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拷問屋と囚人

「それで、まだ君は期待しているのかい?」
 朔隼は暗い地下牢で問い詰める。囚人の額からは滝のように脂汗が流れている。


「仲間が、この……この軍の基地にやってきて助けてくれると?あり得ない妄想をする前に考えてみたまえ。自分の目の前にいる私に何か情報を渡したら助けてくれるのではないか……とね。私は噂よりも優しい男だよ。さぁ口を開いて正直に言ってごらん」
 囚人の顔がほっとしてように緩んだ。

 朔隼はひそかに笑みを漏らしながらまだ問い詰める。魅惑的な口調で話すのはなれたものだ。
「私は薄情者ではないよ。さぁ、君の命に値するぐらいの情報を言ってごらん。君の命はどんなものよりも尊いだろう?人はみな生きる価値があるのだから。さぁ、君の価値に相当する情報をくれるよね」
 朔隼がほほ笑む。囚人は安心して情報を渡す。


   そして朔隼は言う。
「それじゃあ。楽しい夢を。死後の世界でね」
 いつものごとく裏切ったなと囚人がわめく。


 それでもなお追い打ちをかけるかのように言う。
「君の命に対して比較できないほどとても有益な情報だったよ。人はみな死ぬ義務があるんだよ。生きるのは勝手にすればいい。壊れやすい人形さん。壊れていいよ」
 その言葉を合図にしたかのように囚人はがっくりと顔を下げた。


「はい。尋問終わり。こいつは死刑ね。わかっていると思うけど手っ取り早くしてよね?いつも時間がかかって仕方ないから」
 朔隼はそういいながら椅子に優雅にすわる。


「はい。ただいま羅貴様に検印を押していただきにまいります」
 獄吏が一人去っていく。冷雅もたまに尋問するが冷雅の尋問はただの理論詰めだ。相手が吐くまでどんどん証拠、正解に等しい推測を口にする。労力の無駄だ。


 それよりも期待させて落とす。信用していた人に裏切られればもうそいつの心は壊れる。牢と言う絶体絶命の時に助けてもらえると思っていた人に裏切られるとは心への負担が一番大きい。そこで羅貴曰く『廃人』にしてしまうのだ。
 
 朔隼は獄吏が検印をもらいに行っている間に部下が紙を一枚持って現れた。
「何だい?」
 部下は跪いて紙を差し出した。
「紅夜様の衣装のデザインです」
 朔隼はしなやかな手つきで紙を受け取った。


 デザインを見て朔隼はほほ笑んだ。
「素敵だ。職人には明日までに必ず作るように言っておいてくれ。時間厳守だとね。どれだけ脅しても構わないよ。あとお金を目の前で見せてもいい。好きなだけ使ってくれ。まぁ何かしたら君がそこの人、いや、人だったものみたいになるよ」
部下は震えながら礼をして去って行った。


朔隼はため息をついた。部下の怯えようにはもううんざりだった。
「さあさあ。紅夜。君はさっさとかかってくれるかな?私という名の檻に」
 朔隼はそう呟いた。
 
 朔隼は久しぶりにスーツを着た。シュッと音を立てて真っ白のジャケットを羽織る。
「紅夜も今ごろ美しい囚人になっているかな?私の選んだ美しい囚人服に身を包んだ私という牢にいる囚人さんはどうなっているだろう」
 下男に問いかけた。下男はまたびくびくしている。今回の使用人はおびえぶりがうっとうしい。


「はっはい。今……着替えを終えて、そっその、アクセサリーをつけているところです」
 たじたじとした答えだ。
「わかった。それじゃあ。君はもう用なしだ。選ばせてあげるよ。突き刺されたい?あ、わき腹を切るっていうのもあるけど?好きな方を選んでくれ」
 使用人は息をのんだ。


「あ、言わなかったっけ?火影家ではね。気に入らない使用人を殺していいっていう決まりがあるんだよね。私としてもそんなことしたくないんだけど、まぁ今回はさすがに寛大にはなれないかな。ほとんどがさ、給料に目をつられて入ってくるんだけどきちんと契約規約を最後まで読まないとだめだよ」


 朔隼は一通り説明してから下男に向き直った。
「で、どっちがいい?」
 下男は震えながらサーベルを指さした。まったく、どちらかわからないじゃないか。
「痛くないようにすましてあげるよ。私は寛大だからね」
 朔隼はそういってサーベルを構えた。ためらいもない一撃。ドサリと音を立てて倒れる下男。


 それにあまりにも無頓着な朔隼。
「ゆっくりお休み。悪夢を楽しんでね」
 朔隼はそう囁くと平然と死体の横を通って、事務所を後にした。

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