見出し画像

アサガオ【小説】

僕は今とても幸せな毎日を送っている。毎日美味しいご飯を食べて、沢山遊んで、ふかふかの布団で眠るんだ。
僕には産まれつき胸のところに模様がある。
家族はアサガオの花みたいだって言うけど、僕には全く分からない。
優しく頭を撫でてもらうと僕は嬉しくてたまらなくなって僕の尻尾は左右に絶え間なく揺れ続けるのだ。
「ジョンは今日も元気いっぱいね」
アサガオみたいな模様があっても僕の名前は
【ジョン】
そう僕は犬である。

「裕、ジョンの散歩に行く時間よ」
「はーい!ジョン散歩にいくよ」
裕君の声だ!家族は皆好き。でも裕君はとっても大好き。
まだ小さい頃の裕君はお母さんと一緒に僕の散歩をしてくれたけど、そんな裕君も大きくなって今では1人で僕の散歩に行ってくれるようになった。
散歩に行く時間が嬉しくてついはしゃぎすぎて裕君は小走りで僕のリードを握っているんだ。
ある日この家族の一員になった。裕君のお父さんとお母さんは僕をあの狭くて暗くて怖い場所から優しく抱き上げてくれた。あの日のこと僕はずっと忘れないよ、そして裕君は突然やってきた。
産まれて始めて見た裕君はいつも泣いてばかりだった。どうしていいか分からなくて僕は裕君の側にいつも寄り添っていた。不思議と僕が側に行くと裕君は全然泣かなかったんだ。裕君はだんだん大きくなって今では大きな鞄を背負って学校というところに通っている。
遊べる時間は減ってしまったけどこの夏の暑い時期になると1日中一緒にいられるんだ。

そんなある日、裕くんは不思議なものを持って帰ってきた。
「ジョン、これを荒らしたりしたらだめだよ」
裕君はそう言ってその不思議なものを家の軒先に置いて行った。なんかとても気になるけど、きっと大切なものだから僕は遠くから眺めていることにした。

それにしても今日は暑い。始めは嬉しくて走っていた僕も裕君と同じペースで散歩していた。今日はいつもと違ったコースだ。裕君は何かを一生懸命見ながら歩ているからきっとお母さんにお使いを頼まれたんだ。これは僕と裕君に課せられた任務だ。きっと成功したら帰って沢山褒めてもらえる。なにより僕は裕君のお兄さんだから僕が守ってあげなくちゃ。
大きなトラックが僕たちの横を通りすぎた時、風に煽られて裕君の帽子が飛んでしまった。
「あっ、帽子」
裕君は帽子を拾おうと向こうの道路に駆け出した。
裕君危ない!!
いきなり駆け出した裕君を車がギリギリの所でかすめて取りぬけていった。
心配になってすぐに裕君の元に走っていく。

「ジョン!」

裕君の声だ!大丈夫だった。僕は嬉しくて今すぐにでも裕君の元に駆け寄りたかった。

「ジョン!きちゃ駄目だ!」

空と・・・
雲が・・・
こんなにも近くに広がって...

「ジョン!!ジョン!!」

裕君の声で目を開けると空や雲はずっと高い場所にあって、裕君が僕の名前をずっと呼んでくれていた。
裕くんを見て安心した僕は大丈夫だよって教えてあげたいのに思うように動けないんだ。
あ…。こんなに泣いてる裕君を見たのは、裕君と初めて会った時いらいだ。
僕がいつでも側にいてあげるから、だから泣かないでよ裕君。
いつも裕君は泣き止んでくれたのに、今日は全然泣き止んでくれないんだ。
裕君はずっと大きくなったのに、お父さんやお母さんが困ってしまうよ。
僕は裕君のお兄さんだから、僕がずっと守ってあげるから。
もう泣かないで。
ずっと泣いてる裕君を見てると僕も悲しくなってしまうよ。
大好きな裕君も、裕君の大切なものも、僕に幸せをくれた優しい家族も僕がみんなみんな守ってあげるんだから。
僕の顔に沢山の水玉が降ってきた。空はこんなに青いのに変だね。

         【裕君、傘を取りにおうちに帰ろうよ】
 

ジョンが居なくなって、数日たった。血まみれで地面にうずくまっていた僕を近所の人がお母さんに言ってくれて迎えに来てくれた。

「お母さん・・ジョンが・・・ジョンが・・・」

お母さんは何も言わずに僕とジョンを抱きしめてくれた。
お父さんとお母さんと一緒にジョンのお墓を作って僕は学校から持て帰ってきていた植木鉢をジョンの隣に置いてあげた。

                     「僕の大好きなジョン」

思い出すと涙がポロポロ落ちてくる。僕は袖で顔をぬぐった。
泣いたらジョンに“泣かないで”て言われてる気がする。泣き虫だった僕をジョンはいつも心配そうに見つめて寄り添ってくれた。あの時もジョンは心配そうに僕を見上げて僕の顔に鼻を近づけて寄り添ってくれた。

朝、いつもより早起きをして、ジョンのお墓と植木鉢の所に向かった。

「お母さん!ジョンが帰ってきたよ」
「あら?咲いたのねアサガオ」
「違うよ、ジョンだよ!ほらジョンの胸の模様とそっくりだよ」
お母さんは僕とアサガオをずっと見つめて、静かに頷いた。
 

奇麗に咲いたアサガオをみて裕君はとても嬉しそうだ。
このお花がアサガオっていうんだね。
裕君、僕はずっと裕君の側にいるよ。もっと大きくなっていく裕君の側に。だから、ずっと笑っていて。
ずっと笑顔でいて。
裕くんに、僕はここにいるよって何度も駆け出して行くのに、裕くんもお母さんも通り抜けてしまうんだ。
なんだか悲しいな…
僕は幸せだったよ。今でも幸せな毎日をずっと思い出すよ。
僕はアサガオの模様がある犬のジョン。
大好きな裕くん、大切な家族、僕の宝物。
家族にしてくれて本当に
                       

                      【ありがとう】


                                                                    古城零音

★トップの画像は青柳 政孝様のみんなのフォトギャリーより借り致しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?