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夜のドレス

 朔隼は紅夜がいるという寮の前に向かった。そこにはもうすでに冷雅、羅貴がいた。
「こんばんは。冷雅、羅貴」
 朔隼がほほ笑んだ。


「ああ」
 羅貴はそういうと朔隼の方に詰め寄った。
「紅夜の服どんなのにしたんだ?」
 真剣な顔をしていたので朔隼は少し目を泳がせてから、
「見てのお楽しみといきましょうよ」
 と言った。冷雅がため息をついた。


「どんな服だろうと本質は変わらないだろう。服の豪華さで醜美を決めていたらそこらの富豪の夫人たちが一番の美女になる」
 少し皮肉の入った言葉に朔隼も眉毛を釣り上げた。だから冷雅は厄介だ。賢くて自我をそう簡単には忘れない。


「そういってもらえると嬉しいわ。冷雅」
 そういって階段から降りてきたのは紅夜だった。
 予想通りのドレスだ。


 黒に近い青の生地の上に小さな金箔がちりばめられておりまるでラピスラズリのようだ。袖なしのところは前のドレスと同じだが黒に近い生地と白い肌が対照になってよりドキリとさせられる。長い裾が地面までつく。後ろの方に行けば行くほど長くなっていく。黒の肘まである手袋が妖しい雰囲気を漂わせている。


「うわぁ。予想はるかに超えてきた」
 羅貴がコソコソと朔隼に耳打ちする。朔隼が
「そうですか?私は紅夜が何を着てもこんな風に優雅で、繊細で魅惑的になることは予想していましたよ」
 紅夜に聞こえるように言うと紅夜は少し顔を赤くした。

 少し下を向いたときに髪を一つにまとめていることにきづいた。髪についているのは朔隼があげた髪飾りだ。イヤリングもしている。小さな金の飾りが付いているだけだ。しかしただの球ではなく少しボコボコしているまるで月面のようだ。その凹凸のせいでさらに光を上品に跳ね返している。


 冷雅は、と言えば固まって何も言えなくなっているようだった。
「それでは我が夜の姫君。参りましょうか」
 朔隼はしとやかに手を差し伸べた。


「ありがとう」
 紅夜は少し冷雅の方を向きながら答えた。
 朔隼はその様子が煩わしくてそっと眉をしかめた。
 紅夜の手が軽く朔隼の手に触れる。朔隼は慌てて穏やかな笑みを作り、颯爽と歩き出した。


「朔隼。ドレスをありがとう」
 紅夜が少しためらいがちに言った。
「私が君に渡したかったからあげたんだよ。予想通りの姿で私は今とてもうれしいよ」
 紅夜の反応を確かめると少し強引な理論に戸惑っているようだったがふっと頬を緩ませた。
「そうなの」
 朔隼は自分がうまい方向に誘導できている事を実感した。

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