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群盲評象2023(370過去記事、2023年12月末まで)

370
本マガジンは、2023年1月1日から2023年12月31日までの365日分、桜井健次(筑波大学数理物質系名誉連携教授、イメージング物理研究所長)が毎日投稿するエッセイを収録します…
現代は科学が進歩した時代だとよく言われますが、実のところ知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な…
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#シロクマ文芸部

真の終焉とは

最後の日の翌日って、どんな感じ? えっ 翌日があるならば、その日は最後の日ではないんじゃないの? それをありにしたら、最後の日だらけになりそう みんな終末論大好き、最後の日詐欺だよ 宇宙の終焉は好き嫌いの問題ではなく一種の法則だよ その結末が静的なものか、劇的なものかは議論が分かれるけれど 宇宙が終わる!って言われたら、さすがに逃げ道がないか エントロピーが頭打ちになる熱的死(ビッグフリーズ)の場合は、あらゆるものが変化しなくなる ビッグリップの場合は、あらゆるものが

森の番人

振り返ると、そこは暗闇だった 目を凝らすとかろうじて一筋の光が見えた あれからだいぶ時間が経った 相変わらず、暗闇のなかにかろうじて光の筋が見えた だが、よく見ると色が違っているようだ いまでは青みがなくなり、赤みを帯びている これはドップラー効果だろう 暗闇のかなたにあるものは、まるで逃げるように遠ざかっているのだ しかも逃げ足が速まっている ということは、光の波長はやがて肉眼では見えない赤外線領域になってしまうのか この原理は宇宙観測に用いられている ジェームズ・ウ

あえて口にせず心で唱える言葉

ありがとうございます どこの国でも、どの町でも、人が出会えば、誰でもほぼ口にする感謝のあいさつだ 買い物すれば、お店の人が何度も言っている 誰にでも言っている もちろん、本当にありがたいと思っている部分もあるだろう 正直な感謝の気持ちでもあるのだろう それでは、もっと大きくてもっと重大な感謝の気持ちは、どう表現すればいいのだろうか 重大な危機を救ってもらったとき、お店で言うようなのと同じ「ありがとうございます」といった言葉で足りるのだろうか 最近の日本語の話し言葉で

色をリセットする

冬の色は何色? いや、冬に色があるわけではない 人が受け止める色彩感覚が季節によって変化すると言えばよいのかな 人の網膜にある光受容細胞は3種類の波長に対応している それが赤、緑、青の三原色 目に見える物の色は、3つの信号の足し合わせで認識されている 三原色は均等に足し合わせると真っ白だ つまり、そのとき中心の色は白になる 日本は美しい四季の変化に富んでいる その変化に合わせて三原色の中心が微妙にシフトする 赤と緑を足すと黄色になる その黄色と緑の境界あたりがきっと

0月

十二月は、カレンダーの1番最後に出ているかい それとも? 実は、私の研究室には、12月は存在しない 1年は11月30日で終わるので、12月なんてないよ 世間は師走で忙しいそうだが、こっちはその時期は予定は入れないようにしている カレンダーそのものも捨てている 奇をてらっているのではない そんな風に30年以上も過ごしてきた どうして? 十二月は貴重な1カ月だ 十二月と呼ぶから間違えてしまう 本当は0月なんだ 翌年1月1日に最良のスタートを切るためによく準備する それが0月

詩は凶器のようなもの

詩と暮らすって耳にして、老人ホームの隠遁生活みたいな穏やかで、のんびりした印象をもったかい? ひょっとして、詩って、そんなに無難で、安全で、あたりさわりのないものだと思っていたかい? 違うんだ 人の一生を左右し、翻弄し、天国にも地獄にも送りだすほどだ 使い方がわかっていなければ、銃や刃物よりも危険な凶器だ 何より覚悟がないとだめだよ 人は生まれたその日から、死ぬ日までのカウントダウンが始まっている 問答無用の絶対の自然法則だ だが、50年くらい経つまで自覚しないでいて、時

ゴジラの本音

逃げる夢をみたような気がする なぜ、みんな逃げるのだろう そう、みんな、70年近くも逃げ続けている どうして? 2016年は、確かに蒲田で大勢の人が逃げ惑ったよ 1984年は、逃げるばかりではなかったかな 日本独自の秘密兵器スーパーXなど登場させて、無駄で不毛な攻撃を試みた 1954年は、本当に怖くて逃げたかった けれど、逃げずに東京タワーで冷静に「みなさん、さようなら」と最後の放送をしたアナウンサーがいたりした どうせ逃げようたって逃げられるものではない ミサイルを撃

死刑廃止

誕生日の刑に処す 裁判官の声が凛と響いた その昔、重罪と言えば、死刑と決まっていた時代があった 絞首、斬首、鋸挽き、電気椅子、致死薬注射、致死ガス、銃殺、八つ裂き、猛獣刑、石打ち、磔刑、火あぶり、釜茹でなど、方法はさまざまだ 死をもって罪を償なわせるという思想とコンセンサスがあった それに対し、死刑に反対する運動もあった 殺人の罪を犯した者を死刑にすれば、それも罪ではないか いかなる極悪人であっても、他者が命を奪うという構造そのものに違和感が残るということだった だが、

秋日森林中的鹿鳴之詩

紅葉鳥って、鳴くの? もちろん、鳴くよ ピィーって でも鳴いているのは鳥類ではなく、哺乳類だ それもシカ科だ ジュラシック・パークなどでは、シカは恐竜の餌だ 鳴く前に食べられている だが、平和な日本の秋の森では、シカの求愛の悲しい声がこだましている この事情は、日本人以外にはさっぱりわからない 七言律詩でも作って、説明してくれ (226字) 2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金

咖啡和巧克力

珈琲とチョコレート フランスの研究所のカフェで珈琲を注文したら、エスプレッソの小さなカップの脇に板チョコ1つがついてきた 「とても変でしょう?」 「いまはどこへ行ってもチョコレートがついてくるけれど、別に昔からずっとそうだったわけじゃない」 スイス出身の先生が教えてくれた エスプレッソの苦みとチョコレートの甘みのハーモニーが、一見よく似た豆から生まれている事情は、日本人にはいまひとつわかりにくい そこを説明する七言律詩を作れ 咖啡香醇可可甜 兩者佳配最美味 苦與甘配伴嘗鮮

苹果箱之詩

りんご箱は、映画製作の現場で使われる機材の1つだ 両端に穴の開いた大小さまざまの木箱や木枠の部材である りんごを詰めて輸送するための箱と誤解する人も多いようなので、りんご箱について説明する七言律詩を作れ (163字) 2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金曜午前(早朝)に投稿します。今回のお題は「りんご箱」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。 初めての皆様へ皆様には、桜

大波斯菊之詩

秋桜について、さだまさし風の七言律詩を作れ (77字) 2023年4月下旬頃からシロクマ文芸部の企画に毎週参加させて頂いています。2024年4月まで1年ぴったりの継続のつもりです。金曜午前(早朝)に投稿します。今回のお題は「秋桜」が書き出しでした。どうぞよろしくお願いいたします。 初めての皆様へ皆様には、桜井健次のエッセイのマガジン「群盲評象」をお薦めしております。どんな記事が出ているか、代表的なものを「群盲評象ショーケース(無料)」に収めております。もし、こういうもの

交通安全祈願

走らないで! ちょっと待った それは、速く動くな、歩けという意味かい? もし、そうならば、制限速度を示すべきだ 例えば、1m/秒もしくはそれ以下で進め、4m/秒以上は絶対禁止といったことだろう それは、動くな、とまれ、freeze! という意味かい? もし、そうならば、直ちに急ブレーキしろということだ それが、安全なことだかどうだか、わからないけれどね 第一、それは場所にもよるだろうか 学校の教室の前の廊下だとすると、4m/秒で走ったところで、数秒後には止まるか、方向

かるたのなかで暮らす

月めくりって、3次元の世界の話だよね? そりゃ、4次元ならば、めくるも何も最初から裏も内部もまる見えだし 2次元だったら、どこまで行けども永遠にめくる場面がありえない そうか、月の神様って、3次元の世界のことを考えてくれているんだ まさに、3次元が月の神様の担当なんだよ えっ そうなの? だって、天照大御神と月読命と須佐之男命は、兄弟姉妹だというけれど、ずいぶん格が違わない? それぞれの神様の所掌は、太陽と月と海だが、それは、そのまんま、4次元と3次元と2次元だろう