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策士のパーティー

朔隼はパーティーでの計画を考えた。
 目を閉じる。
 パーティーで一緒に踊ってやろうか。それとも酒に酔ったふりをして思わず本当のことがポロリと出てしまうギャップを仕掛けるのも策だな。踊る相手に紅夜を真っ先に選んでやろうか。その時に優雅な動きをかなぐり捨てて思いっきり大股で歩いていく。そして強引に唇まで奪ってやろうかな。いや、そんなことよりももっと……


 朔隼は考えながら紅茶を飲む。帰る準備と羅貴と冷雅には言ったが、ここに住んでいるので帰る準備はないのだ。天皇を操ったおかげと言うものだろう。
「……フフフッ……フフフ…ハハハハハ」
 朔隼は思いっきり笑った。策士としてどれほどまでに狡猾になったのやら、自分にも見当がつかない。今回は自分の失敗の後始末だ。そうそう得意になってはいられない。


 唯一殺すはずの人を殺し損ねたのだ。紅夜。なぜか家にいなかった。残念なことだ。でもこれから自分の手でゆっくりと首を絞めてやれるのだ。これは大変楽しみな事だろう。

 翌朝、髪をといてから一つにくくって軍服の襟元を正すと事務所をでた。今日は羅貴にパーティーの誘いを受けに行かなくては。自分で仕組んだのに自分で招待されるというのは誠に皮肉たっぷりだ。

 刺客も何人か準備しておく必要がある。紅夜と冷雅を襲わせたときは自分を登場させるために仕組んだもの。紅夜と街で会ったときは自分の真剣な顔を見せて誘惑するため。三人もの命を無駄に使っても別に大したことはない。人生はからくり。人は壊れやすい人形だ。


 廊下を歩きながら考えた。そして羅貴の事務所前で一息置いて入って行った。中にいるのは三人。一人は女性。つまり紅夜の確率が高い。
「失礼します」
 中にいたのは予想通り羅貴、冷雅、紅夜だった。
「よいところに来たな。朔隼。陛下主催のうちでするパーティーに来ないか?昔からこういうのは朔隼誘っても断られてたけど。今回ぐらい来なよ」
 羅貴が予想通りの事を言うので朔隼は笑い出しそうになった。
「朔隼、笑いたそうな顔だな」
 早速冷雅に指摘させてしまった。
「いえ、真剣なご様子が面白くて。わかりましたそこまでおっしゃるなら行きましょう。紅夜はどうするんだい?」


 紅夜は急に話しかけられてびっくりしたようだが顔を少し下に下げて
「私(わたくし)は……遠慮しておきます。ドレスは一着しか持っていないので同じものを着ていると皆に笑われます」
 と言った。
「大丈夫だよ。ドレスは私が勝手ながら作らせてもらったから。明日までには君のところに着くよ。美しい私の姫君」
 朔隼はそういいながらほほ笑んだ。
「私(わたくし)は……別に……」
 紅夜は困ったように眉をしかめていた。そこに羅貴が
「紅夜もまた来なよ。冷雅とまた踊ったらどう?あっ僕でもいいよ!」
 羅貴は今上司の顔ではないせいかやけに子供らしい口調をする。その様子に紅夜はほほ笑んで
「わかりました。覗く程度でいさせてもらいます」
 と言った。

 朔隼は
「羅貴。悪いけど紅夜のダンスのお相手は私がさせてもらうよ。美しい姫君の手を取れる絶好の機会だからね」
 と言いながら紅夜の横にするりと立つ。紅夜は驚いたように冷雅の方に少し寄った。
 まだ冷雅の方に気持ちが傾いているに違いない。気に入らない。
「それでは失礼」
 朔隼はそういうとまた部屋をでた。


 冷雅のことが自分が隣にいるのに気になるとはまだまだ誘惑しきれていない。
 朔隼は軽く眉をひそめた。
「そろそろ本腰をいれるかな」
 朔隼はそう呟きながら歩いて行った。今日も尋問することはたくさんあるのだから紅夜ばかりに時間を割く暇はない。


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