アニナナ3部の大和打ち明け話編が凄すぎてアプリから解像度が爆上がりした話

 アニメ「アイドリッシュセブンThird Beat!」で、アプリから好きだった大和打ち明け話編がついにアニメに!! というわけでもともと楽しみにはしていたのですが、蓋を開けたらアプリで原作プレイしてたときは一体何を見ていたんだ??というくらいキャラクターや事件の解像度が上がったので、アニメ3期6話までの内容で、アニナナの構成・演出で特に凄い!と思った部分を紹介したいと思います。
 この記事では、原作アプリのストーリー3部を「原作」、アニメ3期について「アニメ」で表記します。

「心の声」とは何だったのか

 原作4章のサブタイトルにしてアニメ4話のサブタイトル「心の声」。アニメ4話は、おおよそ原作3章5話、4章1話・3話のエピソードを順序を変えつつ構成されています。この周辺の原作とアニメの対応は以下の通り。

原作3章5話「クラクション」→アニメ4話アバンタイトル
原作4章1話「夏の音」→アニメ4話本編
原作4章2話「頂きを目指して」→アニメ5話本編
原作4章3話「認めなよ」→アニメ4話本編
原作4章4話「大人の喧嘩」→アニメ5話本編
原作4章5話「最低の自分」→アニメ5話本編

 原作4章3話はタイトルこそ千の「認めなよ」ですが、エピソードとしてはこの台詞は話の中間地点にあり、「アイナナ達は大和と千の事件を知らないまま、大和と三月を思っている」という印象の話になっています。しかし、アニメ4話では構成を大きく変更して、寂しがるアイナナ達を描いたあとで、本編ラストにこの「認めなよ」からのエピソードを持ってきています。その結果、「寂しがるアイナナ達の裏で、大和は苦悩に苛まれている」という印象の構成になっています。
 原作4章はアニメでは半分は5話に回された内容で、「心の声」というのは大和だけでなく、みんなの抱える寂しさ、大和を呼ぶ声でもあるのかなという印象でした。

 しかし、アニメは違った。

 醜悪な自分を認めろという千、耐えきれず自我を失い、千の首を絞める大和。このあたりの演出は凄すぎて語り尽くせませんが、一番注目したいのは4話ラスト。

大和「あんたが黙れば! 安心して眠れる、安心して……好きでいられる」
大和「それ以上、酷いことを言わないで……。
   俺が間違ってても、優しくして……」

暗転した暗闇に響く、大和の「優しくして」。このあと、アニメでは5話になりますが、大和はこれを夢だと思い込み、千もあえてそれを否定しません。つまりこの言葉は、千だけが聞いた大和の「心の声」です。

 これを受けて、千は自分のことを「ハッピーも大丈夫も真に受けてしまう素直な男」だと言います。そしてそれを、2部で百の声が出なくなったり、大和に首を絞められてしまう原因だと考えている。
 千は大和の何を真に受けていたのか? それは例えば、2期で「芸能人なんてゴキブリ以下という目をしていた」と表現していた嫌悪感なんだと思います。千は大和に嫌われていると思っていた。だからこそ、大和へのアドバイスが、優しく諭すより挑発するような言い方になりがちだったのでしょう。
 けれど、役に取り憑かれ、殺意を走らせた大和が絞り出した本音は、それとは真逆の言葉。「安心して好きでいられる」それは「好きでいたい」ということであり極論「好き」ということです。この時点の千はまだ知りませんが、大和はずっと千に憧れていた。だからこそ、挑発するような言い方は傷つくし、「ひどいことを言わないで優しくして」ほしかった。

 そんな大和の心の声を聞いた千は、大和への態度を180°転換します。アニメ4話では「人生相談がしたいなら、10秒だけ待ってあげるよ」とタイムリミットを設けて大和の神経を逆撫でしていたのに対し、アニメ5話では「時間あるし、聞かせてくれる?」と大和の話を促します。これはアニメオリジナルの台詞です。何が大和を傷つけたのか、千が反省したことが分かります。
 そして、優しくなった千に、大和はやっと千の一生懸命への憧れと、アイドリッシュセブンへの罪悪感を打ち明けます。大和の罪悪感を加速させていたのが千への憧れだったからこそ、それを千に打ち明けないことには、アイナナへの想いとも向き合えなかった。ナギは千のところで答えを出したことに嫉妬しますが、これは必然の流れだったと思います。

 万理が言う「慰めようとしてハンマーでぶん殴ってくるタイプ」の千は、その言葉通り意図に反して大和をぶん殴った結果首を絞められてしまいますが、偶然にも聞いた心の声に、アプローチを変え、大和の本音を引き出した。
 あの夏の日と同じ青い空の下で、「頑張ったね」と大和を労い、「電話して、明日帰るって言いなさい。それだけでいいから」と微笑む千。この青空のシチュエーションもアニメオリジナルで、予告カットの時点で天才か?とほうぼうで言われていましたが、天才だと思います。

画像1
アイドリッシュセブンThirdBEAT! 第5話「居場所」より

 千はこの一件の後、「初めて僕が一生懸命をしたのは、万じゃなくて百だったよ」と百に告げます。大和との会話を知らない百には意味が分かりませんが、あの笑顔が単なる優しさではなく、大和の憧れが嬉しかったからだということが窺えます。逆を言えば、アニメならではの千の笑顔が、大和の打ち明け話と百とのシーンをより強く繋げてくれています。

 「心の声」とはなんだったのか、それは察しの悪い千が錯乱した大和から聞いた「優しくして」。それはもう悲鳴と言っていいと思います。その声に応えて千は行動を変え、大和は心を解放できた。この美しい構図を私に教えてくれたのがアニナナでした……。

影のキーキャラクター・棗巳波

 アニメ第6話「届ける想い」では、大和がIDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeという仲間達の前で想いを打ち明け、マネージャーに改めて決意を告げ、愛なNightで仲間への想いをファンの前で打ち明けます。
 そして最後に撮影のクランクアップがあり、巳波とのシーンが描かれます。

画像2
アイドリッシュセブンThirdBEAT! 第6話「届ける想い」より

巳波「この映画でのあなたの評価が、ゴシップをカバーしてくれるといいですね」
大和「俺が隠したかったのは、仲間の気持ちを裏切るような理由で、アイドリッシュセブンになったことだけだ。他に恥ずかしいことは何もねーよ。上から下までたっぷり眺めてコメントどーぞ。下品な言葉よりも、恥知らずに笑ってやるよ。お兄さん、底意地悪いからさ」

大和が自分のことを正確に把握し、それを認められている。汚れた自分を受け入れられずにもがいていた大和が、「底意地悪い」という自認を笑顔で告げる。大和が苦悩を本当に乗り越えたということがよく分かります。

 この巳波ですが、アニメ第2話「知らない傷」で、二人はこんな会話をしています。

巳波「この映画で功績を残せば、ネガティブな話題も吹き飛ぶでしょう。アイドリッシュセブンの人気が落ちたとしても、本格的に俳優になって生き残れば良い」
大和「グループの足引っ張っておいて、俺だけ沈没船から抜け出せって? そんなこと」
巳波「でも遅かれ早かれ」
(中略)
巳波「すみません、悪気は無かったんです。ただ少し、おかしくって」

 アニメ第3話「亀裂」で、千は「今の君には、前の身軽さが無い。必死に自分自身を評価されたがってる。どうしちゃったの」と問いかけました。それを受けて、4話大和の「あんたが言った通り、俺は初めて手柄が欲しくなってる」があり、千の「(君が)問題をすり替えてる」へと続きます。
 もともとこの映画は、第2部で千が「仲間のためを思うなら上に行け」と言って大和に受けさせた仕事です。巳波の言葉に、大和が「この映画を受けたのは、俺のためじゃなくて仲間のためだ」という反発を抱いたとしても無理はありません。けれど、スキャンダルに怯えている大和は、巳波の言葉によって「ネガティブな話題も吹き飛ぶ」という部分に足を取られてしまう。千が言ったのは「IDOLiSH7をアイドルとして高みに連れて行きたいなら、メンバーの君は俳優としても高みを目指せ」ということ。だからこそ2部の千は「ゴシップくらい僕たちがカバーしてやる」とも言っています。千はむしろ、大和が志津雄絡みの余計な悩みで俳優の仕事を避けなくてもいいようにしてやりたかったのでしょう。けれど大和は、その想いをうまく受け取ることができないまま、巳波の罠にかかってしまった。
 大和に身軽さが無くなった原因、アイナナ達に顔向けできないという悩みを、ゴシップをカバーするために成功したいという焦りにすり替えてしまった決定打は、巳波の嘲笑だったと言えます。大和の中にずっと燻っていた恐怖を、直接指摘してくる人物。しかも巳波は、千葉サロンのスキャンダルでダメージを受けるポジションではない。巳波のような人が志津雄と大和のことを暴露しようと思えば、大和に止める術はありません。
 大和の問題の本質は、あくまでアイドリッシュセブンや千、志津雄との関係にあります。けれどその爆弾に火をつけたのは巳波だった。言うなれば巳波は、今回の事件を引き起こした黒幕であり、RPGで本編をクリアした後に戦える裏ボスのようなもの。この巳波の立ち位置が、私がアニメを見て「なるほど!」となった最大のポイントです。

大和「お兄さん、底意地悪いからさ」

かっこいい~~!!!(落ち着け)

 仲間達との絆を確立した大和は、メンバーの中では自分だけの戦場である撮影現場で、今回の騒動のきっかけとなった巳波への反撃に成功し、捨て台詞を残した。大和打ち明け話編の締めくくりとして、もうとにかくかっこいい!!としか言えません。最高のクライマックスでした。

本編ラストとCパートの使い分けが凄い!

 紹介したエピソードの要は、どちらもED前の本編ラストシーン(4話&6話)です。アプリではサウンドノベルの性質上、流れるように次のシーンに切り替わっていたシーンでしたが、アニメではそこで一度本編が終わり、TRIGGERの歌うPLACESが流れ出すことで、とても印象的なシーンに仕上がっています。そして、次の展開に続くエピソードはCパートや次の話のアバンタイトルへと繰り越されています。
 PLACESはこれからのTRIGGERを思わせる歌詞ですが、アイナナの仲間達が、彼らとの日々が眩しいからこそ自分の過去に足を取られる大和との微妙な重なりも感じ、私はTRIGGERが大和を支えてくれるような印象を持ちました。
 だからこそ、これからのTRIGGERが苦境に立たされるとき、彼らの周りには必ず困難を乗り越えた大和達が、IDOLiSH7とRe:valeがいる。そんな景色も予感させられて、この先のThird BEATからも目が離せません!

この記事が参加している募集

#アニメ感想文

12,541件