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ロアルド・ダール作品の『改訂版』(誰も傷つけないバージョン)が、いただけない

先日、息子のリハビリがてらの散歩をしていたら、住宅街の庭先に手書きの看板で、
『ご自由にどうぞ!』と、プラスチックケースに山盛りの児童書が入っていた。

かなり状態のいい本なのに、道ゆく人は目もくれずに通り過ぎていく。

そういう私も通り過ぎかけたのだが、そこに真新しい『ロアルド・ダール』の作品セットのボックス版が鎮座しているのが目に留まった。

すかさず出版年を調べたら、数年前の物だったので、私は保管用にありがたく頂戴することにした。

なぜ私が出版年を調べたかというと、「ロアルド・ダールの作品は、近年において『不適切』と思われる表現を削除、もしくは、言葉を違えて出版する」と去年発表があって、「改訂版以前のものを手に入るうちに購入しとこう」とちょうど思っていたところだったからだ。

その改訂とは、例えば、”fat”(デブ)が”enormous”(巨大な)に変わったり、”ugly and beastly”(ブサイクで獣みたいな)が “beastly”(獣みたいな)だけになる、みたいに、いわゆる侮蔑的だったり、差別的な表現を消し去ったバージョン、ということらしい。

つまり、激しめの表現をなくして、全体的にふんわり、ソフトタッチにしましょう、ってことだ。

私は、ロアルド・ダールの作品の大ファンなので、この『改訂版』の記事を読んだとき、「はぁああああ?」と、本気で声が出た。

しかも、その時の記事では、ロアルド・ダールはもう亡くなっているけれど、版権だか著作権だかを持つ家族がその変更に同意したとか。

いや、ダメでしょ、それは。

日本でも、漫画のドラマ化にあたって内容を改変されて……という痛ましい事件があったけれど、どんな形のものであれ、私は一次創作した人がその作品についての絶対的権限を持っていると思っている。

それが、たとえ家族であったとしても、そこは犯しちゃいけない。

今回、この記事を書くにあたって調べてみたら、やはり私と同じ思いの人が、世界中に存在したみたいで、ブーイングの嵐だったらしく、結局出版社は『改訂ありバージョン』と、『改訂なしバージョン』の二つのパターンを出版することにしたそうだ。

そりゃそうだろ。

だいたい、私がロアルド・ダールにハマったのは、児童書のくせして、アクが強いその作風にやられたのに、それをふんわり、ソフトタッチにしてどうするのだ。

ちなみに私が最初に読んだのは『マチルダ』。

英語に興味が出始めた若いとき、アメリカに短期でホームスティして、本屋でその表紙のイラストを気に入って買ったのがきっかけだった。

児童書とはいえ、学校教育だけしか英語に触れていなかった人間には、知らない単語だらけで、つっかえつっかえ読んだのだけど、それでも、あきらめずに読み終えるほど内容に惹きつけられた。

特に児童書において、『ろくでもない親』という登場人物が新鮮だったし、マチルダが、かしこすぎて子供っぽくないんだけど、物事を色眼鏡なしで真っ直ぐ本質を見るところとかは、ある意味とても子供らしくもあって夢中で読んだ。

そして、

「いろいろあったけど、お父さん、お母さんは、子供のことを一番に思ってくれる存在で、家族みんなで、その後は幸せに暮らしましたとさ。−−ちゃんちゃん」

みたいなハッピーエンディングでまとまるのだろうと思っていたら、まさかの

「両親と別れて平和に暮らしましたとさ。−−ちゃんちゃん」

という終わりで、かなりの衝撃を受けた。

だから、その毒気を消しちゃいかんと思う。

だいたい、
「この本、この登場人物のことを”Fat”って言ってる。こんなのヒドイ。差別だわ」
とか、
「”Ugly”なんて言葉が出てくる本、うちの子に読ませられない。ムキー」
とか、騒いだ人が実際いたのだろうか。

もしいたとしたら、ちょっとヤバめの人じゃない?

確かに、ある特定の人種やグループを指しての差別的な表現っていうのは、それを読んだ人が不快に思うだろうから、それは仕方ないにしても、『ブサイク』とか『デブ』とかいう不特定で、ある人から見れば、そうかもだけど、他の人は特にそう思わない、みたいに曖昧な言葉を取り締まり始めたらきりがないと思う。

これって例の、

ビリの子がかわいそうだから、幼稚園のかけっこで手を繋いでゴールして、みんなが一番!とか、

お遊戯会で、木とか、ワカメとかの役だと、親がうるさいから、全員主役級が与えられる、みたいな思考回路に繋がるのかと思う。

私なんか、徒競走は毎年ビリっけつで、お遊戯会も、なんの記憶もないところをみると、その他大勢の一人だったことは間違いないけど「そんなのひどい!」って思ったことないわ。

しかも、こう言っちゃなんだけど、ひとたび社会に出たら、そこはもう戦場だからね。

そして、結局、そのロアルド・ダールの作品、オリジナルバージョンと改訂バージョン、どっちの方が売れているのか、ちょっと気になったりしている。

↓ 一応、該当の記事をひとつ載せておきます。