「不正署名」とは何か?対処はどうすべきか?(私論)

はじめに

愛知県知事リコール活動も既定の署名期間が終了しました。一部ネット界隈では、いよいよ何かの動きがあるかも、とささやかれています。
しかしながら、いまいち言葉の定義や誤用自分の思いか法的規定事項なのかあいまいに議論されているように思えます(ある意味そのあいまいさを使って印象操作しているのかも)。
そこで今回は、「不正署名」の内容・定義から、対処方法について、自分なりに知らべ、考察した事項を記載していきます。

毎度のことですが、法律の素人が素人なりに調べた事項です。正確性を問うならば法曹関係者に相談してくださいね。

「不正署名」ってそもそも何か?

ネット界隈を見ると、「不正署名だ」「偽造署名だ」「抜き取りだ」等いろいろ言われています。
しかし、その「不正署名」の定義がはっきりしていない。

以下、「署名」は、名前が書かれた紙の事と定義します
また「署名行為」は、紙に名前を書く動作の事と定義します

手前味噌で恐縮ですが、過去、罰則関係をまとめたnoteを書きました

改めて引用しながら記載します。地方自治法を見ると、集めた署名はその効力の証明を求める事になっています。そしてその効力審査は、選挙管理員会が行う事になっています。これが、署名が「有効」であると認めさせることと解釈できると思います。

第七十四条の二 条例の制定又は改廃の請求者の代表者は、条例の制定又は改廃の請求者の署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出してこれに署名し印をおした者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めなければならない。この場合においては、当該市町村の選挙管理委員会は、その日から二十日以内に審査を行い、署名の効力を決定し、その旨を証明しなければならない。

じゃぁ、それに対するのは?「無効」になります。「無効」となる要件は以下に記載あります。

第七十四条の三 条例の制定又は改廃の請求者の署名で左に掲げるものは、これを無効とする。
一 法令の定める成規の手続によらない署名
二 何人であるかを確認し難い署名
② 前条第四項の規定により詐偽又は強迫に基く旨の異議の申出があつた署名で市町村の選挙管理委員会がその申出を正当であると決定したものは、これを無効とする。

整理します。
「有効」の条件
 ①署名し印をおした者が選挙人名簿に登録された者である
「無効」の条件
 ②法令の定める成規の手続によらない署名
 ③何人であるかを確認し難い署名
 ④詐偽又は強迫に基く旨の異議の申出があつた署名で、市町村の選挙管理委員会がその申出を正当であると決定したもの

つまり、「署名」には2種類あって、「有効」か「無効」かだと考えられます。また、その「有効」「無効」の色がつくのは、

条例の制定又は改廃の請求者の代表者は、条例の制定又は改廃の請求者の署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出してこれに署名し印をおした者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求め

した時と考えられます。

ここが今回のリコール活動をややこしくしている部分だと思います。選挙管理委員会は、有効数に達するだけの数が来てはじめて審査を行います(施工令だったか、各所選管事務規定だったかどこだったっけ?)。すなわち、時系列と条件的に並べて記載すると

「署名行為にて集めた時点の署名」⇒ただの署名
 ⇒CASE A) 有効数に達する:「有効」「無効」の色がつく
 ⇒CASE B) 有効数に達しない:ただの署名のまま

今回、残念ながら愛知県知事リコール活動の署名は、有効数に達しませんでした(おそらく)。そうすると、集めた署名が何筆であろうと、「ただの署名」でしかない。
つまり、今選挙管理委員会にあり、この後事務局に返却されるである署名は「ただの署名」であると考えます。

その数を、多いとみる、少ないとみるは個人の信条。
それを政治利用しようとするからややこしい。
民主主義は、残念ながら規定数取ってなんぼ。規定数に達しなければ、次の手立てを考えるべき。

不正行為の署名は?

偽造などの罰則規定を以て、「不正署名」の定義をされる方もいると思います。改めて罰則規定を見てみます。

第七十四条の四 条例の制定又は改廃の請求者の署名に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮こ又は百万円以下の罰金に処する。
一 署名権者又は署名運動者に対し、暴行若しくは威力を加え、又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、又は演説を妨害し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて署名の自由を妨害したとき。
三 署名権者若しくは署名運動者又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して署名権者又は署名運動者を威迫したとき。
② 条例の制定若しくは改廃の請求者の署名を偽造し若しくはその数を増減した者又は署名簿その他の条例の制定若しくは改廃の請求に必要な関係書類を抑留、毀き壊若しくは奪取した者は、三年以下の懲役若しくは禁錮こ又は五十万円以下の罰金に処する。
(以下略)
⑥ 条例の制定又は改廃の請求に関し、政令で定める請求書及び請求代表者証明書を付していない署名簿、政令で定める署名を求めるための請求代表者の委任状を付していない署名簿その他法令の定める所定の手続によらない署名簿を用いて署名を求めた者又は政令で定める署名を求めることができる期間外の時期に署名を求めた者は、十万円以下の罰金に処する。

よく読むと、「署名」そのものではなく、「署名行為」をした「人」に対しての罰則規定です。つまり、あくまで「人」について、「違法行為」なのか「適法行為」なのかが分類となると考えます。

重要なところですが、上記の「違法」な「収集活動等を行ってはならない」と記載されていますが、選管へ提出や有効性の審査請求をしてはいけないとは読み取れません。これが私の解釈ですが、法律に詳しい方、いかがでしょうか?

ヘンテコ署名があった時、どうすべきか

以下は、法の解釈、判例等から行きついた当方の私案です。

署名収集活動をしていると、少なからず「同じ人が書いてるじゃん」「怪しい」と思われる署名が入ってくるでしょう。
具体的事項として、以下のもとの仮定し、それをここでは「ヘンテコ署名」と定義します。
 ・筆跡からみて、同一人による記載が疑われるもの


①ヘンテコ署名を記載する人を目にしたら
 ・すなわち、「同一人が複数記載行為」をしているのを目にしたら、になります。
 ・行為をやめさせましょう。また、署名者当人の同意のもと、無効化処置をしましょう。
 ・無効化処置のbetterは、記載した人の自著署名・押印で、署名簿に取り消しや二重線見え消しをしておくとよいと思います
 ・ここで、署名用紙の破損、破棄もよいですが、後々揉める事を考えると、見える形、残る形での処理がよいと考えます。

②ヘンテコ署名の存在を認めたら
 ・すなわち、ナンバリングや集計時に「ヘンテコ署名」を見つけたときです。
 ・まずダメな行為は、署名者以外による「抑留、毀き壊若しくは奪取」は行ってはいけないと考えます。その行為そのものが、地方自治法七十四条の四に該当と考えます。
 ・そう考えると、そのままありのまま収集、選挙管理委員会へ提出するのが適法と考えます。ただし、その際に「違法行為により収集された署名」の可能性がある旨、文書や口頭等で伝える、明らかにする事や、後々の事を考えると当該署名簿Noを控えておくなどがbetterかと。
 ・必要に応じ、犯罪の可能性を見つけたとして、「告発」するのもよいかもしれません(ただし公務員は告発義務あり)。

署名の真贋は何を以て定められる?

有効数に達した場合の話ですが、選挙管理委員会は、選挙人名簿照合により有効無効を定めます。二重署名も弾かれるでしょう。
やっかいなのは「選挙人名簿にある」が「本人が署名したかが不明確」なもの。ここの判断プロセスは、正規には以下と考えられます。

 ①選挙管理委員会が有効無効を一次的に判定
 ②縦覧により、その判定を有権者に問う
 ③疑義のある「関係者」が、選挙管理委員会に異議申し立て
 ④再度選挙管理委員会で審査
 ⑤有効数確定

このあたりのプロセスは、地方自治法第七十四条の二にあります。

第七十四条の二 条例の制定又は改廃の請求者の代表者は、条例の制定又は改廃の請求者の署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出してこれに署名し印をおした者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めなければならない。この場合においては、当該市町村の選挙管理委員会は、その日から二十日以内に審査を行い、署名の効力を決定し、その旨を証明しなければならない。
② 市町村の選挙管理委員会は、前項の規定による署名簿の署名の証明が終了したときは、その日から七日間、その指定した場所において署名簿を関係人の縦覧に供さなければならない。
③ 前項の署名簿の縦覧の期間及び場所については、市町村の選挙管理委員会は、予めこれを告示し、且つ、公衆の見易い方法によりこれを公表しなければならない。
④ 署名簿の署名に関し異議があるときは、関係人は、第二項の規定による縦覧期間内に当該市町村の選挙管理委員会にこれを申し出ることができる。
⑤ 市町村の選挙管理委員会は、前項の規定による異議の申出を受けた場合においては、その申出を受けた日から十四日以内にこれを決定しなければならない。この場合において、その申出を正当であると決定したときは、直ちに第一項の規定による証明を修正し、その旨を申出人及び関係人に通知し、併せてこれを告示し、その申出を正当でないと決定したときは、直ちにその旨を申出人に通知しなければならない。
⑥ 市町村の選挙管理委員会は、第二項の規定による縦覧期間内に関係人の異議の申出がないとき、又は前項の規定によるすべての異議についての決定をしたときは、その旨及び有効署名の総数を告示するとともに、署名簿を条例の制定又は改廃の請求者の代表者に返付しなければならない。
⑦ 都道府県の条例の制定又は改廃の請求者の署名簿の署名に関し第五項の規定による決定に不服がある者は、その決定のあつた日から十日以内に都道府県の選挙管理委員会に審査を申し立てることができる。
⑧ 市町村の条例の制定又は改廃の請求者の署名簿の署名に関し第五項の規定による決定に不服がある者は、その決定のあつた日から十四日以内に地方裁判所に出訴することができる。その判決に不服がある者は、控訴することはできないが最高裁判所に上告することができる。
⑨ 第七項の規定による審査の申立てに対する裁決に不服がある者は、その裁決書の交付を受けた日から十四日以内に高等裁判所に出訴することができる。
⑩ 審査の申立てに対する裁決又は判決が確定したときは、当該都道府県の選挙管理委員会又は当該裁判所は、直ちに裁決書又は判決書の写を関係市町村の選挙管理委員会に送付しなければならない。この場合においては、送付を受けた当該市町村の選挙管理委員会は、直ちに条例の制定又は改廃の請求者の代表者にその旨を通知しなければならない。
⑪ 署名簿の署名に関する争訟については、審査の申立てに対する裁決は審査の申立てを受理した日から二十日以内にこれをするものとし、訴訟の判決は事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならない。
⑫ 第八項及び第九項の訴えは、当該決定又は裁決をした選挙管理委員会の所在地を管轄する地方裁判所又は高等裁判所の専属管轄とする。
⑬ 第八項及び第九項の訴えについては、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)第四十三条の規定にかかわらず、同法第十三条の規定を準用せず、また、同法第十六条から第十九条までの規定は、署名簿の署名の効力を争う数個の請求に関してのみ準用する。

ちなみに、有効無効の所で出てきた

第七十四条の三 
② 前条第四項の規定により詐偽又は強迫に基く旨の異議の申出があつた署名で市町村の選挙管理委員会がその申出を正当であると決定したものは、これを無効とする。

この「前条第四項」とは、七十四条の二④ すなわち縦覧期間の異議申し立てのことですね。

選挙管理委員会で一次判定後、関係人の確認を得るわけです。
そこで、自ら提出した署名に、無効の疑義があるときは縦覧期間に申し立てをするのが正規な手続きと思います。

今回のリコール活動で見えた直接請求制度の課題

上記、審査手続き等を記載しましたが、あくまで「有効数」に達してからのプロセスです。

今回あきらかになった直接請求制度の課題

要約すると、以下の課題が明らかになったと思います。

有効数に達しない限り、選管審査プロセスにまで達しない
②有効数に達しなくとも、その収集署名数や状況報告にて政治活動等を実施できる(影響力を行使できる)

②はいろんなケースが考えられます
 ・規定数は達しなかったけど、多くの人が解職を求めている!
 ・署名活動は違法な方法でやっていた数字であって、活動そのものがインチキだ!
 ・違法な方法で署名収集活動を妨害している!

どれもが可能性ありです。どれかだけではありませんね。

話を戻し、署名疑義に関する関係人は誰?

そしてここの「関係人の異議」でいろいろ揉めた裁判もあるようです。
その中で、署名の有効無効は何によるかの参考になる判例がありましたので引用します。

判例その1:署名簿の異議申し立てのできる関係人

昭和43(行ウ)3  天城町長解職請求者署名簿の署名の効力確定請求事件
昭和44年12月8日  鹿児島地方裁判所  地方自治

要旨などにポイントが記載してあります。
委任者は、自ら収集した署名以外は効力訴えの当事者資格を有しない。

判示事項
 町長解職請求代表者の委任を受けた者は自己の募集した簿冊の署名以外の署名簿の署名の効力に関する訴えについて原告適格を有するか

裁判要旨
 町長解職請求代表者の委任を受けた者は,自己の募集した簿冊の署名以外の署名簿の署名については関係人ではないから,右署名の効力に関する訴えの当事者適格を有しない。

判例その2:署名の有効性審議方法

昭和32(オ)317  区長解職請求者署名簿と選挙人名簿との照合確認証明行為取消請求
昭和36年7月18日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  東京地方裁判所
判示事項
 一 特別区の長の解職請求者署名簿における個々の署名の効力を争う方法。
二 特別区の長の任期満了後における解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴の利益。
裁判要旨
 一 特別区の長の解職請求者署名簿における個々の署名の効力を争うには、署名簿の署名の効力に関する訴訟によらなければならない。
二 特別区の長の任期が満了したときは、解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴の利益は、失われる。

判例その3:誰が署名の無効性を証明できるか

昭和60(行ウ)2  町長解職請求者署名簿の署名の効力に関する決定取消請求事件
昭和60年12月27日  福島地方裁判所  地方自治
判示事項
 1 地方公共団体の長の解職請求者署名薄の署名の効力に関する異議の申出に対し,地方自治法81条2項,74条の2第8項に基づき選挙管理委員会がした決定について,解職請求代表者がその取消しを求める訴訟の訴額 
2 解職請求者署名薄における名のみが自署で姓が自署でない署名の効力 
3 1掲記の署名について署名者本人が詐偽,強迫を無効事由として異議申出をしていない場合に,右署名簿の署名の効力に関する異議の申出に対し,地方自治法81条2項,74条の2第8項に基づき選挙管理委員会がした決定の取消しを求める訴訟において,選挙管理委員会又は被解職請求者が右無効事由を主張することの可否 
4 1掲記の訴訟の原告は,同委員会の組織構成上の瑕疵又は手続上の違法を理由として,同決定の取消しを求めることができるか

裁判要旨
 1 地方公共団体の長の解職請求者署名薄の署名の効力に関する異議の申出に対し,地方自治法81条2項,74条の2第8項に基づき選挙管理委員会がした決定について,解職請求代表者がその取消しを求める訴訟は,各署名ごとに各別の訴えを構成し,その非財産権上の請求を併合したものと解されるが,右訴訟の目的は,右長の解職請求成否の基礎事実たる有効署名の確定ということに尽きるから,その訴額については,これを実質的に解し,右各別の訴えの擬制訴額を合算することなく,1個の擬制訴額によるベきである。 
2 解職請求者署名簿の署名は,その解職請求の意思の表意者が何人であるかを認めるに足りるものであればよく,これは特段の事情のない限り名のみで特定し得るものであるから,名が自署である以上その姓が自署でなかったとしても,このことは署名の効力を防げるもではない。 
3 地方自治法74条の3第2項の規定は,詐偽又は強迫が署名者本人の内心にかかわる事柄であって,外形的事実のみにより容易に判定することができないものであるところから,署名者本人のその旨の異議申出のある場合に限り,その理由の存否を判断する趣旨と解されるから,1掲記の署名について署名者本人が詐偽,強迫を無効事由として異議申出をしていない場合には,同掲記の訴訟において,選挙管理委員会又は被解職請求者は,署名者以外の第三者として,右無効事由を主張することはできない。 
4 地方自治法74条の2が解職請求者署名簿の署名の効力をできる限り迅速に確定させようとしていること及び1掲記の訴訟が形式上は決定の取消しを求める形をとるものの終局の目的は個々の署名の効力の確定にあると解されることからすると,同掲記の訴訟の原告は,個々の署名の有効事由あるいは無効事由を主張して当該決定の取消しを求めることはできるが,同掲記の委員会の組織構成上の瑕疵又は手続上の違法を理由としてその取消しを求めることはできない。

最後に

今回、愛知県リコール活動において、ヘンテコ署名があったのは事実でしょうね。上記判例からも、過去の解職請求でもヘンテコ署名は出ています。
ただし、出てきた時の取り扱いとして、今の事務局の対応、騒いでいる人の個々の行動はどうでしょうか?
また、騒いでいる人も、対処し方がよく見ると違いますので、「不正糾弾派」として一色で見るのではなく、個々の対応がどうかを見る必要があります。
そのうえで、自分で考え、どうするかを自分で決めることが大事と思います。今回の記事が、その個々の判断の助けになれば幸いです。

今回はこれぐらいで。

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