ドラマ「ねこ物件」第9話レビュー:充足と絶望
毅は虫歯で眠れず、硬い物も食べられず。丈はバイトをクビになり…大袈裟に言えば生きていくために大切なことが満たされなくなってる状態、それが第9話の始まり。
虫歯はともかく、仕事がなくなってしまった丈に対しても「大変なのはわかります」と言いつつ、優斗の反応はどこかのんびりしたもの。
丈はバイトがしたいのではなくボクシングをしたいのだから、全面的に応援しようと言う優斗。バイトが決まらなくて大丈夫なのか?と心配している様子の他の入居者たちとは微妙にズレがあるのは、生活のために働くという意識が薄いからだ。
優斗が生きて行くために必要だと思っているのは、仕事ではなく、別のもので…。
「僕も死のうかな」
もしも幸三がいなくなったらどうするか。その問いに答える優斗の言葉は衝撃的だけれど、優斗のこれまでを考えると分かる気がする。将来を悲観してとか、自ら命を絶とうとする人のそれと優斗が言う死は、たぶん違う。
優斗にはもうこれ以上、やりたいこと、手に入れたい物がなかったのだと思う。猫と幸三と毎日丁寧な暮らしに十分満足していて、もう望むことなどなくて。まるで寿命を全うした老人みたいな心境だったはないだろうか。
満たされているということは、希望が失われているということでもある。
けれど幸三は、優斗の知らない世界に夢が隠れされていることを知っていて、死んではいけないと言う。いつか優斗なりの冒険に出なさいと。まだまだ優斗は人生を終えるべきではないのだ。
第1話で幸三を失い、二星ハイツを開くにあたり優斗が宣言した「この家は夢を実現するためにある」という言葉は、優斗自身のためであったのかもしれない。優斗は生きるために夢を見つけなければならないし、夢を見つけるために生きて行かなければならない。
幸三と猫とだけの暮らしをしてきた優斗にとって、シェアハウスを営むことは既に大冒険に違いない。でも夢を見つけていない優斗は、まだ自分の冒険を始められていないと言う。夢を持ちたいと思うこと、それ自体が優斗にとっては生きる光だ。
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