「VANITIES」を観劇して

応援している劇団「スタジオライフ」が現在中野ウエストエンドスタジオで上演されている作品「VANITIES」を観劇してきました。作品の空気・台詞や仕草に全身全霊のめりこめる、いい時間を過ごせたと心から思いました。笑ったり緊張したり、人間同士が対峙しているからこそ発生する電気を感じたり、自分の好きなアングルを探したり、本当に良い観劇体験ができました。

アメリカのチアリーダー三人娘が、ハイスクール時代/大学卒業間近/そして二十代後半の三時代で喋り倒し、(言葉で)ぶっ刺しあい、( 〃 )どつき合う、そんな会話劇です。
オールメール劇団のベテランお兄様方が、自由さと奔放さを感じさせるレディースファッションとメイクを装備してこちらを真っすぐに見つめるチラシを初めて見た時、観劇した自分がどんな感想を抱くのかとても楽しみでした。ものすごく強いパワーを感じたから。キャラクターからの自己主張がびしびしと届いたから。さあ御覧なさい!って。

以下、ネタバレを交えつつ感想をつづりたいと思います。ネタバレなしのあらすじやチケット情報はこちらです。劇団スタジオライフ「VANITIES」中野ウエストエンドスタジオにて11月24日までです。



いざ観劇して。思いがけず舞台から飛んできた火の粉で火傷を負いながら、結局幸せって自分一人ではなれない!という毒物を抱えながら、震える脚を必死で進めて中野ブロードウェイを闊歩しました。
彼女たちの物語上の終着点にはジョアンの旦那・テッドが待っていた。学生時代のプラトニックな付き合いを経てテッドと結婚し、自分の価値観を疑いもせず子育てするジョアン。自分が堕胎を経験したこと、“テディ”と寝たことをジョアンに匂わせるメアリー。NYの素敵なアパートを与えられテッドに囲われていることをメアリーに仄めかすキャシー。
テッドは幸せの物差しとして三人娘の定規にされたに過ぎないかもしれないけれど、1974年という時代が影響しているのかもしれないけれど、彼女たちの価値観が凝り固まっているからかもしれないけれど、誰か(テッド)が無いと/あなたより誰かから与えられていないと、幸せっていえなくない?という圧力が、女一人じゃ幸せになれないんじゃない?という恐怖と絶望が、舞台上の三人娘から客席にどくどくと流れ出しているように思えてなりませんでした。すっごい。今にも「この子はあたしよりうまくいってるのかしら?」と値踏みする視線がこっちにも飛んできそうでしたね。生身の人間がそこにいるからこそ感じる演劇のリアリティ。
ジョアンの母親っぷりは、メアリーがハイスクール時代に嫌がっていた彼女の実母に似ている。途中でふとそんな風に思いました。せっかく自由と享楽の旅に出たのに、結局素直に実家に帰って困ったお嬢ちゃんだと扱われるメアリー。ポルノ画廊を開いたことも母親は知っている。母親から解き放たれないメアリー。ジョアンの娘のメアリーが同じ道筋をたどるかは分からない。自分の価値観をアップデートしないジョアンが得ている幸せはしかし真っ当で、圧倒的マジョリティで、彼女の言葉がだから一番怖かった。それが上に書いた私への火の粉です。つまり結婚しろ子供を産めってやつですね。ティーンエイジャーの頃から大袈裟で元気いっぱいで真面目なジョアンのそんな台詞のラッシュに、やめてやめて!その話は終わり!!!なんて心の中では立ち上がっていました。第一幕で、男の子に自分の肉体を与え切ってしまったらもうなにもあげられるものがない・・・男の子は私にたくさん与えてくれるものがあるけれど、なんてことも言っていました。ぞっとしました。この辺掘り下げるとちょっと遠めに脱線するのでおいといて。
そして第三幕の途中でもしかしてキャシーは同性愛者なのではないかと感じました。結局彼女の言葉が虚栄心から出たのかフェイクなのかわかりませんが。『ジョアンは学生時代からの彼と結婚して子供を産んで幸せに暮らしました。メアリーは世界を飛び回り、画廊の女主人として成功しました。キャシーはパートナーとふたりきり裕福な暮らしを得、本や星を見て暮らしました』・・・で終わったら勿論ヴァニティーズじゃなくなっちゃうわけですけれど(でも結局彼女たちにお互いへの虚栄心がなかったらそういうことだもんね!)キャシーは学生時代付き合っていた彼との失恋の痛手に苛まれている。なんで?私はチアリーダーで、最高の女の子だったはずなのに。
以前「クオーターライフ・クライシス」についてのネット記事を読んだことがあり、たいへん共感した覚えがあります。VANITIESを観劇しキャシーを見ていて久しぶりにその記事のことを思い出したのでここにアドレスを引用します。


大人になるって難しい。年齢だけで判断するならば達することができるけど、その他の尺度で考えればまだまだ私も圧倒的に足りなくて、もどかしくて、取り残されている気がすることが怖い。いつか取り返しがつかなくなるかもと思うと怖い。そんな心の奥底に置いといて見えないふりをしていたものに、突然付け火され私はどきどきしています。フェーズ4「ゆっくりと、だが着実に、人生を再建し始める」。キャシーがここにたどり着いているか分からないけど、とにかく三人娘がクオーターライフを乗り越えた先で、ヴァニティーズをまとわずに、自分とお互いの定規が違うことを理解して、いつか讃え合えたらいいなって信じています。
一緒にゴールしようね。お揃いのアクセサリーは毎日着けてきてね。みたいなノリで絶対同じ大学に、寮に入ろうね。なんていう女の子たち。なんだかんだで達成して、いつでもトップに君臨して頑張っていた女の子たち。お揃いの男をもつのはよくないけど、いじらしくって責任感があって全力疾走が似合う三人娘は、きっと大人の娯楽を楽しむのも上手だと思います。私も頑張って生きていこう。今が一番幸せ!を更新し続けていこう。


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