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真夜中ドラマ「ごほうびごはん」最終話レビュー

第8話、磯貝(古川雄輝)は咲子(桜井日奈子)を想像上の味噌煮込みうどんの世界へ連れて行ってくれる王子様だった。今回最終話を観て、磯貝はやっぱり咲子の王子様なんだと確信した次第です。
え?ラブ展開なかったじゃん、って?待て。落ち着け。
俺の、俺の、俺の話を聞けぇぇ、2分だけでもいい…!

勇気を出してチャレンジした社内コンペだが、咲子の作品は選ばれなかった。
森ケ崎部長(吉田ウーロン太)は咲子を励まそうと、システム物流部全員で焼き肉に行こうと提案。そこに社長とのうな重の約束をドタキャン(もといリスケ)された磯貝も合流することになって…

「私なんかが出したアイデアなんて」
「私には難しすぎるチャレンジでしたよね」
焼肉屋で磯貝に語る咲子の言葉から読み取れるのは、結局限界はあってそれを自分が超えることは無理なんだという諦めだ。また自分で決めた枠に留まろうとする咲子。でも磯貝は簡単には許してくれない。
「私なんかとか言わない方がいい」
「難しくない仕事なんかないし、悔しかったら悔しかったでまた頑張ればいいだろ。悔しいっていう気持ちはごまかすもんじゃないんだよ、ちゃんと受け止めないと」
それは磯貝が真剣に仕事と向き合って来たからこその発言で、だから第11話で気安くアイデアを聞き出そうとする咲子に激おこしたりもする。
でも咲子の文房具愛を認めているから、咲子にそれが取り柄だと気付かせてくれる。その取り柄が咲子の中だけに眠ってしまうのは勿体ないと思うから、殻を破って外の世界に連れ出そうとしてくれる。
ねぇ、それって要するに王子様じゃないですか。やり方はおとぎ話のように甘くはないけれど。

そして磯貝にとってもまた、咲子はきっとたった一人の姫だ。
「磯貝さんが思いっきり笑ってるところ、初めて見ました」
美味しそうに焼きしゃぶを食べて語彙が死ぬ咲子。それを見て笑う磯貝に咲子はそう言うけれど、実は私たちにとっては初めてじゃない。咲子が気付いていないだけで、第8話の味噌カツシーンでも磯貝は吹き出していたもの。でもそれ以外に磯貝のそんな表情を見たことがあっただろうか?否。
だから思うのだ、磯貝を心から笑わせてくれるのは、もしかして咲子だけなのではないかと。
磯貝はいつだって仕事への情熱が直球ストレート。人の痛いところを抉るような発言もしがち。ゆえに誤解されることも多い。
咲子に向ける言葉だって真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐなのだけれど、咲子はすごいGでも素直な心でやわらかく受け止める。
それは磯貝の仕事にかける想いとか、裏表のなさなんかを咲子がちゃんと理解しているからだ。咲子は磯貝の言葉にいたずらに傷ついたりせず、そこに込められた気持ちを受け取って、前を向く力に変えて行ける。

エレベーター前で交わす会話はいつもどこかトンチンカン、「混ぜるな危険」の2人はもっと深いところで混じり合おうとしている。
帰り道、咲子の企画書が部内で褒められていたことを打ち明けるシーンは、磯貝が咲子をライバルとして認めているし、同士としてもっと成長して欲しいと言っているようで、なんだかよかった。
心の奥深くで起こった化学反応が、恋という名で表面に浮かび上がってくるのは、きっともう少し先の話。
予告の「酔った勢い」ワードに多少過剰な期待をしてはみたものの、駆け足で恋に発展したりしない(そもそも磯貝、あんまり酔ってないし)。ただ少し距離が縮まっただけ。
それがとてもこのドラマらしくて、この2人らしくて、愛しい。

第1話の最初は一人で食べるだけだったごほうびごはん。気付けばごはんを食べる輪は同期のかえで(岡崎紗絵)だけでなく、青柳(未来)、森ケ崎、本田(きづき)、そして磯貝にまで広がった。
美味しいごはんは、一緒に食べた人の間に特別な親近感を与えてくれる。ごほうびごはんに元気をもらうだけじゃない。ごほうびごはんによってできたつながりが、咲子の背中を押してくれるのだ。
コロナ禍において、誰かと食事をする機会は著しく減ってしまった。だからこのドラマで描かれた、ごはんと人との関係の優しさ、そして力強さに、アフターコロナの世界を生き抜く希望をもらったような気がする。
全員で焼肉を囲む最終回には、ミュージカルのフィナーレを観るような多幸感があった。

12話分のごほうびごはんを味わい尽くしてお腹一杯?いえいえ、私はまだまだ足りません。
咲子がごはんの力で困難を乗り越える姿を見守りたいし、磯貝ともっと仕事で絡んで欲しいし、システム物流部の濃い面々も掘り下げてほしいし、ドラマには登場しなかった原作のサブキャラだってとても魅力的だし。
というわけでシーズン2、おかわりお願いします(できたら磯貝大盛りで)!

最後のごほうびごはんは、ご飯が進むシンプルな唐揚げだった。
これから白米というキャンバスに、咲子と磯貝はどんなストーリーを描くのだろう?
「夢という字を二人で書くぞ 一人よりも楽しいぞ」
クレイジーケンバンドからの、プッチモニ「ちょこっとLOVE」なんて口ずさみながら、近い未来にまた少し成長した咲子に会えたらいいな、と願う。

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