真夜中ドラマ「ごほうびごはん」第8話レビュー
私の記憶が確かならば…(ここで脳内鹿賀丈史を召喚してください)
主役・咲子(桜井日奈子)以外の人物のシーンからスタートするのは第8話が初めてであり、その記念すべき人はあの人、磯貝(古川雄輝)だ。
それだけの特別扱いをされる意味はちゃんとある。だって彼は、咲子を夢の世界に連れて行ってくれる王子様なのだから。
では、待ちに待ってた磯貝回、アレ・キュイジーヌッ!
お互いちょっと変わった人だな、と認識していて「混ぜるな危険」というより混じり合わなさそうな咲子と磯貝。
2人はある昼休み、とんかつ屋で鉢合わせする。咲子が手にしていた「全国うまいもの物産展」のチラシが気になって気になって挙動不審な磯貝と、カツの揚がる音に心を奪われて惚ける咲子。その噛み合わなさは絶妙で、最高におかしい。
そんな2人がやはり味噌カツを通じて心を通わせる…というのはまぁ、これまでの「ごほうびごはん」のセオリー通りだ。
しかし、想像上の味噌煮込みうどんを一緒に食べるというのは新しかった。
咲子は味噌煮込みうどんをまだ口にしたことがない。なのに磯貝の言葉に誘われ、あたかも目の前に味噌煮込みうどんがあるかのように、磯貝が作り出した世界に没入していく。
「眼鏡をかけている人は眼鏡がもくもくもくもく~と一気に曇って、一旦目の前が真っ白になる」
「あら、大変だぁ~」
その場で食べているなら、眼鏡が曇るのは当たり前の現象。でもそれを実際には味噌煮込みうどんがあるわけではないのに表現して、咲子を夢の中に誘い込む磯貝はすごい。そして応えるようにのめり込んでいく咲子もまた、すごい。
慌ただしい、昼のとんかつ屋の店内から切り離された空間に咲子と磯貝だけがいる。それはこの上なくロマンティックな空間だ。たとえ2人の視線が決して絡まり合うことなく、ただ各々の味噌煮込みうどんに注がれていたとしても。
まず現実で共に味噌カツを、さらに想像で味噌煮込みうどんを味わう。2人はこれまでの「ごほうびごはん」とは違う次元での交流を果たしたわけだ。
名古屋メシ話で盛り上がる2人だが、咲子が大事に使っているといううさきぎのクリップの話を聞くと、磯貝は慌ただしく席を立ってしまう。そういえば、そもそも咲子とは別々に店に入ったのに「全国うまいもの物産展」のチラシが気になるあまり同じテーブルに呼び寄せたはずで…そのチラシを確認することなく店を出るなんて!デキる男のはずの磯貝がミッションコンプリートしないままとは何事ぞ。
それもそのはず、そのクリップは磯貝のアイデアで作った物なのだという。どうやら磯貝は「これ作った人、天才だと思います」と咲子に称賛されて、照れと戸惑いからその場を後にしてしまったようだ。
青柳(未来)曰く「可愛いデザインとか、ほっこり癒されるデザインで、長く使ってもらえそうな物考えるのがめちゃくちゃ上手い」磯貝だが、周りからはかえで(岡崎紗絵)が言うように「気難しい人」という印象を持たれがちで「スーパーマイペース人間だから勘違いされやすい」。
磯貝が誤解されやすいのは、文房具に注ぐ情熱や、可愛らしいものを愛する心、そういった自分の内面を故意に隠しているからだと思う(それをさらけ出すことが恥ずかしい気持ちは、なんとなくわかる気がする)。
しかし人を寄せ付けない見せかけのクールさは、名古屋メシや、咲子のズレた行動や、自分が企画した文房具を褒められたことで緩んで、中の素直な磯貝が顔を出して笑う。そしてつい笑ってしまった自分に気付いて、またすぐに冷静を装う。磯貝が必死に自分を取り繕っていることがわかると、彼がたちまち愛すべきキャラに見えて来るから、不思議だ。
磯貝の心が表面に出たり、また隠れたりする様を自然に表現する古川雄輝の演技が、とてもいい。
そして磯貝はたぶん、褒められるのと同じくらい褒めることも苦手だ。そんな磯貝から「池田さんも十分すごいけどな」という言葉を咲子が引き出したという事実は、控えめに言ってエモい。
咲子が食べることに、文房具に、人一倍情熱を傾けていること。愛の深さゆえに時々突っ走ってしまうくらいに。それが磯貝にいつもとちょっと違う行動をさせたのだとしたら…
咲子にとっても、自分では気付いていなかった自分の取り柄を見出してもらったというのは特別なことで、やっぱりこの2人の間に何かが生まれて欲しいと期待してしまう。
今回は一人で「全国うまいもの物産展」でうなぎの蒲焼きを仕入れて美味しくいただいた咲子。彼女がごはんを食べる時、いつか一緒に食べたい相手として磯貝を思い浮かべる日が来ればいいと願う(ていうかそのうなぎ、磯貝も相当食べたかったと思うぞ)。
第9話予告に磯貝の姿が見当たらなかったことはさておき、これから2人の関係はごほうびダンスのように「明日はもっとFantasy!」となりますかどうか。
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