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ドラマ『5分後に意外な結末』第四週『親友交歓』レビュー:5分後に鮮やかな反転

あらすじ:昭和21年。作家の修治(古川雄輝)が、家族を連れて東京から故郷に転居して数日たったある日のこと。執筆作業をしていた修治の元に、小学校の同級生の平田(笠松将)がやってきた。「二十年ぶりか?」と言いながら、土のついた藁草履を脱ぎ、ズカズカと家の中に上がり込んでいく平田。そんな平田を見ながら、修治は「威張ることしか能がない」という言葉がよく似合う男だったことを思い出す。妻の美知子(阿部純子)は、“なに、あの人……”と修治を一瞥する。「お前に引っかかれた傷だ」と手の甲についた傷を見せた平田は、「お前は二十年来の親友に酒も出さないのか」と偉そうに話す。修治が高価なウイスキーを出してやると、平田はグビグビと飲み干し、「お前、東京に出ていたのが、自慢なんだろ?」と言ってきて、さらには修治の女房を呼び出し、お酌をさせようとすると……!?
公式サイトより)

一方的にダメージを受けたはずが、実は傷付ける側だった。もしかすると自分の方が、より強く。
…それが5分後の意外な結末。

突然修治の家を訪ねて来た平田は修治の「親友」だと言うが、実際の2人はただの「小学校の同級生」。
だいたい修治は平田の顔を見ても、説明なしには彼のことを思い出せない。修治にとって、は平田は記憶に値しない程度の存在なのである。
しかし平田と来たら、20年ぶりに修治が戻ったとどこかから聞きつけて訪ねて来るほどだから、東京で作家として名を上げた修治の動向を密かに気にかけていたに違いない。

平田は修治に一方的に嫉妬のような、憧れのような感情を抱いてきたのだろう。そう思い始めたのが小学生の頃からなのか、修治が名の知れた作家として活躍し始めてからかはわからないにしても。
修治が「もう住む世界が違うんだ、ということを分からせてやる」と心の声で言う通り、20年前はともかく今の2人の立ち位置には歴然とした差がついている。
しかし修治が東京で何か上手く行かないことがあって故郷に帰って来たらしいということであれば、ひょっとして対等な立場になれるかもしれないし、あわよくば修治の不幸を高みから見ることだってできるかもしれない。または今度こそ友人関係を築いて、有名作家の親友を名乗るチャンスを得たとも言えよう。
だから「小学校の同級生」というだけの薄い縁を頼りに、修治の転居から数日という早いタイミングで訪問したのだ。

「威張ることしか能がない」、能がないから威張ることで自分を大きく見せようとする平田。穏便にこの場をやり過ごしたいがために、曖昧な態度で平田をかわし続ける修治。
2人が向き合って酒を飲むシーンには、横暴な平田への不快感よりもむしろ相手にされない虚しさ、切なさを感じる。自分から「お前、東京に出ていたのが自慢なんだろ」と修治が言ってもいないことを口に出してしまう卑屈さ。困ったことがあれば相談しろと言っても、子供時代のケンカについてのマウントを取ってみても修治に流されてしまう、その無力感。

SPインタビュー(TVer限定で配信)で平田役の笠松将が「読んで行くと惨めな人なのかなと思って、そういうのを監督にバレないように、惨めさをちょっとずつ入れながらやってました」と語った通り、笠松が演じる平田には横柄な態度の中にも惨めさが滲む。
修治の妻に対する「奥さん水臭いよ、俺はこいつの親友なんだから」という台詞の言い方からは、何かに縋ろうとするような心細さや情けなさが読み取れた(きっと監督は気付いちゃっていたんではないでしょうか、笠松さん!)。

対する修治は「私ははっきりと物が言えない男だ」とは言うものの、その分心の中では相当悪態をついている。多用される修治のモノローグの心の底からうんざりしている感じ、平田を見下した嫌味な物言いは2人の本当の関係性を浮かび上がらせ、笠松が演技に混ぜ込んだ惨めさを際立たせる。
それでいて表面的には気弱そうに、微妙な愛想笑いを浮かべて強い言葉を言えない頼りなさげな様子。しかし平田から見えないところでは嫌悪感を表情に出し、それが心の声とリンクする。
古川雄輝の演技は、表と内面を演じ分けながらある部分では繋ぎ、修治の人となりを短い時間の中でもしっかりと伝えた。

平田が帰ると言い出し、その解放感も手伝って平田に一言物申してやろうとする修治だが、逆に平田から「あんまり威張るんじゃねぇよ」という言葉をぶつけられる。
嫌悪感を与えられた側から与えた側へ。そして意外さに虚を衝かれたような修治の表情によって、2人の心情の探り合いから、一気に流れが修治の内省へ向かう鮮やかさもまた、意外な結末だった。

やはり平田には酒をくれてやってよかったのだ。一口飲む毎に記憶が蘇っても、一本飲み干す頃には全てを忘れてしまえるから。

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