刺客の訪れ(15)

 本部に行くと紅夜がもうすでに前に立っていた。
「紅夜、何故待っていたのだ?」
 冷雅が思わず聞くと紅夜は振り返った。
「一人で羅貴様のところに行くのが少し不安だから」
 紅夜は目頭を押さえながら言った。紅夜も昨日あまり寝られなかったらしい。


「それはそうだな」
 冷雅はついてくるよう合図しながら言った。
「ありがとう」
 紅夜はそういうとついてきた。
 ホールに入ると誰もいない。
 紅夜がそっとサーベルの柄を持っているのに気が付いた。
「紅夜、何を……」
 冷雅が聞こうとした瞬間、紅夜は指で静かにするよう合図した。
数秒後、上からまた黒装束の男たちが現れた。全員で三人いる。昨日冷雅と羅貴が仕組んだ者たちではなく、本当の刺客だ。ホールの天井の梁の上に潜んでいたに違いない。


 紅夜が男たちが現れたとほぼ同時にサーベルを抜き、一人の息の根を止めた。
状況を判断した冷雅は気づけなかった自分の愚かさに対する怒りも込めて襲いかかってきた刺客をぐさりと突き刺した。あまりの力にサーベルの刃が相手の背中にまで突き抜けていた。
 グハッ
 刺客が吐いた血が自分の顔を濡らす。


 そして最後の一人を走り出し始めた怒りが自分を操り刺客を殺そうとした。しかし、急に紅夜が目の前に飛び出してきた。急いで減速したが間に合わず紅夜の頬を軽くサーベルが薙ぐ。
 紅夜の白い頬に赤い線ができる。冷雅はふっと血の気が引いた。
「待て、尋問する必要があるだろう」
 そういうと頬に無頓着のまま後に後退しようとしている男の膝を暗器で刺した。もう刺客は逃げることは出来ない。
「そうだな」


 冷雅は急に冷静になった。そして紅夜の頬の傷から血がつーと流れているのを見た。
「頬のことはどうでもいいけど、こいつらが自害用の毒を持っていないか見てくれない?」
 冷雅は男の懐を探った。その間に紅夜は男にサーベルを突きつけている。
「あった」


 冷雅はそういうと毒の入った瓶を取り出した。匂いを嗅いで確認する。
「それでは連行するのにもう少し人手が必要だ。呼んでくるからここを頼む」
 紅夜はパッと駆け出した。
 冷雅は冷静沈着だった紅夜に対して怒りまかせにしてしまいそうになった自分に歯がゆい思いがした。


「冷雅様、捕獲したのですね」
「二条院様、我々が連行していきます。他の二人も紅夜様と共に討ってくださっていたのですか」
 紅夜は一歩下がったところに立っていた。顔が青ざめている。


「紅夜、顔色が悪いぞ」
 冷雅が連行されていく刺客一人と外に運ばれていく二人を見ながら言った。
「顔に血が……」
 なんと冷雅の顔に着いた血を気にしていたらしい。我が事のように顔が白くなっている。
「ああ。ただの返り血だ」
 冷雅が袖で拭こうとした。
「待って」
 紅夜が急いで白のハンカチを取り出した。汚れてしまうのも気にせずいそいそと拭いていく。


「私は大丈夫だ。それより、頬の事……」
 言いかけたがもう紅夜は後ろを向いて羅貴の事務室に向かっていた。
「早く報告した方がいいわ」
 紅夜の顔は見えなかった。

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