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VOL.35「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」

「くりきんとんがゆく」は、毎月第一金曜日、FM川口が午後7時からお送りしているラジオ番組「メタリックフライデー」で、DJおやっさんが担当するコーナーです。ここには、そこでお話した内容を記録していきます。

2024年8月2日放送分より。。。

BGMは、グレイトフル・デッドのTruckin'という曲になります。いつもはレゲエシンガーのカバー曲をかけているんですが、今日は、テーマに合わせて、いつもとは違う感じで。グレイトフル・デッドといえばですね、1960年代のアメリカ西海岸、ヒッピー文化、サイケデリック文化を代表するバンドですね。サウンドカフェのエンディングには、ジャニス・ジョプリンがボーカルのBIG BROTHER & THE HOLDING COMPANYをかけてもらいましたが、グレイトフル・デッドと並ぶ、1960年代後半にサンフランシスコから登場したサイケデリックロックの代表格のバンドです。グレイトフル・デッドの音楽スタイルは、カントリー、フォーク、ロック、ジャズ、なんかが融合した物で、大ヒット曲があるわけではないけど、とくにアメリカではライブ活動を中心にして人気が高かったバンドです。とくに彼らの熱狂的なファンは「デッドヘッズ」と言われて、独特の文化を築いていたことで知られています。

テーマは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」

ということで、今日のテーマは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」です。実は、タイトルがそのまんまの本があるんですが、これを読んだら、いろいろと面白くて、目からうろこがポロポロで。ずいぶん昔に人気を博したロックバンドから、現代に通じるマーケティングを学ぼうというものですからね。著者はアメリカ人のデッドヘッズの二人で、糸井重里さんが企画して日本語版が2011年11月出版されてます。

グレイトフル・デッドについて

グレイトフル・デッドについてもう少し紹介しておくと。ビートルズよりストーンズより儲けてしまったバンドとも言われてるんですが、どういうこと?ってなりますよね。誰でも知っているヒット曲があるわけではない、カリスマ的なスターがいるわけでもない、とくに日本では、名前もほとんど知られていないくらいだと思うんです。

彼らの音楽活動の中心はライブツアー。当時のふつうのミュージシャンはレコードアルバムが主な収入源だったので、アルバムを売るためにツアーをしていたわけですが、一方、グレイトフル・デッドは、ライブで稼ぐビジネスモデルを作りだしたと言われてます。

会場では、ライブ録音は禁止されるどころか、奨励されていました。録音する人は「テーパー」と呼ばれ、彼らが録音しやすいように専用のスペースも用意されていました。その狙いは、コンテンツを無料にすることでリーチ(広がり)を増やす点にあったのです。ことごとく音楽業界の常識の真逆をいっていたんですね。その頃はもちろんインターネットもない時代。ライブ会場でファンによって録音されたテープは、さらにファンからファンの手にわたって、その裾野を広げていくわけです。そうしてまだライブに行ったことのないファンが、次のツアーのときには観客になっていく。

普通の考え方なら、会場で勝手に録音された音源が出回ってしまえば、レコードが売れなくなってしまうから、禁止だってことになりそうなところ、グレイフルデッドは全く逆の手法を取っていたのですが、結果としては、よりよい音質で録音されたオフィシャルなライブ盤がさらに売れるという現象も起こっていたようです。

ファンのコミュニティが広がっていくという考え方

厳重な囲い込みをするより、管理をゆるくすることで、ファンのコミュニティが広がっていくという考え方ですね。バンドは、そんなコアなファンのために、いろいろなサービスを用意していきます。新しい顧客を増やしたいと考えた場合、多くの場合は、例えば、新規会員には入会金無料とか、特典で新しいファンを獲得しようとするけど、彼らは逆に熱心なファンをより大事にしてたんですね。情報が優先的に届いて、コンサートの良い席のチケットを購入できるようにしたり。

コンサート会場でもそのような考え方は実践されていて。コンサートではふつう、オフィシャルグッズが確実に売れるようにするため商品の販売を禁止します。でも、グレイトフル・デッドのライブ会場では、ロゴマークを使って行商人たちが駐車場で商売をしていたっていうんです。シャツやステッカーをはじめ様々なグッズを売ってもうけていたのです。グレイトフル・デッドは行商人のコミュニティとも手を組み、ライセンス料さえ払ってくれれば使用を認めました。行商人をパートナーにしたのです。その結果、行商人たちはバンドが考えつかなかったようなユニークで面白い商品をいろいろとつくりました。これって、今どきの言い方では、オープンイノベーションですよね。

ファンベースマーケティングの先駆け

グレイトフル・デッドの成功の裏には、実は、彼らが純粋に音楽を愛していたという、シンプルな理由があったと言われています。ライブには厳密なセットリストが用意されず、自分たちが演奏したい曲をそのときの気分に乗せて演奏していたという。もちろん、ハプニングもあったでしょうが、ファンは、それをも楽しんでいたんですね。だから、ツアーに帯同して何十回も見ているファンも毎回毎回楽しんでいたという。バンドとそのファンが作っていった、ひとつの文化、現象は、今、ファンベースマーケティングという言葉で語られています。

企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれるのがファンです。ファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売上や事業価値を高める考え方がファンベースです。コロナ危機の中で見えてきたのは、どんな事態になっても、絶対に離れない顧客・ファンを持っているお店、企業、チーム、表現者は強いということでした。この本を読むと、グレイトフルデッドはまさにこうした熱狂的ファンに支えられた、ファンベースの先駆けであったことが、よくわかります。

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