ベジタリアンという生き方は、なかなか大変そうです
私の周りにも菜食主義の人がいるけど、特に雑食の私に押し付けてきたりすることもなく、一緒に食事をとっても、勝手にそれ用のメニューを頼むか、メニューで食材をチェックして、それぞれに自分の主義レベルにあった食事を注文をするので、その存在を特に気にしたことはなかった。
一度だけを除いて。
ある夏、ニューオーリンズに女子のみ7人で旅行に行った。
そんな中、ある日、昔のいわゆる『植民地時代の建物を見学する』みたいなオプションの日帰りツアーに希望者のみで参加したのだけれど、私以外の4人が全員、ベジタリアンだった。
当時の広大な邸宅を巡るツアーだったので、食事も館内のレストランしかチョイスがなく、当然メニューもそれほど多くはなかった。
私は、ニューオーリンズだし「シーフードのパスタにしようかな?」なんて思ってメニューを見ていたら、ベジタリアンチームが何やら、ガサゴソ騒がしい。
どうやら、ベジタリアン用のメニューがほとんどない様子。
「シーフードパスタのシーフードを抜いて、クリームパスタにしましょうか?」
とか、ウェイターのお兄さんが提案してくれるんだけど、
「うーん。ちょっと違うかな」
と、まだまだ、みんなしてメニューと睨めっこ。
あーでもない、こーでもない、と散々話しあって、出した結論が、
「サーモンバーガー、サーモン抜きで」
だった。
ええええええ。
とりあえず驚きの表情を隠すのに苦労した。
だって、サーモンバーガーからサーモン抜いちゃったら、パンの間にレタスとかと、たぶん、ソース的な何かが挟まってるだけの、バーガーと言っていいのかすらわからないものに、なるんだよ?
でも、それ頼んだ人たちは普通に食べていた。
しかも料金は据え置きで、それにはちょっと不満そうだったけど、文句も言わず払ってた。
私ならクリームパスタにするし、パンと野菜とソースに17ドルはだせない。
なんか、いろんな意味で、一生、ベジタリアンにはなれないな、と思った瞬間だった。
他にも、昔勤めてた会社の受付兼セキュリティのおばちゃんが、バイク乗りで、筋トレも欠かさないタイプのたくましい人だけど、ヴィーガンだった。
どうやら、おばちゃんは動物愛護の精神からヴィーガンを選択したらしく、更にアロマオイルで薬に頼らないで健康維持、ひいては地球の自然環境保護にまで心を砕くようになっていった。
私がちょっと切り傷を作れば、何かのアロマオイルを塗ってくれる。
「風邪ひいたっぽいなあ」と言えば、自然食品の何かよくわからない酸っぱいゼリーを自信に満ちた目で手渡してくれる。
まあ、別に害がある訳でもないので、私は「どうもありがとう」と、オイルを塗ってもらい、言われるがままにゼリーをすすっていた。
しかし、ものすごーく頑張って啓蒙活動しているのに、悲しいかな私を含め、職場の誰もおばちゃんに感化されず、みんな相変わらずの肉食ざんまい。
そんな状態が腹立たしいのか、おばちゃんはどんどんエスカレートしていく。
チキンを食べている同僚をゴミをみるような目で通り過ぎ、ランチタイムにみんなでグルメ番組を見ていて、ビーフシチューが大写しされた瞬間に、「けっ」と吐き捨てて立ち去る。
ある日、ボスの部屋でのミーティングに集まったら、壁に貼ってある犬のカレンダーを指さして、おばちゃんが
「これ誰のカレンダー?」
と聞いた。
「ボスの部屋の壁に貼ってあるんだから、ボスのに決まってんだろ?」と、不思議に思っていると、犬を3匹も飼っているボスが嬉しそうに、
「俺の。これと同じタイプの犬、昔飼っててさ」
と語り始めた。
なのに、おばちゃんはすかさず遮って、
「変なの。あなたは肉を食べるのに、犬のカレンダー飾ってるんだ」
と不遜な笑みを浮かべて場を凍りつかせた。
そして、ボスは苦虫噛みつぶしたような顔して、さっさとミーティングを始め た。
一時が万事こんな調子で、彼女との会話する時は、みんな話題を選びに選ぶようになっていった。
そんな彼女を昔から知っている同僚に言わせると、ヴィーガンになる直前までは、筋トレしてるくらいだから、平気でばくばくフライドチキンとか、ローストビーフとか食べまくる『超肉食』だったらしい。
菜食主義で始まり、その後、ヴィーガンとかではなく、突然、超肉食から完全ヴィーガンへのシフトチェンジ。ハンドル真逆に切って、この熱の入れよう。
「ついこの間まで、あんた……」って顔をしてる、同僚の気持ちもわからんでもない。
結局彼女は、啓蒙活動に力を入れすぎて、本職をないがしろにしてしまい、職場チェンジを言い渡され、それに激昂して辞職してしまった。
なんか、こう、北風と太陽じゃないけど、押して押して押しまくって、逆に人の心を閉ざさせているような。
しかも、いつもギャンギャン吠えまくって、不満を口にしている人に啓蒙されてもなあ、などと思ってしまった。
〜終わり