帝都軍本部(7)
「お待たせしました」
建物の前で待っていると紅夜が出てきた。
男物の軍服だからだろうか肩はばがやはりあっていないがズボンの丈の長さなどは少し短いぐらいだった。冷雅と同じ黒の軍服に銀の縁取りがしてある。つまり軍の長である羅貴の護衛官という事になる。
「質問なのだけど、短剣はどこに持ったらいいのかしら?いつもなら生身の剣を腰に挟んでいたんだけど軍服じゃそうもいかないでしょう」
紅夜はタガーを見つめながら言った。
「お前……紅夜にはこのサーベルを持ってもらう。皆が紅夜がサーベルも使えるとわかってからなら短剣を使う事を許すと羅貴が言っていた」
紅夜は冷雅の言ったことに少し驚いた顔をした。
「なぜ羅貴と呼んでいるの?」
冷雅はため息をついた。こんなに話して同じ場所で時間をつぶしたことはない。
「幼馴染だ。行くぞ」
冷雅は歩き出した。着慣れた軍服のロングコートのすそが揺れる。紅夜よりも一ランク上の服だった。襟に桔梗が銀の糸で刺繍されている。これは羅貴が最も信頼するものという象徴だった。
少し長くなってうっとうしくなってきた前髪をかきあげながら紅夜がどんな表情をしているか見た。
紅夜は目の周りがこわばったように何度も瞬きをしている。
「着いた」
昨日いたところは刑務所付きの軍の基地だったが本当に仕事するのは帝都本部だった。
「帝都軍本部」
紅夜はそういうとふっとほほ笑んだ。その時にきちんとネクタイが結べていることに気が付いた。
「ネクタイ……できたんだな」
そう言うと紅夜は自分の紺のネクタイを見ながら言った。
「昔……したことがある」
紅夜の顔が妙に歪んで冷雅をそのままの顔で見た。
「あの……」
そう言いかけていたが途中で頭を振り
「なんでもない」と言いなおした。
「そうか。それでは入るぞ」
と言って冷雅は本部に入った。
本部のホールの壁には何度見ても目が痛くなるような金が使われている。
「これは敵が来たときにまず足を止めるようにっていう事かしら?」
冷雅は何とも言わず羅貴の事務室に案内した。
「入ってくれ」
羅貴の軽い声がした。
「失礼します」
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