夢という名の記憶~Ⅰ~
自分が今、採寸を終えた真新しい軍服を着ている。十五の時に違いない。父に「外の見回りをしてきてくれるか?小さな軍人さん」と笑いながら言われた。いつもは厳格な父なのに自分の姿を見て喜んでいるらしい。なので馬鹿にしたような言い方でも少しうれしくなって外に出た。母もにこにこ笑っている。
外へ出て数分後。華族街に一人の少女が現れた。綺麗な黒髪を一つに束ねている。迷子らしく辺りをちょろちょろ見ている。服は上質なものだったのでどこかの令嬢だと思った。
「どうした?俺に手伝えることはないか?」
その少女に声をかけた。くるりと振り向いた。その顔は誰かに似ている。誰かの顔を少し幼くしたような顔だ。誰だ?
家がどこにあるかわからないという少女は疑っているような年不相応な目をしていた。鋭い目だ。まるで武芸者のような。
家の位置を聞くと帝都の関所の前と言う答えが返ってきたので冷雅は驚いた。あそこには家がなかったからだ。でも少女は心配そうな顔をしている。なのでそこまで送ることにした。
名前を聞いている。でもその声が耳に届かなかった。
不安を紛らわしてくれたらいいと思い、自分の事を話すと少女はほほ笑んでくれた。誰かに似た自然な笑みだ。帝都の関所までつくと彼女は
「また会えたらいいわね」
と言った。少女ではなくまるでキリリとした女の顔だった。
「冷雅……冷雅……冷雅!」
紅夜の声だ。
「冷雅。起きて。冷雅!」
うっすら目を開けると自分が羅貴の部屋にいるのに気づいた。
「冷雅。大丈夫か?」
羅貴も慌てたような顔で冷雅を覗き込んでいる。しかしその顔も紅夜の真っ青な顔には負けない。もともと白い顔をさらに白くして、眼には涙を浮かべている。
「……大丈夫……だ」
声がかすれているのに気づいた。紅夜は冷雅の顔をジッと見つめ、ほほ笑んだ。
「冷雅……よかったわ。お医者様曰く高熱で命も危ういと言われたのよ。ああ、冷雅。冷雅……」
紅夜はいつもの冷静さはどこへやら、弱弱しい声をあげて、自分が今、寝ているらしいベッドの前に跪いて上半身を冷雅の足元に投げ出すような形になっていた。
「……紅夜……」
冷雅はかすれ声で言ったが朔隼が影のように現れて
「紅夜、廊下に出ておこうか」
紅夜は首を振ってベッドにしがみつくようにしていたしかし、ふっと朔隼にお姫様抱っこされて去って行った。羅貴は朔隼をやれやれという目で見ていた。
「あいつ、何する気だ?」
そう羅貴が呟いたのが聞こえた。
「羅貴。見張ってもらえるか?」
冷雅はまた頭がぐらっとするのを感じて言った。
「わかった。お前の看病はそこの侍女に任せるよ。大丈夫。彼女は彼氏持ちで一途なたちだから。惚れられることはまずないよ」
羅貴はそういってから部屋を出て行った。
またしても意識が遠くになって行くのに気が付いた。
「冷雅様?大丈夫ですか」
侍女が慌てて、医者を呼びに行った足音がした。
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