真夜中ごはん「ごほうびごはん」第3話レビュー
きっとうお座が12位だったんだと思う。
その日は咲子(桜井日奈子)がよかれと思ったこと、張り切ったことがことごとく裏目に。
通勤快速に乗ればスカートがドアに挟まれたまま2駅先まで行く羽目になり、会社に電話する時間があったら走った方が早いと連絡しないまま疾走したのに結局遅刻…
「なんだか今日はツイてない予感がする」
その予感は的中。咲子が森ケ崎部長(吉田ウーロン太)宛ての電話の伝言を忘れたせいで、部長は大事な商談でクライアントを1時間近く待たせてしまう事態に。
契約が白紙になったらどうするのか、と咲子を厳しく叱責する部長。
かえで(岡崎紗絵)は落ち込む咲子を励まそうとランチに誘うが、食欲がないと断られてしまう。
じゃあそっとしておこう…とはならないのが、かえでのすごいところ。その手腕たるや鮮やかなものだ。
「わかった!じゃ帰りにしよ、帰りにどうしても池田さんを連れて行きたいお店があるの、お願い」
あくまで咲子のためではなく、自分が連れて行きたいからと「お願い」。
そして行き先に選んだのは月島。自分が勝手知ったる地元で「おもてなし」。
かえではなぜ、もんじゃを選んだのか。そこには理由があるように思う。
もんじゃの良さは、ただ食べるだけではなく参加型の食事であること。
これがもし普通の飲み屋なら、語る時間が多くなるが「自分たちで焼いて食べる」というアトラクションを付加することで、咲子に落ち込む隙を与えない(オーダーしたらすぐ出てくるのも◎)。
初めて食べるもんじゃに、咲子のテンションは上々。
これは計算ではないのだろうけれど、ビールが進んだかえでは自ら率先してやり過ぎるくらいに部長をディスり、咲子が部長にちょっと同情してしまうところまで持って行く。
(「森ケ崎」の「ケ」にまでいちゃもんをつけるのにはさすがに笑った)
さらには焼き方に興味津々の咲子にまずは手本を見せ、次に自分で焼かせて「すごい、咲子もうもんじゃ名人じゃん」と褒めてアゲるところまでもう、かえで様の励まし術は完璧。ああ、これが江戸っ子らしい気っ風のよさというやつか。
下町の雰囲気と、もんじゃと、かえでのパーソナリティがリンクして、なんだか胸がすくような気持ちにさせられる。
それでも週明け、咲子と部長の間にはぎこちなさが。
部長は自分の「こんな食いもんの写真ばっかり飾る暇はあるくせに」という言葉のせいで整理された咲子のデスクに気付き、複雑な表情を見せる。
そんな昼休み、咲子が誰もいないはずの会議室に入って電気を点けると、そこにはなぜか部長が…
あたりに漂う果物の匂いを鋭く嗅ぎつけた咲子に慌てた部長は、ハンカチよろしく取り出したフルーツサンドで汗を拭こうとする。
「妻がハンカチと間違えてサンドイッチを…ハンドカッチ」
なんだよハンドカッチって!しかしフルーツサンドに全集中した咲子は、突然の物ボケコントにも全く動じない。
「いいですねぇ~!ダイワのフルーツサンド、買えたんですねぇ~!」
「そうだ、私紅茶入れて来ますよ!クリーム系にはアッサムティーですよね!」
おいおい、部長に対して感じていた気まずさはどこへ行ったんだ?咲子。
ノリノリの咲子に戸惑いを隠せない部長。
「こんなオッサンがランチにフルーツサンドを食べようとしている…なんてちょっとアレだよな、ドン引きだよな」
「へ?どうしてですか?食べ物に男も女も老いも若いも関係ないですよ!」
そうか、美味しい食べ物の前には老若男女も、上司も部下も、感情の行き違いも関係ない。食べ物に向き合う時、人はみな平等だ。
ゆえにフルーツサンドの登場によって、咲子の部長に対する態度が突然フラットになったのだ。
「ふわっふわで美味しい~、控えめな甘さのクリームと熟したフルーツがよく合いますねぇ~」
「パンの中にほんのり塩気が効いてるからフルーツとクリーム甘さを引き立ててくれてるんだなぁ。これは科学の勝利だよ」
その証拠にほら、フルーツサンドを頬張る2人は上司と部下ではなく同士としての会話をしているではないか。
和らいだ雰囲気の中、部長は「池田さん、先週は言い過ぎた」と咲子に謝罪を始める。
「あの席は池田さんの席だ!池田さんが気持ちよく仕事できるようにカスタマイズしてくれていいから」
もしかすると部長は部長で、大人げなく新入社員に八つ当たりのように文句を言ってしまったことに、少なからずダメージを受けていたのかもしれない。そして自分を元気付けるためにフルーツサンドを買ったのかもしれない(なんなら咲子のデスクにあったダイワのフルーツサンドの写真に触発された可能性もある)。
誰にだってそれぞれの心の動きがある。そんなあれこれを優しく包み込んで溶かしてくれるスイーツの力に、時には頼ってみてもいいのかもしれない。
かえで、青柳主任(未来)…と、第2話までごはんの力で人に心を開いて来た咲子が、ついにごはんの力を借りて部長のテリトリーに踏み込んだ第3話。
それは咲子にとって大きな変化なのだが、ドラマティックな出来事を通してギアチェンジするのではなく、あくまでごはんを起点にして、気付いたら成長している状態になっている。そのやわらかなシフトの仕方がこのドラマらしさなのではないか。
第4話に咲子の変化がどう生きてくるのか、そしてそれが磯貝(古川雄輝)に関わるものなのか、とても楽しみだ。
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