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真夜中ドラマ「ごほうびごはん」第9話レビュー

磯貝(古川雄輝)に手を引かれ、想像の世界で未知の味に触れた第8話。そして第9話ではごはんによって呼び起こされた記憶から、過去の自分を思い返す。ベクトルの向きは外の世界から自らの内面へ。
一度原点に帰ることは、磯貝によって文房具愛という自分の取り柄に気付かされた咲子(桜井日奈子)が、さらに先へ進むための大事な過程なのだと思える。そんな回だった。

新卒採用のためにと人事部からアンケートを依頼され就活時代を振り返る咲子とかえで(岡崎紗絵)だが、回答は捗らない。2人は諦めてかえでが前から行ってみたかったという洋食屋に向かう。実は咲子、入社したばかりの頃にその店を訪れたことがあって…

システム物流管理部配属3日目、役立たずどころか足手まといになってしまっている自分に自信喪失の咲子。帰り道で人にぶつかるわ、転ぶわ、おばあちゃん手作りのお守りまで失くしてボロボロの状態。
あてもなく歩いた咲子は、漂ういい匂いとじゅわ~っという音に誘われて店の中に。満身創痍、戦意喪失でも本能的に美味しい物には反応してしまうから、人間の体は面白い。
「あまりにも美味しそうで、弱っていたはずなのにいつの間にか焼き上がって行くハンバーグに夢中になってた」
元気になりたいならこれを、と店主に勧められた特製ハンバーグを食べながら、咲子は涙をこぼす。
「大事に、大事に味わって、味わって。そしたら、いつの間にか辛かったことが頭の中から消えてった」
弱っていたはずでも、その先にある美味しさに自然と期待は高まるし、実際にその美味しさを噛みしめ、満たされれば嫌なことも忘れられる。
コンビニでスイーツを買う時、ファミレスでメニューをめくる時、私たちはそれが何キロカロリーなのか、ついつい気にしてしまう。けれどカロリーはエネルギーで、それは生きるための力だ。辛さを消化するのにだってエネルギーを使う。前に進みたい時、人にはごはんが必要だ。
体は心に関係なく勝手に動くようで、でもちゃんと連動していて、満ち足りた体は心まで前向きにしてくれる。やはり心と体は切っても切り離せない。

だから時が経ってあの時のハンバーグを食べると、その味に結びついた、ボロボロだった自分が蘇る。店のカウンターにかつての自分の姿が見えるほどにありありと。そこに向ける目線は切ないような、優しいような複雑さを含んでいて、そうした咲子の表情は、これまでのごはんシーンでは見たことがないものだった。
ごはんを通して過去と現在を行き来しながら、この店がごほうびごはんの原点だったことを思い出す咲子。あの頃と違うのは、よく頑張ったと言い合える仲間が一緒なこと、そしてオムライスもテーブルにあること(!)。
「ごほうびごはん」のお約束は1話2ごはんで(ですよね)、第9話は現在と過去のハンバーグなのかと思いきや、ちゃっかりオムライスが追加されたことにちょっとびっくり。君たち、社会人としてだけじゃなく胃袋も成長していたのか…?

咲子とかえでがすずめ文具堂でやりたいことを語り合うシーンは、2人が次のフェーズに踏み出す転機になったように思う。
先に語り出したのはかえでだ。優等生に見えていたかえでの辛い就職活動や、入社してからの葛藤。かえではそれを断ち切って、置かれた環境で頑張ろうと思うことで目標を見つける。吹っ切るきっかけとなったのは咲子だった。そういう大事な存在だからこそ、かえでは夢を打ち明けた。そして咲子もかえでに夢を伝える。一番に互いの夢を共有し合える関係の同期とは、いいものだ。
今は目の前の仕事をこなすことで精一杯だけれど、本当はそれぞれ実現したいことがあって、でもそれを人に言うことはなくて。誰にも言わないうちはただの夢でも、口に出せばそれは現実に一歩近付く。
咲子のごほうびごはんエピソード0であるこの店が、将来、2人の夢のエピソード0にもなって行くなら、とても素敵だ。

磯貝が咲子の取り柄は文房具愛だと伝えたことは、種となって咲子の心にしっかりと落ちていた。ようやく芽を出した、文房具を企画してみたいという咲子の想いは、これからどんな花を咲かせるのだろうか。ついでに恋の花も咲いちゃったりすることに、淡く、淡く期待。
なぜそんなに淡いかって?次回予告にも磯貝の姿が見えなかったからですよ、よよよ…(泣き崩れる)。

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