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君にしかできないこと

「私(わたくし)は……天皇家直属の護衛官の華族、月影家の一人娘なの」
 ぼそりと紅夜が言った。月影家など聞いたこともないと思っていたが冷雅は頭の奥底にあった。

父上との記憶が蘇っていた。まだ幼少のころ、二条院家について父上を困らせるほど質問していた時期があった。
「二条院家は天皇家をお守りする家なのですか?」
 そう聞くと父上は少し困ったような顔をして
「そうとも言えるが、いかなる時でも天皇家に服従しているわけではない。それは聞いた噂によると天皇陛下には剣と書物と唄われる直属の家があるそうだ。天皇家直属の護衛官 月影家。同じく天皇家直属の策士 火影家」

 冷雅はいきなり思いだしたことに圧倒された。なぜ最近自分はたくさんの事を忘れ、一つの事にめり込んだり、自分の考えに没頭していたのだろうか。


「最近俺は視野が狭くなっていたようだ。すまなかった……許してくれ」
 冷雅はそういうと部屋を出た。紅夜が何か言おうとしているのはわかった。しかし、それに答える自分であれるかどうかが分からなかった。

 羅貴の部屋に呼ばれた。
「冷雅、頼みがあるんだけど」
 冷雅は羅貴の軽い口調に眉をひそめた。
「どうかなさいましたか?」
「冷たい反応だな。まあいいんだけど。紅夜を元気にしてくれないか? 昨日からずっとうつむいたままで、心の整理ができていないみたいなんだ。話を聞いてやってくれよ」
「羅貴の方がそういうのは得意だろ」
 冷雅はすかさず言った。自分が行ったところでさらに紅夜の気持ちをかき乱すだけだろう。
「そうだよ。でも冷雅が行ってくれないと。僕はすることがたくさんあるんだ。色々とね」
 羅貴はそういうと書類を机から引っ張り出してきた。
「それじゃあ、そういうことでよろしく」

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