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真夜中ドラマ「ごほうびごはん」第10話レビュー

ハレの日もあれば、ケの日もある。日常があるから非日常が際立つ。
第10話はごほうびごはんと、それを陰で支える質素倹約ケチケチごはんの対比が鮮やかな回であった。

ボーナス前、実家から届いた野菜と特売品で乗り切る咲子(桜井日奈子)。それでもお豆腐ガパオ、もやしカルボ、天かす玉とろ丼と工夫に富んだ食事はどれも美味しそうで、節約しながらも食を楽しもうとしているのがとても咲子らしかった。
ごほうびごはんとケチケチごはんでバランスを取ってやりくりする姿が見えたことで、咲子が経済的に自立した社会人であることに改めて気付かされたりする。前回自分は必要とされていないんじゃないか、長野に帰りたいと悩んでいた上京直後の咲子を見ているだけに、東京で一人頑張って、初のボーナスを手にするところまで来たんだね…と、なんだかしみじみ。

で、ボーナスの使い道はやはりごほうびごはんなわけで(うん、知ってた)。そこで家族にご馳走しようと思うのがまた咲子らしくてほっこりなのだが、長野に送ったグルメカタログをちゃっかり自分の分まで買っちゃってるところもこの上なく咲子らしい。一体どれだけ「らしい」のか。
会社にまで持参したカタログには既に付箋がびっしりで、注文を迷いに迷っている様子。それ、付箋貼り過ぎてもう意味ないんじゃない?さては君、テスト前教科書に全部線引いちゃうタイプ?赤い下敷きで隠したら文字一切なくなっちゃう系?
でも悩む楽しみだってある。自分にも同じカタログを買うことで、そういう時間まで家族と共有できるというのは、なかなかいいものだ。

結局、お礼の電話を掛けて来た桃子(中尾萌那)に「私ならブランドのバッグとか買うけどな~」と言われて咲子が心を決めたのは、松坂牛の特選すき焼き肉セット。プラダの靴が欲しいの♪ならぬ松坂の牛が欲しいの♪、である。「痛快ウキウキ通り」だって十分懐かしいけれど、咲子も「東京砂漠」なんて言っていたりするからキニシナイ。古い歌を知っているあたり、咲子はおばあちゃんが口ずさむ曲を覚えたのかな、それとも一緒に観たテレビの懐メロ番組でよく聴いたのかな、なんて実家での暮らしや家族との関係性が透けて見えたりする。
松坂牛のすき焼きを堪能する咲子は、舌の上で溶ける松坂牛と同じくらいとろけそうな表情をしていて、そこには自分が働いて手にしたボーナスで自分の好きな物を味わう幸せが溢れるようだった。
人生で次にこのお肉を食べられるのはいつの日か。松坂牛に再会を誓う咲子。とっておきの時にしか食べられないから、その味はより一層深く記憶に刻まれる。モーニング・ステーキをしばしば嗜むという叶姉妹に、このありがたみは分かるまい。ああ叶姉妹でなくてよかった…っていうのは嘘です、できるものなら私も朝からファビュラスにステーキかましてみたいです。ちょっともたれそうではあるけれど。

それにしてもボーナスの使い道を最高の状態で迎えるために自分磨き?に邁進する咲子とかえでのゴールがあまりに違って、さすが色気より食い気選手権北信越ブロック代表だよ…と肩を落とさざるを得ない。彼氏との温泉旅行先から送られたかえでの写真を見て、咲子は桃子の言葉を思い出す。
「美味しいものに出会った時、それを食べさせたいって思う人が自分の好きな人なんだって」
脳裏に浮かぶのはかえで(岡崎紗絵)、青柳(未来)、本田(きづき)、森ケ崎(吉田ウーロン太)といったシステム物流管理部の面々。磯貝(古川雄輝)が出てこないのが惜しい、実に惜しい。けれど恋とは、誰に食べさせたいかを考えて思いつくのではなくて、美味しいごはんを食べた時、どうしてか分からないのにその人がふと心にカットインしてきてしまうものなのだと思う。
もし咲子がそうやって恋心に気付く時が来るなら素敵だけれど、残りあと2話、さてさてそんな瞬間が咲子に、もしくは磯貝に訪れるのだろうか。

次回はお仕事ドラマっぽい展開の様子。咲子と磯貝、混ぜるな危険の「変な奴」同士2人には何やら衝突の予感もしてちょっとハラハラ。波風立つくらいのインパクトも恋の始まりには必要だよねとちょっとニヤニヤ。ハラニヤの半顔で来週を待ちたいと思います。

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