【英語版刀剣乱舞】俺こそが「本歌」か、「山姥切」か
この記事は英語版刀剣乱舞に関する第二弾です。前回の内容を引き合いに出しまくるので、よければ合わせてお読みください。
テキストについては日本語版Wiki及び英語版Wikiにお世話になっています。なお英語版Wiki、日本語版テキストも記載があるのですが、ちょいちょい誤字脱字があるようなので、うっかりコピペして間違えてたらすみません。
前回のまとめ
山姥切国広:写し→copy、reproduction/偽物→fake
「山姥切の写し」→「a copy of Yamanbagiri」
「偽物なんかじゃない」→「not a fake」
ソハヤノツルキ:写し→replica、fake blade
「坂上宝剣の写し」→「a replica of a greater sword」「the fake blade」
蜂須賀虎徹:贋作→fake/本物&真作→genuine/本当の→ture
「本当の虎徹」→「a ture Kotetsu」
長曽祢虎徹:贋作→forgery、fake、confeit/本物→real
「長曽祢虎徹の贋作」→「the fake of Nagasone Kotetsu」
「本物(の虎徹)」→「real Kotetsu」
特に「fake」はかなり多義的に使われていて、国広は「偽物」、ソハヤは「写し」、蜂須賀と長曽祢は「贋作」の訳として使っていますが、それに対して「forgery」は長曽祢が「贋作」の訳として使っているのみです。
前回と同じく、引用に関しては大体
のような順番で表記します。和訳はGoogle翻訳やDeepL翻訳を参考にしつつ、単語の違いが分かりやすいように直訳やカタカナ語を多用しています。あまりあてにしないでください!
山姥切国広 補足
前回記事のときはまだ見落としていた項目などです。
山姥切国広のキャラクター設定文
初期刀である国広は、刀帳だけでなく初期刀としてのキャラクター設定文もWEB上で公開されています。英語版Wikiにはないようなので公式サイトを見てみました。
DMM刀剣乱舞公式 https://www.dmm.com/netgame/feature/tohken.html
英語版刀剣乱舞公式 https://official.touken.johren.net/en/
……「the」original ではないことが悩み!?
originalにつく冠詞が不定冠詞の「an」ではなく定冠詞の「the」ということは、「the original」は直前に語られる「モデルとなった剣」を指しているということなので、英語版の説明では国広は「自分のモデルになった霊剣『山姥切』ではないことが悩みの種」ということになります。
日本語の「オリジナルでないことがコンプレックス」とはずいぶん響きが違いますね!!!(発狂)(発狂したのはこのせい)
実際、原作でも本丸ボイス「化け物斬りの刀そのものならともかく、写しに霊力を期待してどうするんだ?」などは「霊剣ではないこと」にコンプレックスがあるが故の強がりと解釈できますし、万屋などで言う「写しなんか」も、普遍的な意味での「写し」なんかではなく「本科とかたちが似ているだけの霊剣ではない写し」なんか、という意味に取れます。
つまり、少なくとも英語版における「オリジナルでないこと」とは、「自分のモデルになった刀剣ではないこと」「山姥を斬った霊剣の『山姥切』ではないこと」という意味に限定されている。
山姥切国広の内番
国広は馬当番・畑当番でのみ「山姥切」という固有名詞を口にしますが、
英語版では「Yamanbagiri(山姥切)」に「the original」をつけています。このため、名詞のみの日本語と比べると、「俺のオリジナル」というニュアンスが強くなっています。
このあたりも、「オリジナルでないことがコンプレックス」の「オリジナル」が「国広が模した霊剣『山姥切』」を指すというイメージを補強しています。
山姥切国広の審神者長期留守後台詞
これを踏まえて長期留守後を見てみます。
自分でfake言ってる…。
「after all」には「予想や期待に反したことが起きたときの『結局』」というニュアンスがあるそうなので、審神者に対して「自分を霊剣じゃなくても使ってくれるんじゃないか」と期待していたけど違った、とがっかりした感じがします。また、これが原文のニュアンスに忠実な訳だとすると、日本語版ではここで国広が言う「写し」は「俺」という意味ということになります。
日本語と英語のテキストを比べると、日本語では「写し」の概念があるのでその範疇で踏ん張って強がっていたところが、英語版では「copy/fake」と分解されてしまい、「俺なんかどうせ『山姥切』の偽物」という自虐が日本語以上に表に出てきている印象です。
と、そんなことを踏まえて長義の話に入ります。
俺こそが「本歌」か、「山姥切」か
山姥切長義の名乗り「俺こそが長義が打った本歌、山姥切」は、よく見ると「本歌」と「山姥切」の間に読点があります。このため、彼の主張の中心がどこにあるのか、大きく二通りの解釈の余地があります。
俺こそが長義が打った本歌→俺が本歌(の山姥切)
俺こそが山姥切→俺が(本物の)山姥切
その二つって同じじゃないの? と言いたいところですが、どうも同じじゃない可能性があるという話を他の記事で何度かしているのですが、英語版でさらに同じじゃないかもしれない可能性が出てきました。
山姥切長義(Yamanbagiri Chougi)
まずは入手から。
いきなり入手方法によって「俺こそが長義が打った本歌、山姥切」に訳し分けがあります。まさかの「the original」がついている単語が違う。
聚楽第優入手、いわゆる監査官個体のほうは「the original Yamanbagiri」という表現で、国広が内番で使っている表現そのままです。「俺こそが」などから漂う「俺が噂の山姥切だよ」という雰囲気が若干強くなっています。
対して通常入手のほうは「the original Touken」となっており、「俺はオリジナルの刀剣だ」という表現です。
(2024/4/20追記:「長義」についても「Chogi」と「Chougi」の表記違いがあることを確認したので修正しました。監査官の使う表記は国広の手紙の表記と一致しています)
つまり、最初に言った二通りの解釈について、監査官個体は「俺が山姥切」のニュアンス、ドロップ&シール交換個体は「俺が本歌」のニュアンスに重心があることになる。
また、「original」は「本歌」の英訳ではありますが、英語だけ見るといわゆる「一次創作」的な「オリジナル」の意味も強そうに見えます。
次に刀帳。
入手と同じ名乗りに関しては、通常入手と同じ「the orginal Touken」のほうの英訳になっています。
「偽物くん」は長曽祢も「贋作」の訳に使っている「forgery」でばっさりです。そのあとに「似ていない」という話をしているので、「fake(紛い物)」よりは「forgery(偽造品)」のほうがしっくりは来ます。
ここで気になるのが「長義作の刀」で使われている「forge」
「鍛刀する」の訳として一般的な動詞ではありますが、長義が「偽物くん」に使っている「forgery」と語幹が同じ言葉でもあり、三つ目として「偽造する」という意味もあります。
入手時のセリフ、そして刀帳後半にもある「長義が打った」に使われているのはより一般的な「create(創造する)」
これは「original」との関連で「0から創られた」というニュアンスの表現と考えられますが、これがある以上、必ずしも「forge」を使う必要はないはず。このため、「forgery」との言葉遊びも感じます。
やや脱線しますが、「forge」が使われている「備前長船の刀工、長義作の刀だ。」という一文は刀帳にしか存在しません。ゲーム中で、回想も含む「刀帳」には近侍のボイスがなく、本丸情報も見えなくなる仕様です。このため、刀帳は「審神者が一人で見ている」設定なのではないか? という説があります。その審神者向け自己紹介と思われる刀帳で「長義作の刀だ」という部分を「俺こそが~山姥切」よりも先に持ってきているのも、深読みしたい事実です。「山姥切」についても、決め台詞はあくまで「長義が打った」という形容詞とセット。そして刀帳で長義が最初に言及するのも「山姥切長義」という名乗りと異なる名義。
長義と知り合いの南泉一文字の刀帳が
という感じで「南泉一文字(なんせんいちもんじ)」というフルネームに触れていないこともあり、長義が本気で「山姥切」だけを主張したいなら「山姥切長義」には言及しないことも可能なのでは? という気もするため、個人的にはかなり気になります。
もっと言えば、長義が完全に「山姥切」でしかないなら、長義は名義自体が「山姥切」であるほうが自然とも言える。しかし、長義の名義は「山姥切長義」であり、本人もそれを刀帳で自認している。
回想56 ふたつの山姥切―「偽物くん」は「嘘つきくん」?
というわけで刀帳での「偽物くん」は「forgery」なのですが、「ふたつの山姥切」ではどうなっているかというと。
回想其の56「ふたつの山姥切」
PART 56: The Two Yamanbagiri(2つの山姥切)
違うのかよ!!!
国広が気にしている「fake」に引っ掛けてかこちらは「faker」
動詞「fake」に「er」をつけて擬人化(?)しているので、「偽物くん」の直訳とも言えますが、造語ではなく「偽造者、うそつき」などを意味するれっきとした英単語でもあります。また、引用のあとですが長義は「fake」を動詞(騙す、騙る)として使っているので、「偽物くん」というよりは「嘘つき」的なニュアンスにも見えます。
ちなみに、「Hello there(やあ)」はカジュアルで親しみを込めた表現だそうです。
それに対する国広は「Not fake. 」とまずはフェイクを否定、「Although I am a copy(コピーではありますが)」と付け加える形になっています。「Although」は「だけれども」という逆説を意味しますが、同じ意味の「though」に比べると、書き言葉でフォーマルな印象になるそうです。
実際、国広は刀帳では「I'm not a fake though(だが俺はフェイクじゃない)」と「though」を使っているので、カジュアルに「Hello there」と呼びかけた長義を相手にフォーマルな「although」が出てきたのは興味深いです。「フェイクじゃない」と反射的に否定しながら、「コピーではありますが」とフォーマルな言葉で訂正したその感情。オリジナルに対して少なくとも緊張しているように見えます。
「acknowledge(アクナリッジ)」は「(口に出して)事実を認める」、「recognaize(レコグナイズ)」は「(頭の中で)事実を認める」というような違いがあります。
つまり、長義は国広に「お前は俺のこと(存在や功績?)を他者に伝えないまま山姥切を名乗っている」と文句を言っていることになります。
それに対する「That's not true(それは真実じゃない)」は「That」が指す内容が取りきれませんが、日本語と同じく「そんなことは(してない)」くらいの抗議っぽい。
国広が「山姥切」をストレートに名乗っているならともかく、「俺は山姥切国広(I am Yamanbagiri Kunihiro)」や「山姥切の写しとして(as a copy of Yamanbagiri)」を「山姥切を名乗っている」と見るのは苦しいように見えるのは日英共通です。また、国広としては本丸ボイスで「化け物斬りの刀そのものならともかく、写しに霊力を期待してどうするんだ?(そういうのは本科に期待しろ)」と言っていたり、出陣時も「山姥退治なんて俺の仕事じゃない(本科の仕事だ)」と大変拗ねた態度ではあるものの「山姥を斬った『山姥切』は本科」と匂わせてはいるので、さすがに名を騙っているとまで言われなくても……という雰囲気です。(ちなみに英語版も音声は原作そのままのようなので、テキストのないセリフには英訳がなさそうです)
なら長義は何に文句を言っているのか。
後半は日本語にかなり忠実に「俺がここにいなかった」から「どうしようもない」「俺がここにいる以上」「認識されるべきは」俺という流れです。
ここで注目したいのは、後半の『山姥切』には「the "Yamanbagiri"」と「the」がついていること。「こそが」のニュアンスとも考えられますが、文脈上はこの会話でそれより前に出てきた「Yamanbagiri」、つまり国広が名乗っている『山姥切』を指しているとも考えられます。
また、さきほど言った通り「認識されるべきは俺」に使われている「recognize」は「頭の中で(言外に)」認めるという意味です。
つまり、長義が言っている言葉には「お前が名乗っている『山姥切』とは俺のことだと思われるべき」という解釈の余地もある。
そうなるとここでの「the "Yamanbagiri"」についても、「俺こそが山姥切」という解釈と「俺こそが本歌」という解釈の両方が成り立ちそうに見えます。
そして「faker」についても、「お前は自分が『山姥切』だと偽っている」の他に、「お前は自分の本歌について偽っている」という解釈の余地がある。
国広が本歌について偽っている可能性などあるのか?
あります。国広は修行前には一切「長義(Chougi)」について言及しません。長義は入手時に必ず「長義が打った(created by Chougi's hand)」という表現を使います。
だから長義が文句を言っているのは、お前の本歌をちゃんと「長義の刀」だと紹介しろという部分の可能性がある。そして、修行前の国広がそもそもそれを知らなくて、長義はそれも知っているから「自分が『山姥切』だと教えてあげようと思っただけ」と意味深に去ってしまうのではないか……とか。
長くなってきたので、続きはまた次回に持ち越します。
南泉と長義の回想55と、山姥切国広の修行と極が中心になる予定です。
追記:次の記事できました