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舞台『室温~夜の音楽~』感想(1):なぜ間宮が主役なのか

ストーリー:田舎でふたり暮らしをしているホラー作家・海老沢十三(堀部圭亮)と娘・キオリ(平野綾)。
12年前、拉致・監禁の末、集団暴行を受け殺害されたキオリの双子の妹・サオリの命日の日に、様々な人々が海老沢家に集まってくる。巡回中の近所の警察官・下平(坪倉由幸)、海老沢の熱心なファンだという女・赤井(長井短)。タクシー運転手・木村(浜野謙太)が腹痛を訴えて転がり込み、そこへ加害者の少年のひとり、間宮(古川雄輝)が焼香をしたいと訪ねてくる。
偶然か…、必然か…、バラバラに集まってきたそれぞれの奇妙な関係は物語が進むに連れ、死者と生者、虚構と現実、善と悪との境が曖昧になっていき、やがて過去の真相が浮かびあがってくる…。
公式サイトより)

娘を殺害された父親。離れて暮らす母親のため、男に横領をそそのかし金を集めるもう一人の娘。妻を寝取られた恨みから相手の子供に手を掛ける警察官。窃盗を働こうとするタクシー運転手。弟の自殺の原因を作った者への怒りを抱える女。海老沢家に集まる面々は憎悪や企みの最中にいる者ばかりだ。
相当に“訳アリ”な人々が交わす会話には言葉遊びや皮肉、冗談が所々にあしらわれ、聞けば笑いを堪えられない一方、彼らが何を考えているのかわからない、本心が見えないという気持ちにもなる。

一方で間宮は12年前にリンチ殺人を犯したという点において十分に”訳アリ”ではあるのだが、なんというか、とても”普通”なのである。
”普通”といってもちょっと変ではあって、被害者の自宅にケーキを持って登場してしまったりする。けれどそれも礼儀正しくしないといけないという誠意と言えなくもない。お酒が入れば被害者の家族とも楽しく喋ってしまう。誤って手を切ってしまった海老沢のために必死で絆創膏を探し、結局見つからなければ真剣に謝る。単純で幾分足りないところはあるにせよ、間宮には裏も表もない。
弟を人殺し呼ばわりされることに苛立つ赤井を「加害者なんだから」となだめるあたり、自分の立場をちゃんと認識して、感情を露わにすることを抑えようともしている。その感覚は、自分の欲望を達成するために周囲を欺いて行動しようとする人々と並んだ時、圧倒的に”普通”だ。

だからこそ間宮がサオリに暴行を加るに至った理由や、最後にキオリをサオリと思い込む時、その狂気が際立つ。
”普通”と狂気は紙一重であり、その境界線は非常に脆いものだ。間宮はその象徴としての主人公なのではないか、と思う。

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