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共和国創建73周年慶祝民間および安全武力閲兵式

2021年9月9日に行われたパレード(閲兵式)は、近年では珍しい人民軍ではなく準軍事組織主体で行われました。規模は小さめで、弾道ミサイルが登場する訳でもないため期待度は低いかもしれませんが、個々を見ていくと興味深い点がいくつも見受けられます。

まず、閲兵式に触れる前に北朝鮮の準軍事組織について簡単に触れてみます。北朝鮮の軍隊は朝鮮人民軍で、それとは別の準軍事組織として存在するのが労農赤衛軍です。かつては労農赤衛「隊」と呼ばれていましたが、近年になってからは「軍」という呼称と扱いに変更されたようです。名前から分かるように、農民たちによる地域防衛、戦時下には実際の戦闘に加わる民兵組織です。

装備は基本的に人民軍の第一線から退いたものが多く、58式小銃(AK-47Ⅲ型)をはじめ49式短機関銃(国産化されたPPSh-41)やモシン・ナガンライフル、DP28機関銃など第二次大戦時の旧式武器が今でも現役です。ただ、88式小銃(AK-74)や国産の73式軽機関銃など人民軍の第一線級装備も配備されています。また他には迫撃砲、グレネードランチャー、対空砲、榴弾砲、ロケットランチャーといった重火器も多数保有します。

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沿岸防衛訓練のためAGS-17グレネードランチャーや63式107mmロケット砲、迫撃砲を配置する労農赤衛軍(KCTV)

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RPG-2と65式37mm対空砲(KCTV)

そして今回は鉄道省、楽元(ラグウォン)機械連合企業所等各機関や工場の縦隊に加えて社会安全軍が大々的に登場しました。社会安全軍はかつて内務軍と呼ばれ、内務省の管轄下でしたが、2020年に社会安全省と社会安全軍へと改称されました。社会安全軍は国内の治安維持を任務としており、他国の警察や消防任務も担っています。特に消防については殆ど不明な点が多く今回の閲兵式で得られた事実は大きいと考えます(後述)。

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去年10月10日の党創立75周年慶祝閲兵式で登場した社会安全軍縦隊。バイザー付きヘルメットにヘリカルマガジンタイプの88式小銃を携帯(KCTV)

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社会安全省のBYD G6パトカー(KCTV)

本題に入りますが、前述の通り労農赤衛軍と社会安全軍による閲兵式な為人民軍は居ません。ただ、序盤のパラグライダー降下や航空機の花火の演出は人民軍航空及び反航空軍によるものでしょう。

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夜空の花火とパラグライダー降下(KCTV、労働新聞)

労農赤衛軍は平壌や各都市各地方の縦隊で、68式と見られる小銃を携帯しています。銃剣を装着したものとそうでないものが混在し、また一部はRPGの発射管や携行式地対空ミサイル(MANPADS)を持っています。

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68式小銃、MANPADS、68式として国産化されたRPG-7(KCNA、KCTV)

労農赤衛軍はトラクターに牽引されたBM-11 122mm多連装ロケット砲、MANPADS及びATGM(対戦車ミサイル)を公開しました。パレードにトラクターという例は過去にもありましたが、今回は2016年または2017年から生産が開始された金星トラクター工場の千里馬(チョンリマ、チョルリマ)-804が使用されました。本来ブルーの塗装のみだったもののOD色に塗装されており、最新のトラクターが労農赤衛軍でも使用されていることが明確に判明しました。

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閲兵式での千里馬-804。下は2017年11月に金正恩が金星トラクター工場を現地指導した際の千里馬-804(KCNA)

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2013年の共和国創建65周年慶祝閲兵式で登場したBM-11牽引トラクター。トラクターは1958年に生産開始された千里馬-28の後期型(EPA/LANDOV)

注目すべき点として、最新のATGMである9M133コルネット(AT-14スプリガン)が登場したことでしょう。このATGMは北朝鮮では火の鳥または不死鳥を意味する名前を冠したBulsae-5として導入されているようですが、その全容は謎に包まれています。北朝鮮のみならず世界的に見ても新しく性能も優れたATGMが、人民軍だけでなく労農赤衛軍にも配備されているのはそれだけ数に余裕があるからでしょうか。新型ATGMの大量配備は、対峙することになる米韓戦車にとっては厄介な要素に成りうるかもしれません。

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Bulsae-5こと9M133コルネット(KCTV、労働新聞)

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MANPADSを荷台に装備したZIL-130トラック(KCTV)

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中国製の長江M15(白頭山としてコピーされている模様だが詳細不明)サイドカーと先導する平和自動車のポックギ2008(KCNA)

またミリタリーには関係ありませんが、個人的に興味を惹かれたのが社会安全省の消防車です。北朝鮮の消防関連は殆ど知られておらず、消防車についても情報が皆無です。それだけに、今回はよい収穫がありました。今まで発行された切手でしか見られなかったメルセデス・ベンツ1726消防車と、2014年にロシアから寄贈されたKAMAZ-43253が参加したからです。ベンツについては特徴的なスリーポインテッド・スターが社会安全省のエンブレムで隠されています。

なお、他に確認出来た北朝鮮の消防車としてはZIL-130、中国重型汽車集団(CNHTC)のHOWOベースの消防車が存在するようです(切手絵のみながら勝利58ベースの消防車も存在する模様)。

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登場した消防車は6台でメルセデス・ベンツ1726消防車、同はしご車、KAMAZ-43253が2台ずつ(KCTV)

今回、人民軍ではないということで少々肩透かし感のある閲兵式でしたが(去年の特大サプライズ的な閲兵式のインパクトを多少引き摺ってた)、代わりになかなか見られないものを多数確認出来た点では見るべきものだったと思いました。次の閲兵式は恐らく来年4月の筈なので、要チェックです。

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