働かざる者たち最終話:働かざるアリが動く時

大沼議員の違法献金疑惑のネタを掴んだ新田。しかしそのスクープは政治部部長・河田に握りつぶされてしまう。
どうやら河田は大沼議員と繋がりがあるようで…。

最終話にして、本当に30分で収まるのか不安になる大展開だが、こちらの心配をよそにストーリーは結末に向けて鮮やかに収束していく。
物語を前に進めるのは、他ならぬ働かざる者たちだ。

失意の新田のために何かしたいという橋田の思いは、働かざる者たちを動かす。
河田が大沼議員としょっちゅう高級クラブに出入りしている、という情報を橋田に流す八木沼。
大沼が若村議員の同期当選だと教えるウィキさん(若村は橋田が地方の通信社で出会った記者、堀と関係が深い)。
川江は高卒同期を使って河田の3ヶ月の精算書を入手し、高級クラブの伝票が含まれていないかを一軒一軒調べる。
自発的に行動する彼らはどうだ、まるでよく働くアリみたいじゃないか。
妙に情報通な八木沼、ウィキプディアでの事実関係確認なら右に出るものはいないウィキさん、同期のネットワークが強みの川江。
つまり働かないアリたちも、働く目的を与えられ、それに自分の能力を活かせるのであれば喜んで働くのだ。

新田は働かざる者たちを否定してこう言った。
「じゃあ橋田くんは働かない人たちがのさばってる今の会社の方がいいと思ってるの?そんなのは個の論理だよ!」
しかし、それまで個の理論を優先しているかのように見えた働かないアリたちは、働く意義を見出した時、突如として協力し、組織立った行動を始める。
そしてついに河田を追い詰めるに至る。

何が彼らをそうさせたのか。
彼らは好き勝手に生きているようで、実は同期をとても意識している。
八木沼やウィキさんは「伝説の94年組」というくくりで呼ばれたせいかもしれない。
川江にとっては、一段下に見られている高卒同期の連帯感かもしれない。
心の奥では誰かとつながりたい、誰かに必要とされたい、誰かの役に立ちたい、そんな気持ちがあるのではないか。
それは堀が橋田に向けたこんな一言に象徴されている。
「いいなぁ…俺にもさ、君みたいな同期がいたらなぁ」

「有力議員に取り入って政局の情報をいち早く手に入れる、そのためには持ちつ持たれつ、それが俺たち記者と政治家の関係だ」
「この会話とそのネタを持って週刊誌にでも売るか?それをやったらお前は新聞記者ではなくなるけどな」
新田の追及に開き直る河田を正そうとするのは伝説の94年組、八木沼とウィキさんだ。
「おいおい、河田、お前そんなダセぇ奴だっけ」
「いやー、違うねぇ!河ちゃんは俺ら94年組のスターだった」
きっと彼らは新田のために奔走する橋田に、自分を重ねていたのではないか。そして同期である河田を最後の最後で救い出したかったのだと思う。

このドラマは、働くことの意味を考えるきっかけを与えてくれるとともに、組織のあり方についても疑問を投げかける。
物語の中で、同期同士や、橋田がこの数ヶ月で築いてきた働かないおじさんとの関係を通して人がつながり、組織として行動した時に大きな成果が生み出されることが示された。
「でも働き方を選択できない企業や社会に一体何の魅力があるんだろうか」
「会社という組織においてどんな理由があっても生産性のない人間を置く意味はない」
橋田と新田の意見は真逆のようで、実は同じだ。
個人が生産性を上げるのではなく、個を活かし、最大限に生産性を発揮させることができる組織でなければ存在価値はないのだ、と。

さて、橋田は働くことにどのような意味を見出したのか。
若い購読者を獲得するための部署、デジタルメディア事業部へ異動が決まった橋田は、川江と屋上でこんな会話を交わす。
「ま、つまりあんたは働くことを選んだってことね」
「いや、何も選ばないことを選んだんだよ」
「それ、何にも変わってないってことじゃん」
「変わったんだよ」

続きは5年後へ。
橋田は毎産新聞で働き続けているのか、仕事の電話で呼び出されている。コンビニでは『ケツ太郎物語』を手に取るビジネスマンがいて…。
そう、橋田は変わったんだ。
組織として、新田が命を削って書いた記事を読者に伝える手段を広げること。そして橋田自身が個として読者を楽しませること。
何も選ばないことは、何も諦めないことだ。

いつか毎産新聞の四コマに、ケツ太郎が登場する日が来ることを勝手に夢見ながら、最終話のレビューを結ぶ。

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