【詩】彼女は物語を大事にしていた。
彼女は物語を大事にしていた。
その先に物語のある世界を選んで、歩む道を決めていた。
自らが綴られる、お気に入りの物語。
どんな危険や困難も、其の物語に組み込まれさえすれば、
彼女は満足していた。
僕は彼女の物語から外れてしまったから、
此れから話すことについて、真偽の程はわからない。
けれど、きっとそうだったのだろうと思う。
彼女はいつも、ここではない世界を見ていた。
好きな漫画の話をする時、
気になっている年上の人を見つめる時、
おいしそうにコンビニのヨーグルトを口にする時、
泣きながら僕にしがみついて、離れようとしなかった時。
彼女はいつも、遠くを見ていた。
彼女はその先に、何を読んでいたのだろうか。
此の世界にはない、向こう側の物語。
時折、ふと思う。
彼女なら、僕の物語にどんな感想を持つだろう。
今綴られている僕という存在を、どんな風に見るのだろう。
きっと、教えてはもらえないだろうけど。
もう交わることのない物語の向こう側で、唯一つ言えることは。
この恋の物語は、もう、叶うことはないのだ。
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