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パーリ語辞典の語順と「あかさたな」

辞書の語順

パーリ語辞典を使い始めてからすぐに、その語順に面食らいました。中学生のころから引き慣れた英和辞典では、アルファベットの順番(a, b, c, d …)さえ覚えれば辞典を引くことができました。しかし、パーリ語辞典はパーリ語の音韻に基づく順番で並んでおり、その順番には馴染みがありません。

英語のアルファベットは歌で覚えられましたが、パーリ語の母音と子音の順番はどうやって覚えたらよいのでしょうか。

結論から先に言うと、日本語の「あいうえお」順が参考になります。

メインの辞書として、「増補改訂 パーリ語辞典 水野弘元 (春秋社)」を使っています。

パーリ語の母音の順番は以下の通りです。
a (ア), ā (アー), i (イ),  ī (イー), u (ウ), ū (ウー), e (エー), o (オー)
長音が含まれますが、日本語の「あいうえお」順と同じですので問題ありません。

パーリ語の子音の順番は以下の通りです。
(ṃ), k, kh, g, gh, ṅ, c, ch, j, jh, ñ, ṭ, ṭh, ḍ, ḍh, ṇ, t, th, d, dh, n, p, ph, b, bh, m, y, r, l, ḷ, v, s, h
一見すると日本語と関係なさそうですが、この順番は日本語のいわゆる「あいうえお」順と関係があります。

付箋を貼って とにかく辞書を引く

パーリ語辞典に貼り付けた語順のメモ

最初は、辞書の表紙に語順を書いたポストイットを貼り付けましたが、辞書を引くたびに毎回参照するのは面倒すぎます。

英和辞典と同じように小口にシャーペンで語順を書きましたが、見づらいです。分量的に数ページにも満たない語があるので、物理的に書きづらいという問題もあります。

一日に何度も辞書を引くようになったので、最終的には、どのページからどの文字が始まるか分かるように付箋を張りました。

パーリ語辞典に貼った付箋

付箋を貼るのは面倒な作業ではありますが、一旦貼ってしまえば素早く引けるようになるので便利です。英語の辞書のように、小口にあらかじめ印刷してくれていると良かったのですが、コストの関係で印刷されてないのでしょうか。

一年近くも辞書を引いていれば、さすがに大体の順番は覚えることができました。

サブの辞典として「新版 パーリ語佛教辞典 雲井昭善 (山喜房仏書林)」も使いますが、こちらは付箋なしで使っています。

パーリ語と日本語の語順が似ていることを知る

パーリ語辞典を引くのにもようやく慣れ始めた頃、「日本語の50音図はサンスクリットを参考にして作られた」という事を知り驚愕しました。

50音図とは、縦が「あいうえお…」、横が「あかさたな…」の順番で並んでいる以下の様な表のことです。

| あ || さ || な || ま || ら ||
|| き || ち || ひ ||   || ゐ |
| う || す || ぬ || む || る |   |
|| け || て || へ ||   || ゑ |
| お || そ || の || も || ろ ||

詳細については次の動画が参考になります。

ことラボ「なぜ日本語は「あいうえお」順なのか?」

日本大百科全書の「五十音図」には以下の様な記述があります。

なお、現在の順序は明らかに悉曇(しったん)章(サンスクリットの字母表)に基づくものであるが、五十音図の起源自体は、むしろ日本語の音韻表あるいは漢字音の反切(はんせつ)の便宜のためにつくられたものとみられている。

「五十音図」より抜粋: 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

普段使っているパーリ語辞典にも、ちゃんと書いてありました。そして、サンスクリット(梵語)とパーリ語の音韻は類似しているので、日本語の50音図はパーリ語の音韻にも使えそうです。

とにかく, インド語では梵語とパーリ語の音韻は大体類似しており, 日本語の五十音韻の起原をなしているが, 梵語の ś, ṣ の2字だけはパーリ語になく (パーリ語では ś, ṣ と s と一体となる), その他は同一である.

パーリ語について: 増補改訂 パーリ語辞典 水野弘元 (春秋社) 

パーリ語と日本語の語順を比較する

パーリ語の語順です。

  • (ṃ), k, kh, g, gh, ṅ, c, ch, j, jh, ñ, ṭ, ṭh, ḍ, ḍh, ṇ, t, th, d, dh, n, p, ph, b, bh, m, y, r, l, ḷ, v, s, h

日本語の語順です。

  • ア, カ, サ, タ, ナ, ハ, マ, ヤ, ラ, ワ

時代を遡るとサ行はチャ行、ハ行はパ行の発音だったと言われていますのでサ→チャ、ハ→パ と置き換えます。

ア, カ, チャ, タ, ナ, パ, マ, ヤ, ラ, ワ

それぞれを対応させてみます。
(パーリ語の ca は「チャ」、va は「ヴァ」もしくは「ワ」と発音します。)

  • (ṃ)

  • カ, ガ (k, kh, g, gh)

  • (ṅ)

  • チャ, ジャ (c, ch, j, jh)

  • (ñ)

  • [反舌音] タ, ダ (ṭ, ṭh, ḍ, ḍh)

  • (ṇ)

  • タ, ダ (t, th, d, dh)

  • ナ(n)

  • パ, バ (p, ph, b, bh)

  • マ (m)

  • ヤ (y)

  • ラ (r, l, ḷ)

  • ワ (v)

  • s, h

どうでしょうか、大体同じなのではないでしょうか。
すごくないですか、これ。

鼻音の ṃ, ṅ, ñ, ṇ をあいうえお順に含めるのは難しそうです。
s, h についてはよく分かりません。私は「s, h は最後」と覚えています。

まとめ

つまり、
パーリ語辞典は「ア, カ, チャ, タ, ナ, パ, マ, ヤ, ラ, ワ」の順番で引けばよい
ということになります。特に辞書を引き始めたばかりなのであれば、良いガイドにはなるのではないかと思います。

私も p, b, m, y, r あたりの順番の記憶がまだ怪しいので、「ハマヤラワだから・・・」と考えながら辞書を引いています。熟達するとそんなことを考える必要もなくなるのでしょうか。

ところで、大学のパーリ語講座では、このようなことを教わるのかどうかが気になるところです。 「早く知りたかった」という気持ちもありますが、今となってはどうしようもありませんね。

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