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「liar」第一話レビュー:抉られるような恋の痛みの追体験

第一話あらすじ:商社勤務のOL成田美紗緒(見上愛)は、同じ部署で働く業績優秀な市川一哉(佐藤大樹)のことを疎ましく思っていた。市川の歯に衣着せぬ物言いが嫌いだったが、ふとしたキッカケで次第に惹かれていく。ある日、市川から「結構好き」と言われて喜ぶ美紗緒だったが、彼には田所裕子(川島海荷)という彼女がいることを知ってしまう。ショックを受けながらも、市川への恋心を捨てきれない美紗緒だったが、ある夜市川から突然電話がかかってきて…(公式HPより)

自尊心を揺さぶられる恋は、危険だ。
好きだと言われれば舞い上がれるけれど、そうでなければ自分自身を否定されたかのように痛手を負うから。
美紗緒と彼女の先輩・イチこと市川の関係は、互いにプライドを意図的に、または無意識にくすぐったり傷つけたりしながら、気付いた時にはもう始まっている。それが容易く抜け出せない沼と知らないままに。

市川はとにかく人の心のコントロールが巧みで、ズルい。
まず登場シーンからしていけ好かない。電話口の取引先に対して言葉を選ばず自社の商品を貶す物言いからは、有能な若手に特有の自信と、誰にも忖度しない不遜さが漂う。
それでも市川の上司・出野(古川雄輝)が市川に向ける視線と言葉の温かさからは、彼はただの生意気で嫌味な奴ではなく愛すべき人物なのだということが伝わってくる。取引先からの信頼も厚いというのだから、市川は結構な人たらしなんだろう。短い時間で市川の人柄がよくわかる構成だ。

美紗緒も市川の術中にまんまと陥って行く。
彼女はたぶん、市川から多少なりとも見下されていると感じているはすだ。
実際、美紗緒が他部署の男から飲みに誘われたのを猫かぶりであしらうところを聞いた市川は「そういうバカっぽいのムリ~」と美紗緒にあからさまな不快感を示している。
でも、咳をしてのど飴を美紗緒に手渡された時には「お前、結構気が利くじゃん」とちゃんと褒めるし、美紗緒もまんざらでもなさそう。デキる人に認めてもらうのは些細なことでも嬉しいものだし、普段とギャップのある反応ならなおさらだ。
市川は距離の詰め方も手練れていて、美紗緒が真面目に送った奢りのお礼メールに丁寧な返信を返して来たと思ったら、急に「俺けっこーお前のことスキ」とタメ語で爆弾を投下(これ、絶対初犯じゃない)。戸惑って茶化す美紗緒の返信をスルーして、翌日出張先の大阪から電話を掛けて来て自分の元に呼びつけようとする。
相手にされていなさそうな人から急に特別扱いされたら、自分の価値が少し上がったような気がしてしまうし、その人を意識せずにはいられなくなる。
なのに市川は気のない素振りをしたり、彼女である取引先の「田所ちゃん」の写真を自慢したりして今度は美紗緒を突き落とす。そうやって混乱させられているうちに美紗緒の心の中は市川のことで一杯だ。
ずっと片想いをアピールしてきた同じ部署の上条(太田基裕)のことも頭から消えてしまうほどに。

簡単に市川に心を乱される美紗緒には恋愛耐性のなさ、幼さを感じずにはいられない。だが、美紗緒への態度を計算している(らしい)市川より、意識せず市川を振り回している美紗緒の方が、実は厄介な存在なのかもしれない。
素っ気なくしたり、好きと言ったり、市川にとっては所有欲、独占欲に駆られる行動だけれど、どれも美紗緒としてはただ恋愛経験のなさからいっぱいいっぱいになってしまった結果だ。
だから自分を取り繕えなくなった美紗緒の「好きですけど」や「帰らないでください」には胸が締め付けられるし、綻びのなかったはずの市川の行動を少しずつ狂わせて行っているように見える。

第一話は互いが心を偽る中で、隠し切れない美紗緒の本音に心を掴まれた。
女性目線と男性目線が入れ替わりながらストーリーが進むのが特徴のこのドラマ。進む市川目線で描かれる第二話では、彼の内面が覗けるはずだ。
男女の両面から一つの恋愛を追うことで、2人のすれ違いやズレが浮き彫りになり、より切なさが強調されて行く。
抉られるような恋の痛みを追体験する覚悟で、最終回まで美紗緒と市川の行方を見守りたい。

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