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真夜中ドラマ「ごほうびごはん」第5話レビュー

前回、台湾料理によって未知の食にチャレンジしていく意欲を搔き立てられた咲子(桜井日奈子)。
だが人がそれを「未知である」と認知するのは、これまで慣れ親しんだ物と異なるから。咲子は知らない物を味わうたび、無意識に自分のルーツから離れた方へ歩んで行く。
第5話はこれまで前へ前へと進んできた咲子が、大人の世界に足を踏み入れる一方で故郷を想い、大人への憧れと実家から離れたさみしさの狭間で揺れ動く回だった。

冒頭、残業を終えた咲子とかえで(岡崎紗絵)。咲子の食事の誘いを、かえでは「ごめん、今日家族ですき焼きの日なんだよね」と断る。足早にオフィスを出るかえでを見送る咲子。
東京にはかえでのように当然地元が東京の人もいるわけだ。咲子は家に帰っても一緒に食事をする家族はおらず、いつもそれを意識してはいないけれど、こんな時にふと故郷との距離に気付いてしまったりする。
「はぁ~、家族でご飯かぁ…こんな時青柳主任みたいに一人飲みできたらカッコいいのに」
家族とご飯はできないけれど、一人飲みなら…咲子は勢いでバーのドアを開く。

バーでの作法が分からず店に入ったことを後悔する咲子。ベテランマスターに導かれてなんとかカクテルを注文することに成功し、とろけるような甘さに「あぁ~、私は今、東京のバーで一人カクテルに酔いしれている…」と悦に入る。
しかしマスターがリンゴを磨き始めれば自然と故郷・長野の記憶が呼び起こされ、リンゴを使ったカクテルを飲めばつい生い立ちを語り出し…
それを恥ずかしく思う咲子に、マスターはバーとはリラックスして素の自分に戻る場所だからそれでいいのだ、と言う。
つまりバーでカクテルを嗜む大人な咲子は、頑張っている咲子。素の咲子は故郷を恋しく思う咲子だ。
帰宅後、マスターに貰ったリンゴを見つめ、スマホを手に取る咲子。実家に電話しようとするが、妹・桃子(中尾萌那)にホームシックなんじゃないかとからかわれるのを想像してしまい、結局かけずじまい。
バーデビューで大人への第一歩をクリアしたの喜びは、同時に家族にもしっかりやっていると思われたいという、ちょっとした強がりも生んでいる。

そんな翌日、咲子の元に届いた宅配便を開けると、そこにはおばあちゃんから地元の野菜がぎっしり。アク抜きして下茹でまでされた筍に感激した咲子は筍づくしのごほうびごはんを作る。
「ああ、こんなおいしいごはんを毎日のように食べられてたなんて、私って本当に幸せものだったんだなぁ」
そこに重ねておばあちゃんから届いた宅配便、今度の中身はなんと馬刺し。小躍りする咲子は本当に無邪気で、まるで子供に帰ったよう。
馬刺しを完食したところにタイミングよくおばあちゃんから来たLINEに、たまらず電話をかける咲子。
おばあちゃんも、電話に反応する犬のドンちゃんも、電話を代わって欲しいという桃子も、みんな咲子と話ができるのを喜んでいる様子。大人に見られたいと肩肘張る必要などなく、そこには素直に甘えていい愛情があるのだった。

バーと実家は、都会と故郷の対比の象徴だ。バーではカクテル2杯で5000円、咲子は「大人の女性になるためのレッスン代」と表現したが、バーに行けるのはそれを払える経済的に自立した女性ということ。対して故郷から送られる食材は無償で与えられる、愛による施しである。
しかしながら、素の自分に戻れる場所という意味付けにおいてバーと実家は同じである。行きつけのバーがあるような、咲子にしたら大人に見える人だって、実は都会の中に故郷のような拠り所を求めているのかもしれない。

最後に一つだけツッコませてもらうと、咲子がバーに入る前に妄想した「マスター、いつもの」とか言っちゃう赤ドレスハイヒールいい女とか、かえでが言う「私に合うカクテルお願いします」とか「あちらのお客様からです」ってやつ、東京に〇十年住んでるけど遭遇したことがない。あれかな、ツチノコみたいな未確認生物的現象なのかな。ペガサスの如く想像の翼を広げても、どこに生息しているのか見当もつきません。

それはさておき、次回は桃子が上京して来る模様。家族のありがたみを改めて感じたタイミングで再会は、果たして咲子の心にどんな変化を生むのだろうか。

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