好きなもんの話しようぜ〜米農家の孫から見た「天穂のサクナヒメ」〜

’21年末、じいちゃんが死んだ。
持病のことを隠していたので、最後に顔を見せにも行けなかった。
じいちゃんとばあちゃんは蔵王町で米を作っていた。
野菜も作ってたので、特にきゅうりはよく食った。
米作りをやめるまで、ずっとじいちゃんの米で育った。
そんなじいちゃんが死ぬ前にやり始めたゲーム。
それが「天穂のサクナヒメ」

・天穂のサクナヒメとは

豊穣の神と戦の神の子であるサクナヒメが、
神々が暮らす「頂きの世」に迷い込んだ人間達を追い返し損ねて、
騒ぎに巻き込まれた挙句、鬼が住み着いた「ヒノエ島」に送られ、
自給自足の生活をしながら島を調査するアクションRPGである。

しかし、アクションRPGより中身が濃いのが稲作シミュレーション
発売直後には「農水省が攻略サイト」とまで言われ、
本業の農家には「なんでゲームでも農業しなきゃいけねぇんだ」と、
とにかく散々な言われ方をするほど稲作にこだわったゲームである。
その稲作は「豊穣の神の血を引くサクナヒメの力の源」であり、
武器も農具で、鍬と鎌を振り回すなかなかのこだわりっぷり。
作品の世界観は江戸時代までの和を感じさせ、
簡単にコンボの決まるアクションパートと、
対照的にのどかで時間が溶ける稲作パートの対比も楽しく、
稲作1シーズンの区切りだけでもかなり遊びがいがある。

・異常なこだわりを見せる稲作パート

そう、ここまで農業要素に散々触れているが、
実は本筋を引き立てるのにも重要なのがこの稲作である。
ネタバレになるので詳しく書けないのだが、
サクナのステータスに直結するのが毎年の米の収穫量と出来。
つまり楽にゲームを進めたいのであれば、
5シーズンくらい米作りに集中してから本筋を軽く進める、
これをひたすら繰り返せば良い。
逆に、RTAの様に早くクリアしたいなら、
稲作は最低限の世話と回数で、ステータスをあまり伸ばさず進めれば良い。
ともかく、そうして複数回の田植え・育成・収穫を繰り返すと、
シナリオのあるタイミングで大問題が発生する。
それを乗り越えるのもまた稲作の諸々の作業であり、
稲作をした分だけ、そこまでの思い入れで味わいが変わる。
更に、サクナヒメという神は、元々クソガキである。
親の遺産を食い潰しながら良いお役目を貰ってだらだらしていたが、
ヒノエ島での自給自足の生活と開拓・調査の日々を通し成長していき、
その成長も、稲作に時間をかければかけた分だけ身に染みて実感でき、
それがゲーム終盤に感動を呼ぶことになる。
自分はVtuberの配信で見てしばらく経った頃、
気付いたらベストプライスで出ていたので、それを買った。
その配信は未完のまま終わっているので、
そんな感動が待っているとは思わず、
ゼルダのBotWやTotKの寄り道感覚で稲作をして、
いもちや雑草に悩み、質と量の両立に悩み、
シナリオを進める余裕がなければ米作りだけでも遊んだ。
その結果、3回ボロボロに泣かされた。
挫折を乗り越えるサクナに、
ゲーム開始当初から大きく人として、神として成長したサクナに、
大団円を迎えたエンディングに、
合計3回、どうにもならないレベルで泣かされた。
稲作はサクナを強くするだけでなく、サクナへの思い入れも強くしていた。

・ゲームで思い出す、田植えと田舎の思い出

ゲームさんぽでNACSの森崎リーダーをゲストにサクナヒメを扱ったが、
そこで語られていたことに大きくうなずいて、昔を思い出した。
「田植えがスタートで稲刈りがゴールではない、
田んぼはデビューで、苗の内に1年の半分の仕事をしている」

直に見ていたわけではない。
しかし、苗を運んで田植えを手伝っていたので、わかりはする。
それだけでもそこそこ重い育苗箱を抱えて、
じいちゃん達の田んぼのあぜ道まで車から降ろす。
そこから田植え機にセットして植えていき、
田植え機が入れない微妙なスペースに人の手で植えていく。
それを眺めながら、苗を取った後の育苗箱を片づけたりしていた。
苗が準備万端になっている育苗箱はとても重かった。
土を詰めて、発芽させた種もみを蒔いて、苗として育てる。
その「秋には米となり口に入る作物」の重みだ。

作業の休憩でリポビタンDやカゴメのジュース詰め合わせを飲んだ覚えがある。
小さい頃から割と栄養ドリンクとは縁があった、宮城はそういう県と聞いたことがある気がする。
ただ、炭酸は声変わりした後くらいまでほぼ飲まずに育ったこともあり、
オロナミンCとかよりは、がっちりとリポビタンDとかだった。
合間のお昼は何を食べていただろうか?
どうしてもばあちゃんの家というと、白石うーめんのイメージが強い。
蔵王町だったので、隣の白石のうーめんをめちゃくちゃ食った。
夏といえば素麺よりうーめんだった、太く短く白い麺こそ夏だった。
でっかいガラスの灰皿をもっとデカくしたようなガラスの器で、
何束茹でたかわからないようなうーめんが水に入ってたっぷり出て来て、
親戚一同、割りばしを突っ込んで啜った。懐かしい、うーめん啜りたい。
ただ、「山の御馳走だ」と言って出されるメシも美味かった。
フキを良い感じにした煮物的な奴とか、山菜の天ぷらとか、
そういうのは主にGWまでとかに食っただろうか…?
お煮しめとか、ばあちゃんの家だからこそ食うと美味かった。

ゲーム内でも家の周辺で梅を取り、
米との交換で取引する塩で梅干しなんかが作れたが、
ばあちゃんの白菜やきゅうりの漬物、たくあんも梅干しも美味かった。
今でも同じレシピで親戚が漬けた奴を食っている、他はほぼ食わない。
売ってる奴も良いのだけど、やはりばあちゃんのが美味い。
甘くてしょっぱくてザラメの色がついたたくあん、
酸っぱくてしょっぱくて一粒で茶碗一杯の米がなくなる梅干し、
冬になれば大量に漬けた白菜漬けも出てくる、あの白菜漬けは最高だ。
孫の為に気合入れて作ってくれたおかずも良いのだけど、
あの漬物だけで丼3杯くらい白飯を食べたい。
ぬか漬けは…そもそもぬか漬けが苦手なフシがある…。

そして収穫の秋、稲刈りもまた家族総出で手伝いに行く。
稲穂には細かい毛が生えているので、
運ぶだけとかちょっと触っただけでも、風呂に入るとちくちくする。
あと、これは農家によるだろうが、刈った後の根本のとこ、
あれとか使い切らない藁は燃やしていた。
その火に零れ落ちた籾を放り込むと、ポップコーンの様に弾ける。
弾ける頃には「にんじん」みたいな食感で焼きあがっている、
直火で焼いたサクサクの米は美味かった。

サクナヒメは田植えから収穫までの、春から秋にかけて、
田んぼの風景というものを眺めることができる。
1枚分の小さい田んぼだが、
植えたばかりから根付いて育つ春、
青々として背丈の高くなった葉と空と雲が綺麗な夏、
黄金色に輝く稲穂と色づいた山々が鮮やかな秋、
どのシーズンも、ばあちゃんの家に遊びに行く途中、
親父が運転する車の窓から眺めた、蔵王の景色を思い出す。

そうしてなんとなく1年の生活に組み込まれていた米が、
新米として、日々の米として、送られてくる。
買ってきて食った米もあるにはあったが、
じいちゃんが年齢を理由に米作りをやめるまで、
生まれてから成人して何年かは、じいちゃんの米で育った。
季節ごとに野菜も送られてきた。
じゃがいも、ナス、トマト、かぼちゃ、ニンニク、きゅうり、大根、白菜。
特にきゅうりは大好きなので、届いたらまず1本、生で食べた。
軽く水で汚れを落として、塩をつけた手でゴリゴリと表面をもむ。
表面のイボと、イボに混ざる若干のとげを落としたら、
小皿に塩や味噌を取って、ヘタを落としてかじる。
勿論味噌もばあちゃんの作る味噌、じいちゃんの米と大豆の味噌だった。
今も味噌はばあちゃんが作るのでそれを食べている。
ずっと食べて来た味なので、この味噌を舐めながらでも白飯が食える。
貧相に聞こえることだが、それがしたいくらいの味噌だからしょうがない。

職業にこそせずにここまで来たが、
サクナヒメで扱う稲作は、間違いなく人生の一部だった。

・じいちゃんはおれのサクナ様だった

改めて書く。
2021年末、じいちゃんが死んだ。
じいちゃんは、米を作り、野菜を育て…狩りはしなかったが…メシを食わせてくれた。
農家だけでは食えなくて、養鶏場で働いたりもしていた。
その養鶏場からもらってくる卵も、買ってくる卵より美味かったような覚えがある。
そのくらいの頃にちょうど、サクナヒメを遊んでいた。
共に暮らす人間達の為に狩りや稲作をするサクナヒメが、
どうしてもじいちゃんと重なってしまった。
多分、そういうのもエンディングや終盤の感動に乗っかっていたと思う。
そもそも面白いゲームだったからこそ、そこまでのめりこんだわけだけど、
そうだとしても、深く突き刺さる内容のゲームだった。
今はアプリのゲームとゼルダが忙しいが、
こうして書いているとやりたくなってくる。
P4G積んでるし、厄災の黙示録残ってるし、
秋にはサムライレムナントとマリオRPGもある。
どうにもならんな…でもサクナヒメ遊びたいなぁ…。

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