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「嫌われ監察官 音無一六」第7話(最終回)レビュー:そして清き水脈は続く

第7話あらすじ:亡くなった仲間の遺志を継ぐ勝野正己(高橋努)を助けるため、音無一六(小日向文世)を証拠隠匿で内部告発した四堂厘太郎(古川雄輝)。一六は警視庁特別調査室の元木秀章(堀部圭亮)らに身柄を拘束されてしまう。
しかし厘太郎は千住遼子(田中美佐子)や溝呂木三花(堀内敬子)から「一六は勝野を真の黒幕から守るため、監察下の名目で保護しようとしていた」と聞かされ後悔。一六の潔白を証明するため仲間と共に再捜査を開始する!(公式サイトより)

歪みのないパズルのピースが次々に揃い、目指すべき組織のあり方が描き出されて行くような、最終話らしい最終話。
終始緊迫したストーリーの中にもしっかりとコミカルな要素が盛り込まれ、これぞ「音無一六」全部盛りと言える満足感があった。

一六の真意を理解しないまま、先走って内部告発した厘太郎。それが間違った行動だったと分かり、勝野から正岡診療所へ存続のための資金が渡っていることに大義名分を求めようとする。だが、正岡は汚れた金には手をつけられないと勝野を拒んでいた。自分の行動の意味を完全に否定された厘太郎は、警察官としての自信を失ってしまう。

やさぐれる厘太郎に、二六は懲戒免職となった厘太郎の同期・安田が一から出直そうとしていることを伝える。そしてたとえ過ちを犯してもやり直せばいいと説く。
厘太郎は人を罰することを避け、自分なりの正義を見つけようとして来た。それは厘太郎自身が失敗し罰され、傷付くことを恐れているからに他ならない。
その怯えから、厘太郎は罰を受けた先にある光が見えていなかった。けれど安田も、かつて一六から処分を受けた二宮も、警察官以外の道でちゃんと再起を図っている。正しく罰され、自分の間違いと向き合えば、もう一度前に進めるのだ。

厘太郎は本能的に正義とは何かを理解している人だ。だから市民を守るためなら自らの危険を省みず、咄嗟に行動を取ることができる。しかし捜査においては波風を立てず、周りと上手くやろうとする意識が厘太郎の判断を曇らせ、正しいことから目を逸らしてしまう。
二六に諭され、厘太郎は自分の弱さを認める。千住に謝罪し、一六を救いたいと訴えた厘太郎。彼はやっと本当の意味でペルソナを脱いだ。

嫌われることから逃げていたという厘太郎だが、それは副総監の息子として七光りと陰口を叩かれたくない、ということでもある。実力不足だと思われたくないし、ましてやコネに頼るなどもっての外。
だから何を調べればいいかわからない、と三花を頼り、一六に面会するためなら四堂副総監の立場を利用しようとする厘太郎の姿には大きな変化が感じられた。

厘太郎が一番嫌われたくなかったのは、実は父親の四堂副総監だったのではないか。優秀で偉大な父が下す判断が間違っていると言える自信は彼にはなく、むしろ父なのだから正しいのかもしれないとすら思ってしまう。
どうしても追いつけない父。厘太郎はせめて父の力を借りず一人前に成長したと認めてもらいたくて、もがいて来たのだろう。
しかし一六と捜査を共にする中で、悪の上に成り立つ正義などないことを身を持って知った。四堂副総監の考えを真正面から拒否する厘太郎はもう、父の背中を追っていない。それは厘太郎が警察官として真に独り立ちしたことを示している。
かつて厘太郎が千住に語った「自分なりの正義」。本当の自分なりの正義とは、一六とは違う形の正義ではなく、父とは違う形の正義だったのだ。

しかし周囲からの見え方がどうであっても構わないと思える強さは、この事件が片付いたら警察官を辞めようと決めたからこそのものである。
それを察し、組織の浄化のために警察官として尽くして欲しいと厘太郎を引き留める一六。彼は厘太郎の心の動きも、彼に本質的に宿る正義感も見抜いていたのだ。

緊急幹部会議の場に勝野を連れ出し、組織ぐるみの裏金作りの証拠を付き付教けようとする厘太郎。そこに一六たちが表れ、不正だけでなく、それを隠蔽するために行われた井出と坪浦の殺人までが次々と明らかにされていく流れは鮮やかで、痛快である。
特に鬱屈とした感情から解放された厘太郎の判断は霧が晴れたように冴えわたる。証拠を守るための機転には、彼の本来持つ優秀さが遺憾なく発揮されていた。

だが機密費の問題は、殺人事件を隠れ蓑にうやむやに。一六たちの健闘が、結果的には総務部の機密費作りの事実を表に出さぬまま関係者を排除するという、四堂副総監の狙い通りの結果につながってしまった。その後味の悪さは、警察組織浄化の道のりの長さを想像させる。
だからこの先も、濁った水を汲み出す強い意志を決して絶やしてはならない。一六を継ぐ者として厘太郎が監察官を志すと決めたことの意味は、決して彼一人の成長物語に留まらず、組織の中に浄化の灯が光り続けることを表している。
また、志を同じくする元木のような存在がいるということは、一六たちだけが孤軍奮闘しているわけではないという希望を持たせてもくれた。

四堂副総監と一六たちの闘いはこれからも続く。
監察官同士となった一六と厘太郎の活躍を、いつかまた見られる日が来ると信じて。

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