートナーの方々に製造してもらい、それを検査し納品する。我々が受けた注文なので品質と納期にも責任を負っています。注文を右から左にパートナー企業に流して投げっぱなしではなく、多くの場合パートナーさんたちと一緒に検査したり梱包したりという作業を汗水流してやっています。そうやって少しずつ、顧客・パートナー双方からの信頼を得ながら日々の仕事を進めています。

そのように一緒に働き悩みや痛みを共有しながら日々仕事をしていく中で、本当に解決しなければならない課題が見えて来ます。それと同時に、まだまだ製造業新参者の我々からみるとやや不可思議な「常識」も見えて来ます。そういった現場の気づきをヒントに一つずつ問題解決しています。最初は人手で。そしてそれを型化して仕組み化していく。その積み重ねが Whole Productに繋がっていきます。将来のビジョンを見据えながら、少しずつ「ああ、これが欲しかった」を提供し続ける。それが最終的には大きなイノベーションを産むと考えています。

そして、上で述べたようにキャディはシステム開発をしているだけでなく、顧客営業・顧客対応、パートナー対応、品質保証、受発注オペレーションなどのメンバーを抱えて、自ら製造業のビジネスを回しています。それぞれの立ち位置で「モノづくり」にコミットしながら、知見を溜めていて、それが早いサイクルでシステム開発にフィードバックされています。一見バラバラの業務をやっているように見えるメンバーですが、全ての活動がミッションの達成に繋がっています。

最後に

このような組織の中で、どんどん広がる製造業ビジネスをサポートしながら、同時にWhole Productに繋がるプロダクトの開発も加速させていく。それが私がキャディでやろうとしていることです。やりたいことは山ほどあって、解くべき課題もたくさんあります。どれも難しく簡単に答えの出る物ではないと思います。

でも、そんな状況だからこそワクワクしながら仕事ができる。そんなチャレンジングな状況は長い仕事人生の中でもそれほどありません。私と同じように感じて、非常識を常識に変え、世界を変える仕事をしてみたいと思われる方は是非以下のサイトを覗いてみてください。


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