京都サンガ2021 第4節 vsジュビロ磐田
大宮戦第2試合まで間に合いませんでしたが、今後に通じる話を書きましたので、ぜひ読んでください。
2021年3月21日(日)
明治安田生命J2リーグ 第4節
サンガスタジアムbyKYOCERA
京都サンガ 3-4 ジュビロ磐田
得点者:山田大記(42分・磐田)、ピーターウタカ(47分、55分・京都)、松本昌也(52分・磐田)、大津祐樹(83分・磐田)、三沢直人(95分・京都)
両チームのスタメン
スタメンは以下の通りです、
京都は前節大宮戦でターゲットとなる選手がおらずなかなかロングボールを収めることができませんでした。その反省と中2日の連戦を踏まえてポストプレーの得意な野田を起用となりました。
磐田のスタメンは前節と変わらず3421のフォーメーションでした。
テンポの良いパス回しの中心となる遠藤やゴールに絡む動きが秀逸な山田・大森の2シャドーが要注意です。
ハイプレスとスペース
京都のハイプレスを支えているのは、各人の運動量はもちろん、アンカー(CH)で起用されている川崎の存在が大きいと思います。
川崎は小柄ながら相手に強く当たれる選手でボール奪取能力に長けています。広範囲をカバーできるタフさもあるため前線の選手だけでは抑えきれない部分を確実に潰してくれます。
しかし中盤の底に位置するアンカーの選手が動き回るとデメリットがあるのは当たり前です。ディフェンスラインの前にスペースができてしまうためそこを使われるとピンチに陥る可能性が高くなります。
磐田との試合ではフォーメーションの噛み合わせ上ギャップが生まれました。特に川崎は自分の役割に忠実であるため、多くの場面で近くにいる相手選手もしくはボールホルダーに当たっていきます。そこを上手く利用されたシーンがいくつか見られました。
川崎の周りのスペースにシャドーの山田や大森が配置されており、磐田は試合でそのエリアを重点的に狙って起点にしようとしていました。
また1トップのルキアンはカウンターの際に高い位置を取る京都のSBの裏を狙いCBを外に釣り出す動きを見せていました。
ルキアンが孤立しないよう、川崎の周辺のスペースを狙っていたシャドーがサポートに来ます。さらに両WBも外ではなく内側に切り込むランニングをすることで中央に厚みを持たせる攻撃を狙ってきました。
このあたりの構造は第3節の大宮と似たような攻撃の方法のように感じます。
実際に狙われたシーンをピックアップしてみます。
①14:25〜のシーン
激しいマークでパスの受け手を潰し中盤で果敢にプレスをかけていたが遠藤に一瞬空いたコースから縦パスを入れられてしまう。
山田からインナーラップしてきた小川へパス。ゴール前にドリブルで運ばれシュートを打たれる。
ここでボールを受けたのが2シャドーの一角の山田です。京都のCBのマークを受けにくくなおかつプレスの裏側で受けることができるため、前を向いて相手ゴールに迫るプレーを選択できます。
このシーンでは内側を走ってきた(インナーラップ)右WBの小川を使うことで、食いついてきた本多をかわしていました。
松田が外側の大森にプレッシャーをかけようとしていたため本多も連動して山田にアタックに行きましたがワンテンポ間に合いませんでした。
②35:00〜 のシーン
スローインからの流れで磐田が密集をぬけた後の展開。
遠藤、小川、山田でパス交換しながら京都の中盤を釣り出し、小川→山田→山本康と繋いでクロス。
京都が451でセットディフェンス(ブロックを作った状態)になった時、DF-MFのライン間にいる山田を使いながら京都の選手が出てくるのを待ち、出てきたところの裏を使うというシーンでした。
アンカーの川崎が忠実にボールホルダーにアタックに行くのを上手く利用され、川崎と福岡のわずかなコースから裏に通されました。
ここでの山田のポジショニングも狙いとしていた川崎の両脇のスペースでした。
③41:07〜 のシーン(磐田の先制点)
磐田のスローインから。磐田のバックパスに合わせて京都が押し上げプレスをかけようとする。しかし速いテンポで縦パスを入れられ起点を作られると、さらに空いたスペースを使われて先制を許す。
山本康から縦パスが入るシーンでは川崎が十分寄せていました。
それでもまたもやプレスに行った裏のスペース、最終ラインの前にポジショニングしているシャドー(今回は大森)にパスを通されてしまい、以下のような形からの失点となりました。
本多は松田、荻原の両者をカバー出来るポジションを取っていました。バイスと飯田はそれぞれマークすべき選手がいるためボールサイドにスライドすることができません。
このようにCB-SBもしくはCB-CBの間にスペースができてしまった場合、中盤の選手(アンカーやIH)が下がってスペースを埋めるのが普通です。(下図)
しかし京都の場合は中盤の選手がプレスをかけに前に出ていくため、縦パスを通されるとプレスバックが間に合わなくなり、スペースを埋められないまま相手の攻撃を受けることになります。
磐田の先制点はこの京都の構造的な問題から生まれたゴールだと言えます。
それと同時に、この3つのシーンではパスコースを生むプレーや隙間を縫うようにパスを通せる技術の高さを磐田に見せつけられたような気がします。
技術力の高い相手にどう戦うかが今後の課題になってくるでしょう。
埋められないスペース
ハイプレスのデメリットとしてアンカーの両脇のスペース(DF-MFのライン間)を起点にされることを挙げましたが、これに関連してもう1点致命的なデメリットがあります。
③41:07〜(磐田の先制点)で述べたように最終ラインにスペースが生まれた場合、中盤の選手が下がって埋めれないという問題が起きることです。
中盤がハイプレスをかけるためどうしてもスペースが空きます。
最終ラインの選手がカバーに出れない状況だと、SBとCBの間にもスペースが生まれてしまいます。(下図)
では仮にCB1人がカバーリングに行ったらどうなるでしょうか。
お気づきだとは思いますが、次はCBとCBの間にスペースが生まれます。
そこに別の選手が入ってきたり、マークを振り切られてスペースを使われるとピンチになるわけです。
磐田戦で幾度も迎えたピンチはこれが原因で起きています。
京都のサッカーにおける構造上の弱点です。
許容されるデメリット
どんな戦術にもメリットとデメリットがあるのは当たり前で、曺貴裁監督はデメリットを受け入れた上でメリットを最大限に発揮することを目指しています。
特に今の時期はチームを作っている段階ですので、サッカーが相手ありきのスポーツとはいえ自分たちがやりたいことをチャレンジして積み上げている状態です。
ハイプレスをかけてボールを奪い、勢いそのままに前に人数をかけて攻め込む曺貴裁スタイルにおいて、上記で述べたようなデメリットは必要なリスクと言えるでしょう。リスクを冒さずして"スペクタクルなサッカー"は実現しないという監督の信条が見て取れます。
今回話題にしたような構造上の欠点はどうするのかと言うと、「京都のスタイルをとことん突き詰めることでカバーする」のだと思います。
※厳密に言えば、京都のプレースタイルは相手から自由を奪うサッカーなので90分やり切れば相手は何も出来ないでしょ、というわけです。
次節以降に書こうと思っているのですが、ウタカを起用していることでハイプレスがかかり切らない場面が既に出ていました。
相模原や松本はボールをあまり持たないタイプだったので目立ちませんでしたが、磐田のようにボールを動かして攻めてくるタイプのチームだとかなり目立ちました。
そのあたりのデメリットをどこまで許容していくのかは注目ポイントですね。
さいごに
現段階では「それってどうなの?」というシーンやプレーがまだまだ多く、「ボールを大事にすればいいのに」「後ろの枚数増やして楽に守ればいいのに」と素人目には映ります。しかし曺貴裁監督が見据えている次元ではそんな心配は杞憂に終わるのでしょう。
このサッカーがどの次元まで到達できるのかということに関しては見届けるしかありません。監督自身が突き詰める気満々なので、ああしろこうしろと言いたいですがグッと堪えます。
京都の選手はJ2の中でも技術的に群を抜いていますし、走るだけのサッカーに留まらない気もしています。というかボール繋いだ方が強いんじゃないかとすら思いますけども。堪えます。
磐田戦の4失点を糧に、技術力の高いレベルが相手でも通用するサッカーになるのか。今後に期待したいと思います。
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