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久しぶりの日本は『〜レス』ばかりだった

今年の春は、子供たちを元旦那にあずけて、叔母のホーム入所の手伝いのために単身で日本に一時帰国した。

久しぶりの帰国だったってのはあるんだけど、それにしても、いろいろ変わってて、びっくりした。前回帰った時、「日本って、思いのほか現金払いの国なんだな」と思っていたのに、あっという間にキャッシュレスになっていた。

カナダでは、『クレジットカードでタッチ』が主流で、金額が大きい時だけ、機械に差し込んで暗証番号。もしくは銀行のカード(デビットカード)か、キャッシュ。

それだけ。

だから、今回はクレジットカード一本でいこうと、日本とカナダのカードを両方用意したのに、なんだかいろいろ引っかかる。

「ここにタッチしてください」
これはできる。
カナダと同じだから。

ところが、タッチじゃない場合、
「ここ(機械の下側)に差し込んでください」
「ここ(機械の上側)に差し込んででください」→これはカナダで見たことない。
「暗証番号お願いします」
「なんか暗証番号通らないんで、サインお願いします」
とか、いろんなことがあったので、
「ムキー。こんなんなら現金、現金にする!」
と、今度は現金を持ち歩くことにした。

スーパーのレジにて、キャッシャーのお姉さんが、軽快に
「ピッ、ピッ、ピッ」
と、商品をレジに通していく。

最後の商品が終わり、レジ袋を聞かれ、財布を握り締め支払いを待つ。

待つ。

待つ。

あれ?

すると、怪訝そうなお姉さんが、
「あ、あの支払いはそちらで」
と、隣にある別の機械を指差した。

支払いは別マシンなのか。
知らなかった......。

「あ、すみません」
ペコペコしながら、隣の支払い機に移動する。
背中に突き刺さる視線が痛い。

画面には、色々な支払い方法がずらりと示されている。

タッチ決済、コード決済、商品券.....。

機械の前に仁王立ちして、真剣にメニューを読む。
ようやく『現金』の項目を見つけ、選ぶ。
もう、この頃には、脇にじわりと汗をかき始めている。

札はともかく、久しぶりの日本の小銭に再び、もたつく。
なんか大体の金額の小銭を投入口にぶち込む。
思った通り間違えていたらしく、余分な分のお釣りが出てきた。

この『別払いシステム』、慣れるのに相当時間がかかった。

そして、回転寿司がタッチパネルになってたのは知ってたけど、もう、どこに行ってもタッチパネル。

タッチパネルだと、カテゴリ分けされてるから、ドリンクはドリンク、おつまみはおつまみ、みたいになっている。

私みたいに、メニューをあっち見て、こっち見て、迷いに迷って、やっと決めて、オーダーとりにきた瞬間に心変わりして、全然別のものを頼む、っていう醍醐味がなくなってしまって、ちょっと悲しい。

いや、オーダーミスとかなくなって、ぜんぜんいいんだけどね。

あと、私の日本帰国時の楽しみのひとつは、コンビニ巡りなんだけど、なんか、スムージーのマシンやら、コーヒーもいっぱいボタンがあって、これまたドキドキした。

地元の小さなコンビニに行った時のこと。

店員さんは、東南アジア系のにこやかなお姉さんだった。

「チキンのレギュラー、ひとつ」
バリバリの九州弁アクセントで頼んだ。

すると、お姉さんは少し困った顔をした。

あ、九州弁、強すぎたかな?

「すみません、チキンのレギュラー、ひとつお願いします」

今度は、標準語っぽく言ってみる。

でも、お姉さんは動かず。

二人でしばらく見つめあった後、お姉さんは、蚊の鳴くような声で言った。

「あの、チキンは、自分で、とってください」

え?

焦る、私。

だって、ホットフードのショーケースの扉って、カウンターの内側に向いて.....
向いてない! こっち側が開いてる!

なにこれ、素手でとって、そのまま、店員さんに渡すの?
え、どういうこと?

軽くパニくる。

一人でうろたえていると、見かねたお姉さんが、カウンターから出てきてくれた。

「トングで」
あ、トングがあった。

「そこの紙の袋で」
あ、これに入れるのか。

......チキンを食べようなんぞ、思わなきゃよかった。

汗をかきつつ、
「すみません、すみません」
と、あやまる私に、苦笑しなだら、
「大丈夫です」
と、しっかりした、訛りのない日本語で答えてくれるお姉さん。

土地の言葉でべらべら喋ってて、地元民感丸出しなのに、チキンひとつまともに買えない私。

敗北感を感じながら、店を出た。

コロナのせいだろうけど、何だか、人と人との直接のコミュニケーションがずいぶん減ったんだな。

ファミレスでは、ロボットが本当に配膳してたし。
あんなの未来都市の話かと思ってた。

今年の夏の帰省は、大丈夫かなあ。

〜終わり