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真実と憤怒

朝になっていた。起きると母上がすぐ横にいた。ハンカチで目をぬぐっていた。
「冷雅……冷雅」


 冷雅はふっと体を起こすと母上が驚いたようにハンカチを取り落とした。サッとベッドを出て、ハンカチを拾うと母上はまた涙で目を濡らした。
「ああ。冷雅。昨日の夜危篤状態だったのですよ。お父様は今お医者様とお話になっています。大丈夫なのですか?顔色がひどく悪いわ」
 母上が自分の額に触れた。


「あら、熱は下がったようね。ひとまず家に帰りましょうか。羅貴様たちはもう出仕していらしたわ。冷雅?」
 冷雅は椅子に置いてあった軍服を持っていた。
「私も行きます。母上少し出ていていただけますか?」
 冷雅はそういって、部屋の戸を開けてせかした。


「安静にしないといけないのよ」
 母上は心配でたまらないというようにおろおろと言った。
「今日は重要な会議があります。早く帰りますので」
 と言って押すようにして母上を部屋から出した。
 素早く軍服に着替える。コートに腕を通してから冷雅は部屋を出た。サーベルを母上が持っている。


「……これが必要でしょう。行ってらっしゃい」
 母上はそういうとまた別室に入って行った。きっと父上がいるのだろう。
 冷雅は歩き出した。羅貴の屋敷を出て、本部に急ぐ。その間にも紅夜のことが頭から離れない。


 紅夜はなぜ自分の記憶を消したのだろうか。そしてなぜあの薬を持っていたのだろうか。そして自分はなぜあんな秘密めいた意味が分からない相手にうつつを抜かしていたのだろう。そしてなぜ紅夜は忘れさせておいてまた誘惑するような真似をしているのだろう。誘惑と言うかなぜまた自分の前に?もとから近づいてきたのは二条院家の財産目当てでさらに自分のとりこにするために一度忘れさせてから劇的な出会いからの結婚を狙っていたのではないだろうか。なぜいつも自分のいたところにいたのだろうか。


 考えたことにまた怒りを感じて足取り荒く歩いていると自分がもう羅貴の事務所の前という事に気が付いた。
「失礼します」


 冷雅が入ると羅貴と朔隼そして紅夜がいた。
「冷雅‼大丈夫なの?安静にしていなくて。本当に心配したわ。貴方が危篤状態になったと知らせが来たときはもう……。ああ、何か言ってよ」
 紅夜がかけてきた。そして自分の手を握っている。
「どけ」
 冷雅は低い声で言った。紅夜は固まった。手を放さなかったので乱暴に振りほどいてから言った。
「俺の記憶を消しておいてよく言えるな」
 その言葉で紅夜が完璧に固まった。

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