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映画『あなたがここにいてほしい』(日本語吹替え版)レビュー:二度目は涙の種類が変わる。純度の高い恋愛映画

『あなたがここにいてほしい』は昨年、中国のバレンタインデーにあたる5月20日に公開され、週間チャート2位、興行収入65億円を突破するなど、同時公開の恋愛映画を圧倒し大ヒットとなった作品です。(後略)

初恋の女性を一途に思う主人公のリュー・チンヤンの日本語吹替えを担当するのは、日本のみならず、アジア圏で大人気の俳優・古川雄輝さん。そして恋人のリン・イーヤオ役の日本語吹替えを担当するのは、声優としてだけでなく、アーティストとしても武道館でコンサートを行うほどの人気を誇る声優・三森すずこさんが決定。
小林千晃さん、杉田智和さん、潘めぐみさん、増田俊樹さん、新井里美さん、大須賀純さん、椎名へきるさん、武藤志織さん、成澤卓さん、浅水健太朗さんら豪華声優陣が結集しました!
公式サイトより

この作品、必ず二度は観てほしい。二度目に流す涙の種類が、一度目のものとはまったく異なるのを感じられるはずだから。

高校時代から始まるチンヤンとイーヤオの恋だが、結婚への道のりは平坦なものではない。
チンヤンの学歴や職業のために母親から結婚を反対されるイーヤオ。チンヤンはイーヤオに満足な生活をさせられるよう仕事に励むが、彼の正義感の強さは不正がまかり通る社会では疎まれ、さらには友人に金を騙し取られ…。
一度は離れても10年に及ぶ愛を貫こうとする2人を待ち受ける運命は衝撃的なもので、その悲しさに私たちは涙を流さずにいられない。同時に彼らが結ばれることを阻んだ中国の文化や社会的構造の問題に憤りを感じたりもする。

初回鑑賞時は観ている間、2人の恋愛がどうにかハッピーエンドを迎えてほしいと願う気持ちから、何かが起こる度に終始ハラハラしてしまった。
けれどその見方はこの作品の本当の素晴らしさを損なわせてしまうものなのではないか。
結末を知ってからの二回目は、物語の展開に踊らされることなく、2人が未来を信じて前を向く姿やお互いを想い合う心、共に過ごす時間を大切に重ねていく様子に没頭することができる。
見上げる空の飛行機雲とか、新居作りや、南京の夜景とか、建設中のビルでのジェスチャー遊びといった場面たち。いずれ失われてしまうとわかっているから、その美しさは余計に強い印象を放つ。
願望と幻覚と現実が入り混じるラストにも、どれが本当なのか?と翻弄されることがない。そう、これは2人の想いの強さが見せている光景なのだ。
だから二度目の涙は、一度目とは違う。悲しみはもちろんあるが、2人が最後までお互いを想ったことを見届けて、その純度に心が震える。たとえ結末が願っていた形ではなかったとしても。

さて、正直なところ、チンヤンはパッと見で特筆すべきイケメンではない(個人の好みの問題です、スミマセン)。そもそも最初は髪をだらしなく伸ばした問題児としての登場だし。しかし物語が進み、彼の真っ直ぐな性格が感じられるにつれて、不思議なことにどんどんカッコよく見えてくる。
目先の利益に流されず、正しさを優先する。仲間を大事にする。責任感が強く、愛する人に会いに行く時さえ仕事を投げ出すことなく完遂させる。男気ある内面はとても魅力的で、それが色気をも醸し出す。
チンヤンはイーヤオが困難を抱えながらも10年をかけて愛したという事実に説得力を与えてくれる存在だ。

吹替え版の古川雄輝の声は、チンヤンのそうした人柄を余すことなく表現している。古川雄輝推しの私としては、彼の声はとても素敵だと思っているし強力な推しポイントの一つなのだが、他の俳優の吹替えをした時にマッチするのかという点には多少なりとも不安があった。
しかしどうだろう、最初こそ「古川雄輝の声だ」と意識して聴いていたのに、気付けばその声はチンヤンその人のものにしか感じられなくなっているではないか。ジャンルは違っても、古川雄輝という人はやはり、演技によって別の誰かを生きることができる力のある人なのだと改めて思わされた。

さあ、そろそろ三周目に入ろうか。今度はチンヤンと、その声に恋するために。

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