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艶々米うどん ~ベトナム・ロンスェン

「米うどん」。…とは私が勝手に呼んでいるんだけれども、小丼に、その艶肌をあらわに晒して浸るメン。
「ここで食べよう」――決め手はコレだ。
その上に抱えるのは、ゴロゴロとした濃淡違えた茶色っぽい類の物。まず「お揚げ」が分かる。もちろん豆腐のアレだが、厚揚げとはいかずも、もそっと厚めなのが二口大ほどの長方形で。別にちゃんと分厚い「厚揚げ」もあって、何故かサイコロに小さく切られている。
対して色白の、サイコロは豆腐。そして湯葉もある。濃い醤油色に染まったのがクシュっと皺を作り、肉の切れっ端のように。
何という種類なのか知らないが、きのこ――はシメジのカサだけみたいな、コロンとしたのが水玉のように散っており、人参・大根は、けんちん汁的に太めのひょうし切り。
 どれもそれぞれの素材の色に汁の味がプラスされた、個性ある茶色だ。――人参もまぁ、明るい茶色系と言っていい。
過不足なく、というバランスで配されたそれらの上に散りばめられたのは、別世界からやってきた鮮やかな緑色。パクチー(ベトナム語=ラウ・ムーイ)であろうと、みじん切りされた葉っぱのギザギザとか細い茎から分かる。そして頂点に君臨するのは、ミニスプーン一杯ほどの、こめかみを突く真紅。唐辛子ペーストだ。
 ステンレスのレンゲが、丼と汁の隙間…なんてのは無いけどそのピラミッド世界を邪魔しないよう、端っこに突き刺さり――これが、「品」として完成された形であり、崩壊のスタート地点でもある。
さぁ、とレンゲを持ち上げると、その重しのようにちょうど載っていたメンが、ツルンと滑ってピッと汁を跳ね飛ばした。
活きの良い、ピチピチメンだ。
ミルキーな色…。蛍光灯のような艶を持ちつつも乳白色に濁るその肌は、妖精が漂わせるオーラのよう。現実に戻って例えるならば、炊いた白がゆの、その表面に張った「膜」だろうか。見た目そのままに、啜ればつるつるつるんと面白いように吸い込まれる。滑りの良いプラスチック、そんな感触。そして全くぶれのない、見事に一定した太さだ。
米製のメンである。
米どころの東南アジアは、「メン」という形態を中国から受け入れつつも、その原料には小麦より、米を使ったものの方が圧倒的に多い。その製造工程も様々あるが、「一定の太さ」のメンといえば、押し出し製法。米を水と擂り潰して液状にしたら、それを小さな穴に通しつつ湯に落とし、茹でることで「メン」にする。丁度トコロテンを押し出すように。
このタイプは、ベトナムならば「ブン」と呼ばれるものがよく知られているが、今回のソレとは、同類ではあろうが「ブン」ではない。ブンがソーメンのように細いのに対し、「米うどん」――ベトナムで「バインカン」と呼ばれるが、冷や麦よりも太く、うどんで言うならば「極細」の分類だろう。そしてプラスチック的ミルキーな艶肌が特徴的だ。
少々調べてみると、これは米に加え、キャッサバも原料として混ぜられるらしい。「キャッサバ」といえば、日本では台湾紅茶で有名になったあの丸い玉「タピオカ」の原料であり、あぁそうか、そういやあの類のツルン、である。ついでにいえば日本で愛される「わらび餅」も、スーパーでお手柄に買えるものはキャッサバ澱粉が混じっている。あぁナルホドなるほど、あの感じ。
おそらく同種、と思っているのだが、これを初めて食べたのはベトナムにおいてではなく、ラオスだった。「カオピャック」と呼ばれ、食感の面白さにはまって見つけるとよく食べていたのだが、それを紹介してくれた友人とはそういえば、ラオス生まれのベトナム人。――ベトナム由来、友人にとって、民族的故郷の味でもあったのか。いやいやモトはラオスが先なのか。…って喧嘩しないで、どっちにしろ、どちらにも好まれる共通メンだ。
「バインカン」。その太さ具合といい透明感といい、「アレだ」――カオピャックだと、ひと目で被った。
竹で骨組みをつくった天秤の中にすっぽりはまった、炊きだし用みたいな大鍋のなかで、それはうねり泳いでいた。

                    (初回訪問時2006年)

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