J2 第31節 vs栃木 〜スカウティング合戦〜
1.試合情報
2021年9月25日(土) 18:30 KickOff
明治安田生命J2リーグ 第31節
サンガスタジアムbyKYOCERA
京都サンガ 2-0 栃木SC
得点者:荻原拓也(28分・京都)、宮吉拓実(65分・京都)
【スタメン】
【選手交代】
◇京都
60分:荻原拓也→本多勇喜
75分:宮吉拓実→三沢直人、福岡慎平→白井康介
89分:ピーターウタカ→イスマイラ、松田天馬→荒木大吾
◇栃木
46分:森俊貴→矢野貴章
71分:有馬幸太郎→植田啓太
75分:佐藤祥→松本凪生、豊田陽平→松岡瑠夢
82分:畑潤基→三國ケネディエブス
【戦評】
相手への対策はもちろん、どの部分で良さを出していくかが大きなポイントとなった。
立ち上がりから中盤の攻防を経て互いのゴール前に向かっていく激しいゲームとなった。
京都は栃木のプレスを恐れずボール繋ぐ姿勢を見せ、栃木は素早い攻守の切り替えとロングボールを軸に組み立てる。
お互い1歩も譲らない展開だったが栃木はフリーマンのウタカを止めきれず。28分、左サイドでボールを受けると3人を引き連れてペナルティエリアに侵入。空いたスペースに入ってきた荻原のシュートはファーポストにあたりゴールに吸い込まれた。
後半は栃木がプレスのやりかたを変えてきたことで、京都がよりボールを握る展開に。京都ペースになり高い位置でのボール奪取するいつもの形が増えた。それが2点目に繋がる。
2点をリードした京都は交代枠を効果的に使い、危なげない立ち回りで2試合連続の複数得点とクリーンシート(無失点)を達成。首位の強さを見せた。
2.京都のビルドアップと栃木のプレス
京都がビルドアップを行うときのスタートの配置は概ね下図のようになる。
そこから以下のような配置へと変化。ここでは右サイドにボールが出た場合を例に挙げる。
①CBがボールを持つと豊田がコースを限定
②ボールサイドのSHがCBにプレッシャーをかける
③それに連動して2ボランチはIHを見ながらスライド、SBがSBに出る
④最終ラインがスライドして3トップをマークしつつスペースケア
◇栃木視点
サイドに追い込みつつ数的同数の人を捕まえる(マンツーマンの)プレスを行うので、そこで奪いきってショートカウンターに繋げたい。
奪いきれなくても、ボールホルダーにプレッシャーを与えてアバウトなボールを蹴らせることができれば、最終ラインで跳ね返してセカンド回収のプランに持っていける。
後ろでマイボールにした際には早めに豊田に当てて、攻守の切り替えと上下動で前向きにボールを拾ってゴールに迫る。
◇京都視点
ロングボールを蹴ると栃木の得意なペースに持ち込まれる可能性があるため、グラウンダーのパスを主体にボールを動かして攻めるプランを選択。
京都のSBはいつもより低いポジションをとる。栃木SBと距離をとって極力前向きにボールを受けれるように、また相手のSBを少しでもゴールから遠ざけより大きなスペースを作るためである。
ボールを動かす際の一番の狙いは栃木のSB裏のスペース(上図)である。ここにボールを供給するパターンが主に3つあった。ここでも右サイドを例にする。
①バイス→宮吉 直接ロングボールを入れる
②バイス→飯田→宮吉 いつもより低い位置に配置したSBを使い、栃木SBが出てくるタイミングで裏に送る
③バイス→飯田→福岡→宮吉等 ショートパスの連続で狭いエリアを突破しながら進める
①は相手も想定内かつフィジカルに優れたCBに対応されやすい。③は強烈なプレッシャーを受けた状態でのプレーとなるので難易度が高い。ということで②のパターンを軸に攻めようとしていた。
※②のパターンも栃木SBの対応が早い場合は縦のコースを塞がれるので組立て直しが必要となった
栃木の出方が掴めてからはGKを使いながら全体的に低い位置でビルドアップを行うことが増えた。相手を引き込んで間延びさせるよう仕向け、中盤にできたスペースを使ってボールを進めようとしていた。
3.栃木の対応の上をいく京都
栃木は後半、高いラインを保ちながらも442の守備ブロックを作るようになった。この方法は以前から試していた形らしい。
特に変わったのは京都のSBに対してSHがプレスをかけてくるようになった点だろう。SBは極力後方にとどまりスペースを与えないようにしていた。
①2トップ→京都の後ろ3枚を見る
②残りの44ブロック→スペースに入ってくるボールを潰すor押し返す
③相手を押し返したところでプレッシャーを強めてハイプレスに移行
京都からするとこのような守り方をする相手とは散々当たってきたので前半よりも良さを出しやすい展開となった。
ピッチを広く使って横に揺さぶりながら要所で縦パスや楔のパスを打ち込み、相手を押し下げて崩す。相手のカウンターに対しては2CBを中心に食い止めて再び敵陣に押し返す。いつもの流れをつくれていた。
2CB+川崎に加え、武田が低い位置で攻撃を組み立てながら攻守のバランスをとる。栃木が前線にキープ力のある豊田を残しているため、そこのリスクマネジメントはいつもより徹底してた。
この対策が見事で、豊田起点のカウンターを川崎が遅らせ、松田と福岡のプレスバックで奪って逆にショートカウンターを仕掛けて2点目をゲットした。
4.起点となる飯田
ここ最近ゴールやアシストからはやや遠ざかっているものの、チャンスの起点となっているのが右SB飯田である。
例えば山形戦での先制点。若原がセーブしたこぼれ球を拾って前線のウタカにドンピシャのスルーパスを送ったシーンは記憶に新しい。
栃木戦でも①31:56のビッグチャンスと②先制点に大きく関与している。
①31:56 宮吉→ウタカの決まればスーパーゴールというボレーシュート
右サイドからショートパスでボールを進めようとして相手にカットされたのち、再び京都ボールで攻撃がスタート。
31:48~ 流れの中で飯田がSB-SHの間のスペースでバイスからボールを受ける。宮吉の動き出しを見てタイミング・ボールスピードともに完璧なスルーパス。
②京都の先制点
バイスのロングボールを宮吉が競り、福岡が右サイドタッチライン際で残した直後のシーン。
27:33~ 福岡のフォローに来た飯田はボールを受けると、相手の守備ブロック内へドリブルで侵入し3人引き付ける。浮いたポジションをとる松田にボールを預け、3人とも引き連れたままエリア内へ。
飯田・松田のワンツーを匂わせる動きと宮吉・武田のゴール前に入る動きで栃木ディフェンスはゴール前と左サイドに偏らざるを得なくなる。その結果逆サイドのウタカが大きなスペースを得た状態でフリーとなってゴールへの流れに結びついた。
野洲高校出身だけあってパス、トラップ、ドリブルなどの基礎技術は高い。確固たるチーム戦術で向上したインテリジェンス、宮吉・ウタカという最高のパスの受け手の存在によってその実力が遺憾なく発揮されている。
特に飯田→宮吉→ウタカは最強のホットラインとなった。
残り試合、チャンスの起点となる飯田のプレーに注目だ。
5.最後に
「ウタカ選手のところは抑えられなかったですが、あとのところはほぼスライドをうまくみんなでコミュニケーションを取りながらはめていた分、そこまで怖いシーンはなかったと思います。」(田坂和昭監督)(栃木SC公式HP より引用)
と栃木の田坂監督は対京都の準備とその手ごたえを話しているが、
「ウタカ選手を抑えられずに1点目を決められてしまった。」(田坂和昭監督)(栃木SC公式HP より引用)
とも話しているように、数少ないウタカがフリーの状況から入った1点は意味こそ違えど京都にとっても栃木にとっても大きいものだった。
一方京都の曺貴裁監督は戦略通り試合を運べた自チームを高く評価。
「試合を見ているお客様には今日の勝利を今までと違うテイストで味わっていただけたのではないでしょうか。今日は栃木さんの対策をしながら自分たちの良さを出すための準備をしてきたことが、いつも以上にうまくいき、それを真摯に遂行し続けた選手たちを誇りに思います。」(曺貴裁監督)(京都サンガF.C.公式HP より引用)
「フィニッシュまで行かなかったプレーもありましたが、戦略どおりのことを選手たちは遂行してくれましたし、2点取った形も素晴らしい形でした。」(曺貴裁監督)(京都サンガF.C.公式HP より引用)
この試合は両チームともスカウティングが行き届いていることを示した試合だった。両監督・選手コメントに「自分たちのスタイル・サッカー」についての言及よりも「相手対策をどう講じたか」について語られてることが多かったことからも明らかだろう。
互いが良さを消しあうだけなら堅い試合という名の”塩試合”になっていただろう。しかし両者ともシュート本数こそ少なかったものの狙い通りの形でゴール前に迫るシーンを作るなど、消しあったうえでさらに良さを出し合った試合だった。
プロのスカウティングのレベルに感心するばかりである。
もう少し書きたいことがあったのですが分量を考慮してこの辺にしておきます。その内容は以下に僕のTwitterのリンクを張っておきますので時間があればのぞいてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
↓↓↓↓↓ 以下、Twitterより ↓↓↓↓↓
・栃木、被カウンター時の中盤のプレスバック方法とポジトラ(守→攻の切り替え)について
・ウタカ、左WGの位置(サイドレーン)でのプレーと荻原の連携について
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