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another RISKY~「RISKY(リスキー)」もう一つの結末予想(2)

時々、罪の始まりについて考える。
亨を誘惑した美香か。誘いに乗った亨か。亨のプロポーズを拒む理由になったひなたか。それとも。

「会えて嬉しいよ」

私を見上げる亨はなぜか穏やかな、何かを諦めたような表情だ。
首にかけられた手を振り払おうともせず、それどころか私の頭に手をやり、髪を撫でる。ゆっくりと、慈しむように。
そんな風に誰かに触れられるのは久しぶりで、ずっと遠くに置いてきた感情を思い出してしまいそうになる。

でも、違うの亨。
私は死の間際でもがくあなたが見たい。必死に命乞いをしてほしい。
あなたを本当に殺したかったわけじゃない。

ひなたと光汰を利用して、亨からも美香からもすべてを奪って。復讐はそれで終わったはずだった。
それでも満たされずに私がここにいるのは…。

転落していく亨を見ているのは、愉快どころか不快だった。
ひなたの思うがまま、心を絡めとられていく彼は、失点を重ねても地位にしがみつこうとする彼はなんと弱いのか。
私はこの人の何を愛していたのだろう?
そして彼が私ではなく、ひなたや美香に求めたのは一体何だったのだろう?

「君はかっこいい女性だけど、自分が思っている以上に可愛い人だよ」
付き合う前、彼が私に言ってくれた言葉。私はそれにすがった。
私は彼の守るべき存在になりたかった。一人で頑張らなくても大丈夫だよと言ってほしかった。
でも本当にそれだけ?
彼は大手商社で働くエリートだ。結婚すれば経済的にも安定できる。
早くに親を亡くした私が、彼を普通の幸福な家庭を手に入れる手段として見ていなかったと、果たして言い切れるだろうか。
私は彼を愛していたのかな。それとも彼の外側を愛していたのかな。

優しいところが好きで、優柔不断なところが嫌いだった。
その弱さにもっと深く触れることができたら、私が自分の汚さをさらけ出すことができたら、私たちは揺らがない絆を結ぶことができたのだろうか。

そう、罪の原点は、私にある。

復讐の終わりに、あなたが醜く生に執着する姿を見たくなった。
この復讐の中で、あなたがひなたや美香に晒して来たもの。私には決して見せてくれなかった顔。それを最後に手にしたかった。死への恐怖という最高の形で。
けれどあなたは悲しげに微笑むだけで、それに応えてはくれない。
やっぱり一番欲しいものは、手に入らないんだね。
私は彼の首からそっと手を離す。

「どうしてやめるの…?」

彼はさっきまで私の髪を撫でていた同じ手で、私の手首を押しとどめるように、けれど弱く掴む。

亨。私は大切だったはずの妹を妬んで、憎んで、心に消えない傷を付けたのよ。
私にあなたを殺す資格なんてない。

手首を掴んだ手は、下へ滑るように降りて、今度は私の5本の指を握る。

「ずいぶん痩せたね」

彼の静かな声は、私をさらに深い闇へ誘うように響く。
闇の底には、温かさと安らぎが見えるような気がした。そこに身を沈めることができたなら。

もう全部終わりにしよう。

「亨、私を殺して」
(続く)

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