無題

「私は絵が描けます。むしろそれ以外のことがあまり得意ではありません。」
「それ以外の事って?」
「仕事とか勉強とかです。学校の成績表ではいつも下から数えた方が早かったですし、アルバイトも長続きしませんでした。」
「ふーん。でも絵は今でも描き続けてるんだ?」
「はい。」
「俺は絵の事は良く解らないけど、例え一つでもずっと続けられる趣味があるのは羨ましいよ。うちの押し入れには、ほぼ触っていないギターやゴルフクラブが眠ってる。どれも難しくて挫折したよ。」
「…私にとっては、ちゃんと大学を出てキチンと就職することの方がよっぽど難しいです。」
「遊びまくって留年もしたし、就活も大分キツかったけどね…」
「それは意外です。」
「両親にも相当心配を掛けたと思うよ、今となっては良い思い出だけどね。」
「私は今でも両親に迷惑を掛けてしまっています…」
「あ、そうだ、俺も実は絵が描けるんだよ。ちょっとペンを貸して貰える?」
「?…いいですよ。良ければスケッチブックも持ってるので使って下さい。」
「ありがとう、ちょっと待ってね…」
「…」
「…はい、出来た!見てみて。」
「…ぷッ!?…なんですか?これ。」
「良く描けてるでしょ?」
「…味わいはありますが…なんというか凄く…下手ですね!」

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