策士の蜜語

 ダンスが始まった。ゆったりとしたワルツだった。
「君の今日のドレスと私の仮面。二つが一緒にあると非常に秘密めいたものに感じるね。この軽薄なパーティーが。秘密と言えば、私(わたくし)は君に秘密にしていることがあるよ」
 朔隼は近い距離だからこそさらに効果のある言葉を選んだ。


「私は君のことがどうも好きではないらしい」
 紅夜が少し顔を青くした。不安というか何故か恐怖に陥ったらしい。
「君のことを愛しているようだ。単調すぎる言葉では言い表すことができないよ。君を愛している。私はこんな男ではなかったのだけど、恋のやつにしてやられたらしい。闇路を迷っているのは君のせいだよ」


 紅夜の顔が青から急激に桃色に変わる。まるでマロウティーにレモンを垂らしたような感じだ。
「お戯れをするのもほどほどにしておいてくれる?」
 紅夜はそういいながら朔隼にリフトされる。ふわりとドレスがなびく。おりた瞬間を狙って
「戯れ?戯れならよかったと思うよ」
 朔隼はふっと紅夜を地面すれすれのところまで倒すようにしてから腰を支えて起こしてきた。紅夜はドキリとしたようだった。頬に赤みがさす。急に顔との顔の距離が近くなる。
「君はどう思う?」
 曲が長い余韻を残して終わった。自分の言葉が紅夜の頭の中に余韻を残して響いているのを朔隼は確信していた。

 冷雅を見てかすかに呟く。紅夜には決して聞こえないように。
「そろそろだね。忘却薬が切れるのは」

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